ヒューバートと一緒に戦うという夢は叶った。
それに、小さい頃からの夢は「軍に入ること」で、「軍に入って偉くなること」ではなかった。
だからもう、あたしが軍に残っている必要もないんじゃないかと思う。

軍人を辞めてパラディ家の…大統領の娘という本来のあたしに戻る道を行く方がいいのかもしれない
…と誰もいない会議室で一人考えて小一時間。
それでもやっぱり、今まで頑張ってきたし、人間関係もヒューバートのことさえ除けば良好だし
今ここで辞めてしまうのは勿体無いんじゃという思いもある。そう簡単には決められない。

、ここにいたのか。話があるのだが」

会議室の扉が開かれ、大統領…お父様が神妙な面持ちで入ってくる。
お父様はもちろん、あたしとヒューバートの夢のことを知っている。
きっと、夢が叶ったことでパラディ家に戻る事を説得しに来たのだろうか。

「そろそろ軍人を辞めてパラディ家の娘に戻れとのことですか?」

「それもあるのだが、お前にとってそのことより重要な話だ」

お父様の真剣な表情はブレることがない。
どれだけ重い話なのだろうと思い、あたしはゴクリと生唾を飲み込んだ。

「…あたしが軍人を辞めることより大事な話とは一体なんなのですか」

そう問いかけると、お父様はゴホンとひとつ咳払いをする。

「お前ももう18になる。そろそろ結婚を考えてもいい頃だと思っているのだ」

「…結婚、ですか」

まさかその話になるなんて思ってもいなかった。
そうだね、あたしをパラディ家に戻すには結婚が一番手っ取り早い方法だよね。
…知らない殿方と結婚して、ヒューバートのことを忘れるというのもいいかもしれない。

「もう相手方の両親にはお見合いの話をつけてきていてな。大変喜んで下さった」

段々とお父様の表情が緩んでいく。
そんなに相手の事を気に入っているのだろうか。
しかし、お父様がそれほどに気に入る殿方って一体誰なんだろう。

「はい…それで、その相手と言うのはどなたなのです?」

すると、お父様は嬉しそうに微笑んで

「ヒューバート・オズウェルだ。お前もよく知っているだろう」

確かに、そう言ったのだ。
あたしの思考は一瞬ショートして、なんとか持ち直す。
ええと、ヒューバート・オズウェルって、あのヒューバートのことだよね?

ちょっと待ってよ。嘘、でしょ…!?

確かに彼はお父様に気に入られている。それはここ最近の彼の戦果を見れば誰もが納得するだろう。
だけど、何故よりによってヒューバート。

「…お父様、は今日ほどお父様に殺意を抱いた日はございません」

「何を言っている。お前達は昔から仲が良かっただろう。わたしはヒューバートを軍人として評価しているし、
の相手としても申し分ないと思っている。お前も彼なら文句はないだろう」

あたしはその彼にはパスカルさんという想い人がいることを知って傷心しているというのに。
不満の声を上げるあたしに諭すように語るお父様。

「いいえ、お父様。ヒューバートは私がパラディ家の娘でお父様の娘だということは知らないのですよ!?
まさか正体をバラせと仰るのですか!?」

「それについては、軍を辞めるまで黙っておけばいい話だ。それに、例えお前がお見合いをしなくても
いずれは彼にも話さなくてはならない時が来るだろう?お見合いの時に驚くヒューバートの顔が楽しみだな」

いずれはヒューバートにも話さなくてはならない。確かにそうだけど…。
ヒューバートにはあたしではない別の想い人がいらっしゃるのですよという言葉が喉元まで出掛かった。
だけど、こんなに嬉しそうなお父様はなかなか見れるものではない。
お見合いの話、相当楽しみなんだろうな…。

「…そう、ですね」

お父様があまりにもノリノリで、あたしは反論できずにただ俯いてしまった。
ヒューバートとお見合いだなんて…何でこのタイミングなんだろう。勘弁して欲しい。

「それと、。今日はリチャード陛下が我が家の客室に宿泊なされるから、
今日は兵舎ではなく家に戻り、陛下の話し相手になって差し上げなさい」

「…わかり、ました」

正直、今は誰にも会いたくなくてあまり気が進まなかった。
だけど、リチャード陛下はあたしが大統領の娘ということを隠して
軍人をしているという事情を知っている数少ない人だ。
もしかしたら相談に乗ってくれるかもしれない…!
そう思ったら嬉しくなって、足早にリチャード陛下の元へと向かった。










「なるほど、大統領閣下が君とヒューバートのお見合いを、ね」

「そうなんですよ!もうどうしたらいいかわからなくて…!」

早速リチャード陛下に相談してみる。
聡明なリチャード陛下なら何か妙案を思いついて下さることでしょう。

「確かにヒューバートは大統領閣下に相当気に入られているみたいだし…これは手強いな」

「そうなんです、手強いんですよ!お父様ってばすごく嬉しそうにしちゃって…。
ヒューバートはパスカルさんが好きなんですよね?あの反応はどう見てもそうです。
お見合いなんてしたら、あたしめっちゃ邪魔者じゃないですか!」

それに、ヒューバートは大統領の娘とお見合いすることになったらすごく困ると思う。
あたしはまだ正体をバラしていないから、今のヒューバートからすれば
未だ会った事のない女とお見合いをするということだ。なんだか可哀想。

そんなことを考えていると、リチャード陛下があたしの顔をじっと見つめてきた。

は、ヒューバートのことは何とも思っていないのかい?」

「…え?」

突然ものすごい事を聞かれてあたしは動揺した。

「いや、の気持ちはどうなんだろうと気になったんだ。
はヒューバートにはパスカルさんがいるから遠慮しているように見える。
だけど、もし仮にヒューバートがパスカルさんを好きではなかったら、どうするんだい?」

「そっ、それは…わからないですよ!」

は、ヒューバートのことを好きなのかな?」

もしかして、リチャード陛下はあたしの気持ちに気づいている?
あたしって、わかりやすいのかな…。
でも、リチャード陛下は相談に乗ってくれているのだ。もう全部包み隠さず話すべきなのかもしれない。

「…好き、です。その気持ちに気づいたのは最近なんです。
でもあたしは数年前ヒューバートに告白されてずっと彼を待たせてしまった。
だから、その報いなんでしょうね。あたしにヒューバートの邪魔をする資格なんてないです」

夢が叶うまで付き合うことは考えられないというあたしが我儘を言ったせい。
あの時もっと早くに自分の気持ちに気づいて告白を受けていたらよかった。
付き合っていたって、夢なんて叶えられたはずなのに…つまり、あたしはただ逃げてしまっただけなのだ。

「それなら、僕にしてみたらいいんじゃないかな」

「…え?」

あたしは思わず目を見開いた。
リチャード陛下の言葉の意味がよくわからない。

そして気づけばあたしはリチャード陛下の腕の中にいた。
抱きしめられているということを理解するのにずいぶんと時間が掛かった。
なんで、リチャード陛下があたしを…。

「僕は初めてに会ったあの日からずっと、君のことが好きだったんだよ」

「リチャード陛下…だめですよ、こんなこと!」

「そうだね、ダメかもしれない。どうしても君じゃないとダメなんだ」

額にキスを落とされ、あたしはぎゅっとめを瞑って耐えることしかできなかった。
あたしの目尻から涙が溢れると、リチャード陛下は驚いてゆっくりとあたしから離れる。

「すまない…気持ちが昂ぶってしまって…」

「いえ、あの…リチャード陛下のお気持ちはとても嬉しいです…ですが」

「まだ、ヒューバートのことが好きだから僕の気持ちに応えられない、かな」

リチャード陛下は苦笑いを浮かべあたしの涙を人差し指で拭う。
未練たらたらなあたしを笑えばいいし、軽蔑もすればいい。
あたしはこくりと頷き、リチャード陛下に頭を下げた。

「ごめんなさい…片思いでもいい、もう少しだけ…せめてヒューバートとパスカルさんが
上手くいくまでは、傍らで彼を見守っていたいんです」

ヒューバートはどれくらいの間あたしを待っていてくれたのだろうか。
同じくらい、その苦しさを背負いたいと、思った。



20:せめて傍らで見守らせて




(それじゃあ、彼らが上手くいったら僕との結婚を考えてくれるかい?)
(えっ…それは…わ、わかりませんよ!お父様次第じゃないですかね?)





執筆:12年5月20日