鼻歌交じりにスキップなんてしちゃいながら家に帰って、あたしは部屋に直行した。
伊達メガネを外して、机に向かう。そして勉強。それはいつもの日課だった。
今から2時間後にはメイドの服に着替えなきゃいけない。
あたしのお父様は政治家をしている。来年には選挙もあって、大統領当選確実と言われていた。
昔から大統領になる事を夢にしていたお父様だったから、いつかはあたしも大統領の息女になる。
大統領の息女として扱われてしまえば、軍人なれなくなってしまう。
なれたとしても、親の七光りとか言われるのが嫌だった。
だから、あたしは政治家ダヴィド・パラディの娘ということは内緒にしている。
お父様の姓ではなく、お母様の姓を名乗っているし、
家に帰っても部屋にいるとき意外はパラディ家のメイドのフリをしている。
それを知っているのは家族とメイドたちだけ。今まで1度もバレたことはなかった。

コン、コン。
ゆっくりめに扉が2回ノックされ、あたしは伊達メガネをかけて、返事をする。

、話があるのだが…。」

お父様だった。
お父様はあたしが軍人になる事を快く思っていない。
きっと、そのことについて言われるのだろう。

あたしは唇を噛み締めながらお父様についていった。









「お前は軍学校で確かに成績優秀だ。だが、わたしとしては将来お前が軍に入ってほしくない。
このまま貴族として平穏な生活を送って欲しいのだ。」

お父様の気持ちはわかっていた。
あたしを危ない目に合わせたくないから心配してくれている。

「ですが、軍に入り国のために尽くすのは幼い頃からのあたしの夢です。」

「しかし、お前にもしものことがあれば…。」

「そうならないように、知識を身につけ、剣の稽古もしております。最近は剣だけでなく、銃も習い始めました。」

これだけは譲れなかった。
今ここで軍人になる事を諦めてしまえば、今まであたしがしてきたことは全て水の泡となる。
そんなの、耐えられない。夢を実現させたい。

「あなた、よいではありませんか。この子の将来はこの子のものですわ。」

お母様がティーセットをテーブルに置きながらお父様を諭す。
お父様はうーんと唸って、あたしの顔を見た。

「お前はいつの間にの味方になった。」

が幼い頃に軍人になりたいと打ち明けてくれたときからですわ。」

にこりと笑うお母様。
昔からお母様はあたしの夢を応援してくれていた。
お父様が反対する中、軍学校へ行かせてくれたのもお母様だった。

「お前がどう言おうと、わたしは反対だ!」

どうしてもわかってくれないお父様に次第に苛立ちを覚える。
このまま言い争っても、お父様を嫌いになってしまうだけだ。
頭を冷やさなきゃ…。

「とにかく、あたしは軍人になりますから!」

そう吐き捨てて、家を飛び出した。










家を飛び出して、走って走って、辿り着いた場所。
オズウェル邸の前だった。
何で、あたしはここに来たんだろう。
ヒューバートに会いたかったからなのかな…。
自分でもよくわからなかった。

…こんなところに来たって、ヒューバートと会えるわけじゃない。
アポイントだってとってないのに、あたしは何を考えてるんだろう。

だけど…相談できるのはきっとヒューバートだけだって思った。

「会いたい…。」

無意識に呟いた。
学校の図書室での楽しかった時間が脳裏を過ぎる。

「君は…パラディ家のメイドの。」

突然声をかけられて、ビクッと反応してしまった。
振り返ると、オズウェル家の…確か、レイモン様だ。
任務からの帰りだろうか、軍服を纏っている。

「泣いているのかい?ああ、そういえば君はヒューバートのクラスメイトだったか。」

レイモン様は私にハンカチを手渡してくれた。
あれ、あたし、いつの間に泣いていたんだろう。

「待っていろ、ヒューバートを呼んでこよう。」

そう言ってレイモン様は私の頭をくしゃりと撫でて屋敷の中へ入っていった。
レイモン様に会ったのは初めてのはずだった。ただ、何度か遠くから見かけたことはあった。
軍学校で大統領府の見学に行った際に擦れ違ったことはあった。それだけだ。
そんなことを考えて、しばらく経つ。

、どうしたんですか!?」

ヒューバートが心配そうに駆け寄ってくれた。
こんなこと本当にヒューバートに言ってもいいのだろうか、迷惑じゃないのだろうか。
しばらく黙っていたけれど、考えれば考えるほどつらくなっていって。
あたしは嗚咽と共に、悩みを吐き出した。

「あたし、お父様に軍人になることを反対されちゃって…。」

レイモン様のハンカチを汚すわけにも行かず、手の甲で涙を拭った。

ヒューバートは黙ってあたしの話を聞いてくれる。

そして、あたしの頭を優しく撫でてくれた。

「…ぼくは、貴女と一緒に軍学校を卒業したいです。そして、一緒に軍に入りたいと思っています。」

「ヒューバート…?」

ヒューバートの言葉に、顔を上げれば突然ヒューバートがあたしの手を握った。

「いいですか。一緒に、です!どちらかが欠けるなんて許しません。」

彼は、あたしを励ましてくれているんだ。
諦めちゃダメって、心からそう思ってくれてるんだ。
今日友達になったばかりなのに、まるで昔から友達だったみたい。

「ありがとう、ヒューバート。あたし、もう一度お父様に言ってみる。」

再び涙を拭いた。
もう、あたしは泣かない。
ヒューバートもお母様も応援してくれてるんだ。
ここでくじけるわけにはいかない。

「今日までぼくは、この国に来てから友達と呼べる人がいなかったから…寂しかった。
だけど、がぼくに話しかけてくれて、友達になってくれた。それでぼくは救われました。
が悩んでいるなら、いくらでも相談に乗りますよ。一緒に答えを出していきましょう。」

あたしとヒューバートはしばらく手を繋いだまま、夕焼けに染まる空を見つめていた。



03:君に出会えて良かった




(そういえば、レイモン様に名乗った覚えないのに何であたしのこと知ってたんだろう。)
(それなら、あの人以前大統領府でとすれ違ったときに可愛かったからと目をつけていたそうですよ。)
(…え…えぇー…。)




執筆:11年1月8日