あたしが仕事の引継ぎも終えた頃、ヒューバートたちが暴星魔物たちの親玉を倒したということで、
世界は徐々に落ち着きを取り戻し始めていた。
もう暴星魔物第三対策本部の仕事もほとんど残っておらず、
あたしはゆったりとした日々をパラディ家で過ごしていた。
ここにいれば、ヒューバートと会うこともない。

そしてあとは…お父様に縁談を断るように進言するだけ。
そうすれば、ヒューバートはなんの心置きなくパスカルさんに思いを伝える事ができるはずだ。

そしてあたしは、どうしうようかな。
パラディ家の娘として生きれば、それなりの地位の人との婚姻を結ばなければならない。
…それに、リチャード陛下もあたしのことを好きだと言ってくれていた。
お父様もヒューバート程とまでは行かないけれどリチャード陛下のことを気に入っているようだし、
リチャード陛下から正式に縁談の話を持ちかけられたら、
あたしはリチャード陛下と結婚する事になってしまうのだろうか…。
…いや、それはそうなってしまった時に考えよう。
まだリチャード陛下に正式に縁談を申し込まれたわけじゃない。

、話とは何だ」

お父様が執務を終わらせてあたしを部屋に通してくれた。
いよいよ、縁談を断る事を伝えなくてはいけない。

「お父様、ヒューバートとの縁談の件で相談させて頂きたく思います」

「そうだな、ヒューバートも軍に戻ってきたことだし、早々に準備に取り掛からないといけないな」

嬉々としながら話すお父様。
それを見ていると、断るのがとても悪い事に思えてしまい、躊躇ってしまう。
でも、それじゃダメなんだと自分に言い聞かせ、あたしは口を開いた。

「違うんです…あたしは、ヒューバートと結婚する気にはなれません。
彼のことはどうしても友としてしか見る事が出来ず、夫婦になどはとても…」

あたしの言葉を聞いたお父様が、目を瞬かせた。
そして、目を伏せてしばらく黙り込んでしまった。
お父様は、あたしとヒューバートの縁談をあんなに楽しみにしていたのに、
あたしの我儘のせいで潰してしまった。すごい罪悪感だ。

「…あの、お父様」

「そうか…ならば、リチャード陛下ならどうだ?」

突然、リチャード陛下の名前を出されてあたしは固まった。
どうして、彼の名前が出てくるのだろう…。

「リチャード陛下、ですか…!?」

「ああ、ウィンドルにお戻りになられる前に是非をウィンドルにと言われてな…。
その時はヒューバートとの縁談があったから一度断ってしまったのだが…実のところ、悩んでいたのだ」

まさか、すでにリチャード陛下がお父様にそこまで言っていたなんて。
このままでは本当にリチャード陛下と結婚する事になってしまう。
あたしはまだ、その気にはなれない…。

「そ、その件につきましてはお時間を頂けないでしょうか。
あたしはこのストラタで生まれ育ち、ウィンドルに嫁ぐとなると心の準備が…」

「そうだな…お前が他国へ行くのはわたしとしても寂しい。だが、ヒューバートのことは本当にいいのか?」

「は、はい…ヒューバートとは、いつまでも友でありたいので…」

お父様が心配そうな表情をしている。
だからあたしはなるべく笑顔を作りながら答えた。

「そうか…とにかく、まずはヒューバートとの縁談の破棄をオズウェルに伝えなくてはならないな」

お父様が「オズウェルには悪い事をしてしまったな」とボヤキながら苦笑する。
さて、これであたしは本格的にリチャード陛下とのことを考えなくてはいけなくなってしまったぞ…。
だけど、その前にやらなくてはならないことがある。
リチャード陛下との縁談が決まってしまえば、あたしはどっちみちヒューバートにバレることになる。
これだけは、自分からちゃんと話をしよう。それが、親友として最後にできることだ…。










あたしはヒューバートが今いるというオズウェル邸に向かった。
道中、何度も引き返しそうになるのを堪えてようやくたどり着いたオズウェル邸。
ちなみに、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだと某主人公のごとく念じたことは内緒だ。

メイドさんにヒューバートを呼び出してもらうと、ヒューバートはすぐに出てきてくれた。
ヒューバートはあたしの顔を見た途端、不機嫌な顔になってしまう。
うう、やっぱりそうなりますよねー。

「あの、久しぶりだねヒューバート。少しいいかな」

「…話はぼくの部屋でしましょう」

そうい言われて、あたしはヒューバートの部屋へと通された。
久しぶりに来た、彼の実家の部屋は相変わらずだった。
軍関係の資料の隣に、漫画本が置いてあるのが微笑ましい。

ヒューバートが部屋の扉を閉めるなり、すごい勢いであたしに怒鳴りつけた。

!今までどこに行っていたのですか!ぼくが帰ってきたら軍を辞めていて…捜したのですよ!」

「うん、それはごめん…」

ヒューバートに黙って軍を辞めたこと、怒られるとはわかっていた。
だけど、辞めることをヒューバートに伝えていたら、きっとすんなりと辞める事はできなかったはずだ。

「何故軍を辞めたのですか!何か、あったのですか…?」

とても心配そうな顔をしながらあたしのことを見つめるヒューバート。
あたしはヒューバートのそういう優しいところが大好きだ。
怒られるのが嫌でパラディ家に身を潜めていたけれど…心配させちゃってたんだなぁとしみじみ思う。
ヒューバートは、あたしが嘘をついてたと知ったら、どう反応するかな。
怒るかな、泣いちゃうかな…あまりいい感じにならないことはわかってるんだけどさ。

「ごめんね、ヒューバート」

だから、最初に謝っておく。
ヒューバートはじっとあたしを見つめたまま、あたしが話し始めるのを待っていた。
今までの関係がなくなってしまうかもしれない。ヒューバートに嫌われてしまうかもしれない。
でも、やっぱり今言わなきゃ絶対後悔する。
ヒューバートとの縁談が破棄になった今、お父様はこのままリチャード陛下との縁談を進めるはずだ。
近い将来あたしはリチャード陛下と結婚することになってしまうだろう…
そしたら、もうヒューバートと会うこともなくなってしまうはず。

あたしは意を決して、ヒューバートの目を見る。
よし…頑張ろう。
せめて、最後はあたしの全部を知って欲しい。
ただ、「好き」という気持ちだけは隠して…。

「ええと、軍を辞めた理由については…今までお父様はあたしが夢を叶えるのを見守ってくれたの。
だから今度はあたしがお父様に恩返ししなきゃいけないんだよね…」

「恩返し…?」

「そう。軍を辞めて、貴族に戻ること…そして、お父様の望む方との婚姻を結ぶことが恩返しなわけで」

あたしの言葉に、ヒューバートは目を見開いた。
今まであたしはヒューバートに自分が貴族出身の者だとは伝えていない。
それに、貴族の者が他の家のメイドをしていたりすることもおかしいと、ヒューバートは思ったのだろう。

「貴族…!?あなたは、オル・レイユ出身と聞きましたが…?」

「そんなの最初から嘘。軍に入るのに貴族だなんてバレたら、誰もあたしをあたしとして見てくれなくなるよ。
それと、ヒューバート…あなたのお見合いの件は白紙にしてもらったから安心してほしいんだ」

ヒューバートは眉間に皺を寄せながら、あたしを睨みつけた。

「どういう…ことですか」

あたしはすぅっと息を吸い込み、はぁっと息を吐いた。そして、胸を張って顎を引く。
ヒューバートを見据えて、堂々と本当の名を彼に名乗った。

「あたしは・パラディ。ストラタ共和国現大統領ダヴィド・パラディの娘。そう言えばわかってもらえるよね?」

ヒューバートの動きが止まる。
身体が小刻みに震えていて、まるで世界の終わりのような目であたしを見ていた。



22:さよならと真実






執筆:12年5月20日
修正:12年5月23日