「今度こそ、と一緒に戦えるのですね」
対策本部の会議の後、あたしとヒューバートは会議室に残って後片付けをしていた。
資料をまとめて、椅子を綺麗に並べ直しているとヒューバートがポツリと呟いた。
あたしがヒューバート直属の部下になれた今、今度こそ確実に一緒に戦える。
夢が叶うまで秒読みといったところだ。
まさかこんなに早くチャンスが訪れるなんて思いもしなかった。
「うん、長かったね」
ずっと、待ち焦がれていたものが手に入る喜び。
だけど、それと同時にあたしはヒューバートへの想いを伝えなければならない。
昔、ヒューバートは勇気を出して伝えてくれた。そして、今度はあたしの番。
だけど、彼はまだ待っていてくれているのだろうかと思うと不安でいっぱいになる。
まだ一緒に夢を叶えたいと言ってくれてはいたけれど、告白の返事のことまでは…どうなんだろうなぁ。
あの時、「ずっと待ってる」と言ってくれた。だけどそんなのは一時の感情だったかもしれない。
それに、、ヒューバートは女の子にモテる。
可愛い女の子との出会いもいっぱいあっただろうし、
もうあたしのことなんてとっくに好きじゃなくて他の女の子を好きになってしまったかもしれない。
うう、あたしは自分の気持ちに気付くのが遅すぎたよね。
告白する前に聞いてみた方がいいのかな。
ヒューバートはまだあたしのこと好きですか、と…。
「あのね、ヒューバート!」
「何ですか?」
ヒューバートが微笑みながらあたしを見つめてくる。
その表情を見て、あたしの頬に熱が篭るのを感じた。
ちょっと待てよ…「あたしのこと、まだ好き?」なんて聞いたらこれは告白しなきゃいけない流れになってしまうよね!?
「あ、いや…」
思いとどまり、あたしはブンブンと首を横に振った。
ま、まだ一緒に戦えることが決まっただけで、戦ってないじゃないか。
告白には早いよね、うん。
「何でも、ない…ごめん」
「…?」
不意に、ヒューバートがあたしの額に手を伸ばした。
突然の事に、あたしは目を丸くする。
「顔が赤いですよ、熱があるんじゃないですか?」
顔が赤いのは、ヒューバートのせいなんだけど…!
彼はそんなことにも気づかずにどんどん顔を近づけてくる。
あたしは変に意識してしまって、顔が火傷するんじゃないかってくらい熱くなる。
「ち、違うよ!ちょっと今暑いだけだから!おっかしいなー、また大輝石が不調なのかなー!?」
必死にヒューバートの手を振り払った。
やばい、危なかったぜ…あのまま心臓が飛び出して死ぬかど思ったわ。
少し熱を冷ましに行こう。
「あ、あたしちょっと外に行って飲み物買ってくるよ」
「わかりました。無理はしないでくださいね」
「本当に暑いだけだって。ヒューバート心配しすぎー!」
おどけて笑ってみせると、ヒューバートは苦笑いを浮かべた。
「心配にもなりますよ。に何かあったら、僕は…」
「ヒューバート…ありがとう」
どうしよう、ドキドキがとまらない、どんどんヒューバートを好きになっていく。
今このまま好きだって伝えてもいいんじゃないかって思う。
…うわあ、ダメだ落ち着け落ち着くんだあたし!
冷たいものを飲んで一息つこう。
扉の取っ手に手を掛けようとした瞬間、扉が勢いよく開かれた。
危うく接触してしまいそうになったけれど、なんとか間一髪で避けた。
「うっわぁ!?」
「人がいたのか、すまない…ん?!こんな所にいたのか!」
聞き覚えのある声と、見覚えのある姿。
扉を開けた犯人を見て、あたしは絶句した。
後ろでヒューバートが驚愕の声を上げる。
「リチャード陛下!?」
そのリチャード陛下はあたしの手を取り、ギュッと握ってきた。
一国の王がこんな場所にいるなんて誰が予想できるだろう。
そして、ヒューバートの怪訝そうな視線があたしとリチャード陛下の手に向けられる。
だけどリチャード陛下はあたしの手を握ったままで、離そうとする気配がない。
あたしは申し訳なく思いつつ、慌ててリチャード陛下の手を振り切った。
「あの、どうしてリチャード陛下がここに…」
「今閣下と話をしてきてね、この辺りの暴星魔物を退治しようということになったんだ。
それで、が暴星魔物第三対策本部を任されたと聞いたからよければ一緒にどうかと思ってね」
そういえば大統領も言っていた気がする、ウインドル、ストラタ、フェンデルの三国で
暴星魔物の被害が特に酷いのは我がストラタだと。
それでウインドルからわざわざ陛下ご自身が加勢に来てくださった、ということなのかな。
「そうですね、リチャード陛下がご一緒ならとても心強いです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
リチャード陛下が嬉しそうにウインクする。
そこへ、ヒューバートが詰め寄ってきて、あたしとリチャード陛下に疑いの眼差しを向けてきた。
「…、いつの間にリチャード陛下と知り合ったのですか」
確かに、ストラタの兵が、しかも救護部隊であるあたしが普通に考えて
ウインドルの国王と知り合う機会なんて皆無のはず。
数年前リチャード陛下がパラディ家に宿泊した時に知り合ったなんてこと絶対言えない。
もちろん、あたしが大統領の娘だと言う事は秘密だけど、リチャード陛下はそれを知っている。
でもヒューバトは違う。これはかなりヤバイ。
あたしが大統領の娘だということは絶対バレたらいけない…!
「えっ!あ…何年か前にちょっとね!」
「ふふ、あの時から君は変わらないね」
リチャード陛下が微笑む。
ヒューバートの前なのに、リチャード陛下がそんなことを言うものだからあたしは冷や汗をかいた。
もおおおお!リチャード陛下ちょっと黙ってくださらないかなあああああああ!?
「陛下あの少しよろしいでしょうか」
あたしはニコニコ笑いながらリチャード陛下の手を掴む。
力が入ってしまっていたのか、リチャード陛下は苦痛の表情を浮かべたけど、あたしはそんなの気にしない。
「あの時、偶然ストラタに訪問されていた陛下が怪我をしたあたしを助けてくださった時のことは
心から感謝しています。ですが、あの時陛下は身分を隠しておられましたよね。
貴方がウインドル国王だと知った今、以前のように接する事はできません」
咄嗟に思いついた嘘を口にして、なんとかヒューバートを誤魔化す作戦に出る。
お願いだからあたしに合わせてリチャード陛下ぁぁぁあ!
「…そうか、残念だよ。だけど僕個人的には君を友だと思っている。
だからそんなに畏まらずに普段どおりに接してほしいんだ」
リチャード陛下が寂しそうな表情を浮かべた。
あたしに合わせてくれたことには感謝するけれど、普段どおりに接するのはどうなのかな…。
ヒューバートと顔を見合わせると、彼はうっすら笑いを浮かべた。
「いいんじゃないですか、。リチャード陛下もと仲良くしたいんですよ」
…ヒューバートがそう言うなら、いいかなぁ。
「…わかりましたけど、周りの目もありますので、せめて敬語は使わせていただきます」
あたしが頷くと、リチャード陛下が嬉しそうに笑う。
昔のことがあるとはいえ、リチャード陛下があたしと仲良くしたがる理由がいまいちわからない。
あの時だって、少しお話した程度で、それ以来会ってもいなかったのに…。
「それにしても、二人にはそんな過去があったとは驚きましたよ」
ヒューバートがメガネの縁に手を当てて目を伏せる。
そうだね、吃驚だろうね…。
でも、いつかあたしが大統領の娘だと知ったら、もっと吃驚するんだろうな…。
「ああ、あの時から僕はのことを気に入っていてね。いつかはウインドルに来てもらいたいと思ってるんだ」
「「…は?」」
リチャード陛下の爆弾発言に、あたしとヒューバートの素っ頓狂な声が重なった。
18:国王の暴走
(そ、それはどういう意味ですか!?)
(そのままの意味だよ。でも、何故ヒューバートが慌てるんだい?)
(は我がストラタ軍にとって必要不可欠な存在ですから!!)
(へぇ…?)
執筆:12年5月3日