お父様との話し合いの末、なんとかお父様を説得して軍人になる許しを貰えた。
あとはヒューバートと一緒に軍学校を卒業して、軍に入るだけ。
「ふふふーん、今回はあたしの勝ち。」
返却されたテストを上機嫌で眺めていた。
全教科95点以上これはかなり自信があり、案の定ヒューバートより数点あたしの方が勝っていた。
「ま、大差ないですがね。」
「それでも、ヒューバートに勝つのは大変なんだから、数点でも嬉しいよ。」
今ではあたしとヒューバートは一番の親友でライバルだ。
一緒に漫画の話や特撮ものの話で盛り上がったり、テストや実地訓練の成績で競い合っている。
あたしはヒューバートのことを一番の友達だと思っていた。
いつか本で見た、友情の誓い…ヒューバートとやってみたいとは思ったけれど、
ヒューバートはあたしのことをどう思ってくれているのだろう。
お父様に軍人になる事を反対されたことをはじめ、あたしは色々なことをヒューバートに相談している。
もちろん、あたしがパラディ家の娘ということは伏せているが…。
だけど、あたしがヒューバートから相談された事はない。
あたしがヒューバートに頼りっぱなしだから、頼りにされていないのだろうか。
「…、浮かない顔ですね。何かあったのですか?」
あたしがぼんやりしていると、ヒューバートは心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あ、ううん。何でもないの。ぼーっとしちゃった。」
ヒューバートはこうやっていつもあたしのことを気にかけてくれる。
そういえば、あたしはヒューバートのことを気にかけているだろうか。
それに、あたしばかり甘えちゃって、ヒューバートがあたしに甘える隙がないんじゃ…。
「…じー。」
ヒューバートをまじまじと見つめてみる。
今のところいつも通り悩みのなさそうな感じではあるけれど…。
「なっ、なんですか!人のことジロジロ見つめて…!」
あたしにじーっと見られて恥ずかしいのか、ヒューバートの顔はみるみるうちに赤くなっていく。
あたしはそれを見てにこーっと笑う。
「んー、ヒューバートには悩みは無いのかなって思って…。」
「悩みなんていくらでもあります。ただ、に相談するまでも無いくらいの小さな悩みしかありませんから。」
「そうなんだ。」
あたしが頼りないってわけでもなかったみたいだ。
だけど、どんなに小さくてもいいから相談して欲しいなぁと思った。
「あたしばっかりヒューバートに頼ちゃって、ごめんね。」
「いいえ、そんなことないです。それに、頼られたりするのは嬉しいです。
ぼくも昔はよく故郷の兄に頼りっぱなしでしたから、ぼくも頼られるようになったんだって…。」
だんだんと小さくなっていくヒューバートの声。
最後の方なんて、口は動いていたのに、言葉になっていなかった。
…故郷に、お兄さんがいたんだ。
きっと、会いたいんだろうな。もちろん本当のご両親にも。
養子に出されると知ったとき、ヒューバートはどんな思いだったんだろう。
「故郷に帰りたい?」
あたしが訊ねると、ヒューバートの目の色が変わった。
まるで憎悪に燃えるような目だ。
「帰りたい?冗談じゃない。ぼくは両親に捨てられたんですよ。」
あんな場所に二度と帰るものかと吐き捨てたヒューバート。
その表情と声には怒りと悲しみが入り混じっていた。
ヒューバートのご両親が何を思ってヒューバートを養子に出したのかはわからない。
本当に捨てたのかもしれないし、何か理由があってやむを得なく養子に出したのかもしれない。
だけど、これだけは確実にわかる。お兄さんはヒューバートのことを好きだったんじゃないかって。
「少なくとも、お兄さんはヒューバートに会いたいと思ってるんじゃないかな。」
「何でそんなことがわかるんですか。」
「お兄さんの事を話してるときのヒューバートの表情が優しかったから…。
大好きなんだなっていうのがすごく伝わってきたよ。
だから、お兄さんもヒューバートのことが大好きだったんじゃないかなって思ったの。」
「…確かに、兄はいつもぼくに優しかった。少々わんぱくが過ぎるところもありましたけど。」
ヒューバートが小さく微笑んだ。
「そうか…ぼくは家族と故郷に捨てられたと思っていましたが、違ったんですよね。
少なくとも、兄さんだけはきっとぼくのことを待ってくれてる。あの人は、そういう人です。」
あたしはヒューバートのお兄さんがどんな人なのか、知らない。
だから、ヒューバートの思い出の中のお兄さんを見てみたいと思った。
二人は仲のいい兄弟だったんだろうな。
「うん。絶対ヒューバートと会いたいって思ってくれてるはずだよ。」
あたしが微笑めば、ヒューバートは突然あたしの身体を引き寄せた。
抱きしめられる、あたしの身体。
「…!?」
「ありがとう、のおかげで兄さんの事を思い出せました。ぼくは、優しかった兄さんですら恨んでました。」
「ヒューバート…。」
耳元で嗚咽が聞こえてきた。ヒューバートが、泣いてる。
泣く姿を見られたくなくて、だからあたしのこと抱きしめてきたんだ。
可愛いところもあるんだなぁ。
きっと、この数年間ずっと溜め込んでいたんだろうな。
あの腹黒いことで有名なオズウェルさんがヒューバートに愛情を注ぐとは思えない。
故郷の家族を恨んで、友達も作ることも無く、ずっと一人ぼっちだったんだ。
「あたし、これからもずっとヒューバートの親友でいるからね。」
「…っく…、…っ。」
あたしはヒューバートの震える身体をそっと抱きしめ返した。
04:頼り頼られて
執筆:11年1月9日