朝、目が覚めると部屋の床で雪崩が発生していた。それはそれは悲惨で足の踏み場が全くなくなってしまっていた。
――そう、積み上げていた漫画とゲームで。
床に無造作に広がるそれは私を落胆させた。仕方ない、今日こそは部屋の掃除をしようではないか。とりあえず、昔のジャ●プを引っ張り出して、お気に入りの嫁たちを切り抜いて……あとはちり紙交換、っと。よっこいしょと立ち上がり、クローゼットに手をかける。すると、ふと目に入ったものが。それは、昔のアルバムだった。
※ ※ ※ ※ ※
「ねぇ、坊ちゃん! シャルちゃん今日1日だけいいから貸して!」
「坊ッ……!?」
「お願い! 坊ちゃん!!」
「坊ちゃん言うな!」
部屋の掃除を終わらせた私は颯爽とリオン君の部屋に乱入した。私は先程見つけたアルバムを見ながらふと思った。リオン君の幼少時代のことが知りたくて仕方がない!と。美少年の幼少時代はおいしそうなので、私の乾いた腐女子魂を潤してくれるかしら、と思い。そこで、リオン君とともに異世界からやってきたシャルティエ氏に聞き込みたいと思ったわけだ。リオン君本人に聞いたって、絶対に教えてくれないもん。ま、シャルがリオン君の幼少時代を知ってるかという問題もあるわけだけど。
「貸して!」
「断る」
案の定、リオン君はむっとしたまま、シャルを貸してくれません。このままでは、心の渇きが。私の腐女子魂が火を噴くんだかんね!
「ケーチケチケチケチケチケチ! バカ! うんこ! チンカス野郎! ◎〒△#Σ×!!」
「……やかましい奴め」
「リオン君が貸してくれれば黙るわい!」
必死に頼み込んでも、開き直ってもリオン君はシャルを貸してくれる気配はない。畜生ー。あきらめてたまるか! どうしてもリオン君の幼少時代のことが知りたい! きっと、今とは違って純粋な目でシャルを振り回してたことでしょうに! あと、よちよちと歩きながら「だぁ~」とか言ってたり? ギャーーー! 可愛すぎるーーーー!! ああ、知りたい! こんな私の妄想だけじゃ全然足りないわ!!
『坊ちゃん、ちょっとくらいいいじゃないですか。僕もたまにはとお話したいですし』
「そうよ! シャル! もっと言ってやれ~ッ!」
「お前は僕がいないと喋りすぎるから却下だ」
『ぼ、僕はおしゃべりじゃないですよ! 坊ちゃん酷いですっ!確かに、調子に乗ってしまって色々喋ってしまうことはありますけどー……』
「シャル、何気に墓穴掘ってるぞ」
『あっ!』
シャル、撃沈。使えないなぁー。うぅ、こうなったら――盗る、しかねぇな。
『ふん! もう坊ちゃんなんてこれからはプリン戦隊プリンレンジャー(黄)って呼んじゃいますから!!』
ぶふゥッ! なんじゃそりゃ。
「――――」
リオン君は無言のままシャルを庭に投げ捨てて廊下に出てしまった。チャーンス! すごいわシャル! リオン君を呆れさせて己を捨てさせるとはナイス作戦だわっ!! 私は「今だ!」と喜びつつシャルを拾いにいった。しかしシャルは、
『坊ちゃん……僕のこと、嫌いになっちゃったんですか?うっ……うっ……』
マジ泣きしていた。作戦じゃなかったのかと呆れながら、私はシャルを拾い上げた。
「シャル、もしシャルがよければ私がシャルの所持者になってあげるよ?」
するとシャルはピタリと泣き止む。うわ、嬉しい……そんなに私のこと――。
『い、いいの!? っていうことは女子高生の私生活見放題!? もちろん着替えもお風呂も寝るときも一緒だよね! ウフフッ、ついに僕にもバラ色の人(剣)生到来ッ!? ひゃっほう!!』
私は「寝るときはお互い生まれたままの姿で……」と言いかけたシャルをブン投げた。いやいや、ここでシャルを手放してどうする私。我に返ってシャルを拾い上げようとした。しかし、シャルは先にリオン君にとられてしまった。
「あ! ちょっとリオン君! 私のシャル盗らないでよっ!!」
「誰が盗るか。もとはといえばシャルは僕のものだろう」
『そ、そんな……ダメッ! 2人とも、僕のために争わないでっ!』
――バシッ!
『ぎゃああああああああ!!! コアクリスタルがあああああ!!!!』
リオン君はシャルの心臓部であるコアクリスタルを叩き、シャルを黙らせた。そして、少しだけ悲しそうな顔で私に訊ねる。
「はシャルで一体何をするつもりなんだ」
な、なんなのさ。そっちこそシャルを貸したくない理由でもあるのか。
「いやぁ、幼き日のリオン君の話。リオン君に聞いても絶対教えてくれないでしょ。お口の軽そうなシャルだったら教えてくれるかなーって思って」
「くだらん。貸さん。断じて」
即答するリオン君。表情はいつも通りになっていた。ほーらやっぱり貸してくれないし、教えてくれない。
『うわああん! ってば僕のことをそんな風に思ってたのッ!? ひどーいっ!』
「「黙れ」」
私とリオン君が声を揃えてシャルに一喝すると、シャルは何も言わなくなり、そのまましゅんとしていた。
「僕の過去がそんなに知りたいのか?」
リオン君がシャルを鞘に収めながら私に訊ねた。
「うん! とっても興味深いから!」
「教えてやってもいいが条件がある」
条件? まぁ、リオン君の萌えるような幼き日がわかるんなら……。
「いいよ。受けてやろうじゃん」
リオン君は私をじっと見つめてきた。くぅ~、こういうシリアスな空気って苦手なんだよね、私。
「ぼ、僕にも……の幼い頃のことを教えろ」
「へ?」
私はリオン君の意外な発言に耳を疑った。だ、だって、リオン君が私の幼い頃に興味があったなんて!
『クスクス、坊ちゃん可愛いです』
「う、うるさい! 僕の幼い頃のことだけ知るなんて不公平だろう! だから別にどうでもいいんだが僕にもの幼い頃のことを教えてもらう権利が――」
「はいはい、わかったよ」
『坊ちゃんも素直じゃないなぁ』
リオン君が顔を真っ赤にしつつ「黙れ!!」と私とシャルに向かって叫ぶ。やれやれ、うるさいのはどっちだか。私はゴホン、とわざとらしく咳払いをすると、小さい頃を思い出しながら語り始めた。
「私が小さかった頃はねー。ぼけーっとしてた。で、アニメと漫画が大好きだったなー。セー●ームーン、セイ●トテール、ママレード●ーイ、おじゃ●女ど●み、アンパ●マンとか!」
「今と変わらないじゃないか」
出ました、リオン君のキツイ一言。
「うるさいな。で? リオン君はどうなの?」
私にだけ喋らせておいて自分は言わないなんて絶対させないという視線をリオン君に送りつつ私は首を傾げた。リオン君は冷や汗を額に浮かべつつ私から視線を逸らした。
「僕は、小さい頃からシャルと一緒に剣の稽古をしていた。それ以外は勉強に明け暮れる毎日だったな」
マジ? 全然萌えないんですけど。というか萌え要素0%ですか。
「……ほんとに? 他に幼子ならではの萌えエピソードは?」
「嘘を言ってどうする。それだけだ」
『まぁ、小さい頃と言っても僕と一緒になったのは坊ちゃんが6歳の頃でしたよね』
「ふーん。そっか。つまんねーなぁ、オイ」
「貴様だけには言われたくない」
リオン君はソッポ向いてしまうと、怒りながら自分の部屋へと行ってしまった。シャルをその場に置いて。あのー、ぶっちゃけた話。今日私がやってきたことって一体なんだったのでしょうかと訊ねていいですか?
「シャル」
『何、』
「さっきのリオン君の話、全部ホントの事?」
『ホントだよ。他には……剣の稽古以外のときはガリ勉少年だったかな』
なるほど。だから頭がいいんだね。
「あーあー、シャルの奪い合いなんてくだらないことしたわー」
『そう? 僕は楽しかったよ。坊ちゃんがヤキモチ焼いてるのが見れて』
「ヤキモチ?」
『うん、ヤキモチ』
「そんなに私にシャルを取られたくなかったか、リオン君め」
『……違うけど、まぁ、それはそれで僕は嬉しいけどね』
私はシャルと一緒に自分の部屋へと戻っていった。小さい頃でなくても、萌え所はいっぱいあるだろうと期待を胸に。
執筆:03年05月11日
修正:16年05月14日