リオン君のおかげで私達演劇部の出し物は見事大受け。だけどリオン君の引き立てにファーストキスを失った私。でも、別に嫌だなんて気持ちは全然なかった。それは私がリオン君のこと、嫌いじゃないから、なのかなぁ。
 とりあえず、まぁファーストキスの相手がリオン君という美少年でよかったのかもしれない。可笑しな話だけど、ちょっと得した気分だ。

「きゃあん! リオンきゅ~~~ん! こっち向いてぇ~!」

「リオンクンかっこいい~~~~!!」

 あの事件以来、リオン君は更にモテモテになった。今や、全学年の女子ほとんどがリオン君ラヴァーだ。
 この休み時間、乙女達がリオン君に話し掛けたりとしているわけで。しかしリオン君はお友達(ていうか下僕?)を従えながら無視してるみたいだけど、リオン君の頬がほんのり赤いのは気のせいか。
 ――も、もしかして。あの中にリオン君の新しく好きになってしまった娘がいるのではなかろうか!? だって、リオン君だって年頃のオトコノコなんだから、色々恋しててもおかしくないはず。しかし、あの中っていってもほとんど女子全校生徒じゃないか。やっぱ誰なのかわかんねぇ。ダメじゃん。
 そんなことを思っているうちに、チャイムが鳴る。授業開始のチャイムだ。乙女達はリオン君との別れを惜しむかのように自分達の教室へ帰っていく。ふと、リオン君に視線を移すと、彼は「ハァ」と溜息をもらしていた。私はクスクスと笑いながらリオン君に声をかける。

「おー、大変だね? モッテモテ君」

「ふん。それは嫌味のつもりか?」

 リオン君が不機嫌そうな顔をした。私をキッと睨んだ後、授業で使う数学の教科書とノートを開いた。

「えー……別に嫌味なんかじゃないよ? モテてるからモテてるって言っただけ」

 私はグッとサムズアップして笑って見せた。リオン君はヤレヤレといったように目を伏せた。

「うるさいぞ! そこ!」

 私とリオン君が喋っていると、いつのまにか教室入ってきた先生注意されてしまった。まったく、ちょっとくらい話しててもいいじゃんか。
 私がブツブツと文句を言っていると、先生と目が合う。しかし、先生の視線はパっとリオン君へと向けられた。ん? 今、私と目が合ったのに……?

「マグナス! 女子といちゃいちゃと喋っている暇があるならこの問題を解いてみろ!」

 先生はリオン君に怒鳴りつけた。べつにいちゃいちゃはしていないんだけど。黒板にかかれているものは、まだ私達が習っていない応用問題。こいつ、確信犯だ。リオン君じゃなくて、私が悪いのに。そういえば、聞いたことがある。この先生は、恋人がなっかなか見つからなく、ついに50代を迎えてしまった。いわば残り物。それで、女子にモテモテなリオン君に嫉妬しちゃってるのね。はんっ、最悪な教師だこと。
 舌打ちをしながらリオン君は席を立った。

「ごめん、私のせいで……」

 小さい声でリオン君に謝る。しかし、リオン君は不敵に微笑んで黒板の方へ歩いていった。お、なんだか頼もしい。不思議と、全然心配ではなかった。
 先生にチョークを渡されるリオン君。シーンと静まり返る教室。誰もが、こんな問題わかるはずないと思っているはずだ。それなのに、リオン君は全く躊躇わずにその問題をあっさりと解いてしまう。

「これでどうだ?」

 涼しげな顔でリオン君は席に戻る。先生は真っ青な顔をしながら「せ、正解だ……」と小さな声を上げた。クラスの女子はキャーキャーと騒いでいる。席についたリオン君に私は小さな拍手を送った。

「流石だね、リオン君」

 私がせっかく誉めてやったにも関わらず、リオン君は相変わらずの無表情だった。でも、それでこそ、リオン君だ。だから私は気にしない。



リオン君が私の名前を呼ぶ。

「何? どうかした?」

「……その」

リオン君はそこまで言うと俯いてしまった。

「ん?」

「――っ! な、なんでもない。忘れてくれ」

 リオン君が苦痛そうな顔をして言った。恥かしくていえないことなのかな?
 ――まさか。

「ねぇ。リオン君。もしかして……」

 アレは我慢なんてしたら病気になる。

「な、何だ」

 顔を赤くしてる……やっぱり、そうなんだ。私とリオン君はゴクリと生唾を飲んだ。

「――う●こしたいんでしょ?」

「そんなわけないだろう」

 ガックリと肩を落とすリオン君。え、違うだと?違うってことは……ッ!!

 ――手 遅 れ か ッ ! ! ? 

「ぎゃああああ!!! せんせーーーーーッ!! リオン君がうん●もらしましたーーーッ!」

 私の叫びが教室内に響く。クラスメイトたちが「えぇ!?」という表情で一斉にリオン君に振り向いた。

「違ーーーーーーーーう!!!」

 リオン君は席を立って否定する。そして恨めしそうに私を睨みつけた。

「てめぇらァァァア!!! 廊下に立ってろオオオォ!!」

 先程リオン君に負かされた先生が涙目で怒鳴った。私とリオン君は顔を見合わせる。私は席を立ち、リオン君と一緒に教室を出た。



※ ※ ※ ※ ※



 廊下に立たされた私達は特にすることもなく、ボケーっとしていた。っていうか今時廊下に立ってろ、なんてあるんか。サ●エさんとかドラえ●んという昔からのアニメでしか見てないし。

「……何でこの僕まで。迷惑にも程があるぞ、

 私の隣でリオン君が愚痴をもらす。まぁ、確かに叫んだのは悪かったよ。

「ごめん」

 でも、本当に漏らしたのかと思ってビックリして。そういえばリオン君、トイレに行かなくていいのか!?

「そうだ! リオン君! ●んこもらしたんなら早くトイレに!!」

「してないと言っているだろう!」

 リオン君が私のおでこをピンと突く。少しだけだけど痛みが走った。授業中の廊下はシーンと静まり返っていて、小さくしているはずの私たちの声量は大きく感じられた。何だか、別の空間みたい。ワクワクするっていうか、新鮮な気持ちだ。

「あは。私、廊下に立たされたの初めてだなー」

 私が壁にもたれかかり、床に腰をおろすと、リオン君も腰をおろした。

「僕もだ。まったく……これも全部お前のせいだ」

 そんなこといいながらもリオン君の顔は笑っている。滅多に笑わないこの子が、笑ってる!

「おじいさん! リオンが、リオンが笑ったわ!」

「それはハ●ジか?」

 アラやだっ! リオン君ってばこの世界のアニメ完全征覇? ”アル●スの少女ハイ●”まで知っているだなんて!! あ、いや。そういえば昨日の懐かしアニメの紹介番組でやってたっけか。とりあえず――、

「リオン君、滅多に笑わないしね。なんか嬉しいな、リオン君の笑顔が見れて」

「ふ、ふん、いつもはお前がくだらんことばかりするからだろう」

 くだらないって、酷いなぁ。

「はい、そーですか。でも、今のはくだらなくなかったの?」

 私は頬を膨らませた。

「……たまには、こういうのもいいと思ってな」

 リオン君はそう言って私にもたれかかってきた。私は吃驚してリオン君の顔に目をやる。リオン君は目を瞑り、静かに寝息を立てていた。3秒お寝んねですかぃ。多分、なんだかんだいって今日は朝から全校の女子に追いかけられてたりしてたから流石のリオン君も疲れて寝ちゃったんだろうね。

「そうだね、たまには……いいかもね」

 私は一人呟いてリオン君にもたれかかり返した。お互いの体重で、お互いの体を支えあう。窓から入ってくるお日様の光でポカポカとする。
 授業が終わった後、教師のドでかい大声で私達が慌てて目を覚ましたのは、また別のお話。



執筆:03年05月06日
修正:16年05月14日