「うちの部隊のマーレンと仲良くしてるそうですね。」

任務の合間に顔を出してくれたヒューバートがボソっと呟いた。
近くに置いてあったお菓子の包装紙をガサガサと弄りながら。
なんとなく、その表情が悲しそうに見えた。
おやおや、マーレンを取られたと思って嫉妬しているのかな?
それとも、あたしを取られたと思って?
どちらにせよ、それはヒューバートにとってはあまりよくないなぁと思った。

「うん、あの子よく怪我するから…歳も近いせいか先輩たちの所じゃなくてあたしの所に来てくれるの。」

「そうですか。」

包装紙をぐしゃりと握り潰すヒューバート。
う、何だろうこの反応。なんだか少し怖い。というか、何が不満だというのだろうか。
彼が何を考えているのかはよくわからないけれど、自分から話してくれるのを待とう。

「マーレンとはね、ヒューバートの話もするんだよ。」

とりあえずこの話を続けてみよう。
そしたら、何がいけないのかわかる、はずだ。
ヒューバートはあたしから目を逸らせてメガネのふちに手を当てた。

は…すぐに人と打ち解け合う事ができますね。ぼくはのそういうところがとても羨ましいです。」

…なるほど。
恐らくヒューバートはあたしには新しく友達ができたのに
自分には友達ができないということを考えていたのだろう。
やっぱり、マーレンの話してくれてた通りあたし以外の人とはあまり仲良くやれていないんだなー。

「ヒューバート…。」

マーレンから話を聞いた時からずっと考えていたけれど。
ヒューバートにどうやって信頼できる仲間或いは友達を作らせたらいいのか。
今一番“ヒューバートと同じ部隊”で“ヒューバートに興味を持ってくれてる人”から
仲良くなればいいのではないだろうか。
その人物といえば、マーレンだ。

「それなら、マーレンとお友達になればいいんじゃない?
あの子、すごく面白いからきっとヒューバートもすぐに仲良く…。」

「遠慮しておきます。」

あたしのアイディアを一蹴し、ヒューバートは腕を組んだ。
何で。何それ。

「どうして…?」

あたしはこみ上げてくる怒りを抑えながら問いかけた。
するとヒューバートはため息を吐いた。

「ぼくは弱い人と馴れ合うつもりはありません。彼女と任務を共にし、失敗したらぼくの評価も落ちます。
彼女を毎日治療しているならわかるでしょう。任務の度に失敗し、怪我をしているんですよ?
あの人は実力が全く無いですからね。何故軍に入ったのかもぼくには理解できません。」

ヒューバートの目は真剣だった。
心の底からマーレンを蔑んでいる。
確かにヒューバートは昔から成績優秀だったし、任務でもよくやっていると聞いたことはある。
だけど、マーレンに対してヒューバートがそこまで言う必要ってあるの?

「ヒューバートは、評価されたいんだ…?偉くなりたいんだ?」

あたしの怒りは爆発寸前に追い込まれた。
ヒューバートって、こんな人だっけ?こんなの、知らない。

「ええ。一刻も早く地位を得て、人の上に立つ人間にならなくてはいけませんからね。
オズウェル家の為であり、ぼく自身の為でもあり、と同じ任務に就くという夢の為にも…。」

何の為だろうと、ヒューバートの人を見下したような態度は許せないし、
こんなんじゃ誰からも評価してもらえないんじゃない?
任務では上手くやってても、いつかはそれが足枷となってしまうんだ。

「そんないつも他人を見下している態度じゃ、いつか昇進して部下を持った時困るよ。
部下だっひとりひとり感情を持った人間なんだよ。ロボットじゃないんだから。
このままヒューバートが人の上に立っても、きっとヒューバートの命令なんて誰も聞かない。」

そしたら、あたしとの夢だって実現しないままそこで潰えてしまうんだよ?
あたしの言葉を黙って聞いていたヒューバートがテーブルを強く叩いた。
ガシャンと大きな音を立てて茶器が揺れた。

「ぼくだって、ぼくなりに努力しているんですよ!それに、好きで見下しているわけじゃありません!
あいつらが弱すぎるんですよ。マーレンよりはマシですが、あんな奴らと協力してたら
ぼくの実力なんて到底発揮できない。だから、早くと組みたいから上を目指しているのに…っ!」

何故あんな弱い奴らと同じ部隊なんだ、理不尽だと呟くヒューバートの目尻には涙が溜まっていた。
何でそんなに焦っているのかな…。
そう考えていると、ふと部屋の外の人と目が合う。
そして、あたしは驚きとショックで目を見開いた。

「ま、マーレン…!」

マーレンはゆっくりと後退して踵を返した。
話を、聞かれた…。

「ご、ごめんね。来客中、だったんだね…。」

マーレンは一瞬だけ振り返り、ヒューバートに目を向けた。
今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。



07:君のため、夢のため




(ヒューバートのばか!ほら、追っかけよう!)
(…弁解するつもりはありません。ぼくが行ったところで彼女はまた傷つくだけです。)
(もういい、あたしが追っかける。)





執筆:11年1月21日