ちゅわ~ん」

 昼食中、咲が私に抱きついてきた為、思わず身を強張らせてしまった。

「ヒィ!? 何、お前! キショい声出して!! 熱でも出た?!」

 すると咲は私を半分睨んで、半分笑顔で見つめる。おぉ、怖いよ、マイフレンド。そんな顔もできるんだね。

「失礼ね。これはへの愛情を示しているのよ」

「そうだったの。全く気付かなかった。私たち、終わりね……」

 残りのお弁当を頬張る私は、強制終了を決め込んだ。しかし、咲は構わずに続けてくる。

「んとね、お願いがあるんだけどさ」
「だが断る」

 即答する私を咲が再び睨みつけた。お弁当を食べ終えた私は、鞄にお弁当箱を詰め込みながら咲を白い目で見る。

「即答しないでよ! 私たち心の友と書いて心友でしょ!」

「へぇ~へぇ~へぇ~」

 私は自分の机の上に置いてあったメロンパンを、某ムダ知識の番組のごとく連打する。

「あはははは! バカじゃないの? メロンパン潰れてるって!」

 私の潰れたメロンパンを見て散々爆笑した後、咲は息を整え、真剣な顔つきになった。

「ねぇ、。今回だけだから。お願い! この通り!」

 明らかにいつもと様子が違う咲。何があったんだろう。

「仕方が無い。そこまで言うならせめて話だけでも聞いてあげよう」



※ ※ ※ ※ ※



「ぬわああああああああああにぃぃぃぃぃ!? こ、恋をした!?」

「うん。そうなの」

 私は教室の中にいるということも忘れて、思わず大声を出してしまった。教室に残っているクラスメイトたちが一斉に私たちに振り返るが、そんなことは気にならなかった。メロンパンは私の手の中でぐにゅ、という音を立てて潰れる。

「マジで……?」

 顔だけは可愛いから何回か告白されてきたけど、ことごとく振ってきた咲が! 咲なんかに好きな人ができたと聞いた日には私だって失神しかけるって!

「お前、今何気に失礼なこと思っただろ?」

「オモッテナイヨ」

 何故心を読まれたし。

「それはそうと。相手は誰!? 場合によっては私はそいつを抹殺しなきゃならないわ! 私の可愛い咲にブサイクとバカは吊り合わん! 父さん、許さんぞ!!」

「誰が私の父さんよ。お前か? ふざけるんじゃないわよ、バカタレ。それと、私は美人なんかじゃないよ。ほーんと正直なんだからちゃんは」

「言ってることが矛盾してるのは気のせいにしといてあげるから、さっさと相手の名前を言いなさいっての」

 興奮気味の私は、もう何もかもが楽しく思えた。毒舌を吐かれたことすら、楽しく感じてしまう。友達の恋愛話というのは、本当に楽しい。

「か、片岡君が好きなんだけど」

 咲は照れながら、ポツリと呟いた。ていうか……

「片岡って、リオン君と一緒にいるアレ?」

 私はリオン君と一緒にいる男子を凝視する。リオン君と仲良さそうにお弁当を食べている彼だ。最近、とても仲がいいみたいだけど、同じ剣道部みたいだし、気が合うのかもなぁ。

「そう」

「うーん、確かに片岡は顔が整ってるし、可愛い系だね。そういう趣味だったのか」

 なんというか、小動物という印象がある。身長もそんなに高くはないし、ハムスターが必死に強くなろうとしているというか。

「ね、協力してくれるよね?」

 キラキラと瞳を輝かせる我が親友。あんたのその純粋そうな瞳、生まれて初めて見たわ。

「協力って言っても……。私、片岡とはそんなに仲良くないし。私じゃなくてリオン君に頼めば? リオン君が片岡に命令すれば咲とだって付き合ってくれるかもよ?」

「ロマンのカケラもないわね!! あの可愛い片岡君を服従させるのも萌えるけど、恋愛とそういうのは違うと知れ!」

 お前こそ恥を知れ。ドSめ。そんなことを思いながら、ぼんやりと片岡を眺める。
 片岡はリオン君と楽しそうに話していた。
 ――まぁ、親友である咲の頼みだ。協力してあげよう。



※ ※ ※ ※ ※



「と、いうわけで、リオン君も手伝ってね!」

「何故僕がそんなことをしなければならない。お前が引き受けたのだから、お前一人でやればいいだろう」

 家に帰って早速リオン君にも協力を求めた私。当然、リオン君は快く引き受けてくれるはずもなく、ソファーに腰掛けて、テレビを見ながらせんべいをかじっていた。
 おうぅ、美少年が台無し。きっと、リオン君のファンの子たちが今のリオン君を見たら嘆き悲しむと思う。わ、私は平気だけどね。
 顔を引きつらせながらも、もう一度頼み込む。

「お願い。私は非力なのよ。リオン君がいてこそ、私は輝けるの」

「知るか」

 はい即答されました。
 お父さん、お母さん。もう生きてく自信ないです。私は本当に非力です。反論すらできません。でも、は挫けずに頑張る!

「協力してくれないんだったら、今日の夕飯にピーマンと人参を大量に入れるよ?」

「そうか。明日はの嫌いなたまねぎがおかずの中に大量に入ることになるな」

 リオン君も一歩も譲らず、私に対抗してくる。そう、私たちは一日交代でご飯を作っているのだ。
 く、たまねぎを入れられたら私は終わりだ。仕方がない。ここはモノで釣るしかないようだ。この方法は使いたくはなかったけど、最終手段奥義――

「ぷ、プリン作ってあげるから、手伝って!!」

「プリン……だと!?」

 やはり、リオン君は「プリン」という単語に反応して、挙句にはかじっていたせんべいを落とした。
 なんて典型的な反応の仕方だ。思わず笑ってしまう。

「本当に、作ってくれるんだな?」

「当然」

 私は大きく頷いた。

「よし。いいだろう。この僕が手伝うからには片岡が嫌がったとしてもくっつけさせてやる」

 そう言ってリオン君はニヤリと笑った。
 本人たちの気持ち無視ですか。あからさまにプリン狙いだね、リオン君は。でも、協力してくれたよかった、かな。かなり心強い。多少不安はあるけれど。

「で、具体的に何をすればいいんだ?」

 リオン君は首を傾げると、再びせんべいをかじり始めた。ぼり、ぼり、といういい音が響く。

「そだねー。まぁ。咲と片岡がくっつけば何でもいいんじゃない?」

 具体的に思いつかなかったので私はテキトーに答えた。結果的にくっつけばそれで良し!もう、なるようになってしまえ。

「そうか」

 リオン君はそう言ったきり、その話題に触れることはなかった。



※ ※ ※ ※ ※



 いつもの様にリオン君と談笑をしながら登校する。水戸●門の話をしていた時、後ろから咲の声が聞こえたので振り返ってみる。

「おはよーーーう!」

「ゲヴァ!!」

 私は顔面から転んだ。こいつの登場パターンはどうしてこうも私に害があるものばかりなのだろうか。学習しない私もバカなんだけどね。

「おはよう。痛いんですけど?」

「あ、リオン君もおはよう」

 鮮やかに私を無視した咲。リオン君は私を見て、笑いをこらえながら小さな声で「おはよう」と返した。
 うふふ。声が震えてるんだけど? リオン君め。そういう曖昧な態度は一番人を傷つけるのよ!? いっそ豪快に笑ってくれれば私だって「えへへ、やっちゃった!」で終われるのに!!
 私は無言のまま、額から流れる血を抑えながら立ち上がった。

「で、何か作戦はあるの?」

「あんたね、思いっきり突き飛ばした挙句、無視した相手によくもそんなことヌケヌケと言えるねぇ」

「ゴメンって。愛してるよ。でも、片岡くんを一番に愛してるけど」

 咲は私の肩に手をかけて小声で言った。私は大きなため息をつく。

「はいはい。作戦ね、リオン君にも協力してもらうことにしたよ。ほら、片岡に一番近いのってリオン君でしょ? ダメだった?」

「ううん、ありがとう。リオン君まで巻き込んじゃうなんて、私も罪な女ね」

「わかってるじゃん」

 リオン君は私の隣で「人助けは嫌いじゃない」とボヤく。プリン目当てなだけのくせに何を言うか。



※ ※ ※ ※ ※



 学校に到着し、昇降口に人影が見えた。標的である、片岡だ。咲は顔を赤くしてリオン君の隣を歩く私の後ろに隠れた。
 片岡はリオン君の姿を見つけるなり、明るい顔で「おはよう、リオン!」と挨拶する。当のリオン君は無愛想な顔で「おはよう」と返す。
 不意に、私と片岡の目が合った。

、おはよう!」

「おはよう、片岡」

 律儀にお辞儀までして挨拶をする片岡。それから踵を返して、さっさと先に行ってしまったリオン君を追いかけた。
 ――ていうか! 片岡、咲に気づいてないじゃん!

「お前、隠れてるから気付かれてない!」

「だって! 恥ずかしい!! 死ぬ!!!」

「いっそ死ねよバカァ!」

 折角のチャンスを無碍にしやがってこの女!
 私と咲が言い争っていると、リオン君と片岡の会話が聞こえてきた。

「……おい。お前、御園のことをどう思ってる?」

 突然リオン君が片岡に訊ねた。ええ。突然です。なんの躊躇いもなく。
 ギャア!リオン君!!ストレートすぎだ!!!咲は私の後ろで「アンチクショウ、言いやがったな!」と小さく呟いた。わ、私、今怖くて自分の後ろが見れない。

「御園? ……リオン、俺が御園のこと好きだって知ってたの!?」

 片岡は顔を赤くしてリオン君を凝視した。リオンは「知らん」と一言。
 嘘!? こんな展開でいいのかよ!!
 そして、リオン君は私の後ろにいる咲に向かって言った。

「……だそうだ。よかったじゃないか」

 皮肉なんだか、天然なんだか。
 咲は顔を真っ赤にして私の後ろから顔を出した。

「片岡……君……」

「御園!?」

 二人は互いに見つめ合い、もじもじしていた。そして、私はリオン君の腕を引っ張る。

「リオン君、行こ。邪魔しちゃ悪い」

「……そうだな」

 リオン君はすぐに私の方を向くと、優しく微笑んだ。

「お前にしてはなかなか気が利くじゃないか」

「まあね」

 私とリオン君は笑いあいながら教室へと向かっていった。
 上手くいって、本当によかった。そう心から思えた。なんだか、自分のことのように嬉しい。
 幸せになれよ、咲!



執筆:04年01月01日
修正:16年05月20日