今日は日直で、いつもより少し早く家を出なくてはいけなかった。それなのに、私は布団の魔力により、なかなか起きれないでいたせいで予定より遅くなってしまった。まぁ、仕方ないかな。眠いんだもん。うんうんと頷き、そして自嘲した。朝から一人で何やってんだ私。
そういえばリオン君は剣道部の朝練がないって言ってたっけ。まだ寝ているのかな。……いいや、一人で先に行っちゃおう。というか、リオン君と一緒に登校しなくちゃいけないって決まってるわけじゃないんだけど。それでも、リオン君が家に来てからは大体一緒に登校してるから、なんだかそれが当たり前みたいに思えた。
「いってきまー……」
鞄を持ち上げて玄関に向かえば、「遅かったな」と言わんばかりに仁王立ちしているリオン君がいた。起きてたのか、リオン君。
「今日は日直なのだろう。急ぐぞ」
「何で?リオン君は朝練ないし、日直でも無いじゃん」
私が訊ねると、リオン君の眉間に皺が寄り目が細くなった。
「お前だって、部活の朝練などないくせに僕と同じ時間に家を出るじゃないか」
少し機嫌が悪くなってしまったのか、声のトーンが低くなっている。いや、私がリオン君と家を出る時間を合わせてるのは少し特殊な理由だからさ。
「高校生の男女が一緒に登校するなんて、カップルしかできないじゃない。私だって青春したいんだい。私はそう思っていつもリオン君と家を出ていたんだけど……ほほう、リオン君も青春したいのかい!?」
私の事情を知ったリオン君は呆れたのか「ふぅ」とため息を吐いた。
「そんな理由で僕と登校していたのか。それならさっさと彼氏でも何でも作れば良いだろう」
そう言って踵を返して、さっさと外に出て行ってしまう。
「ちょ、ちょっと……待っててくれないのかい」
じゃあ、リオン君は何で私と一緒に行こうと思ったのだろうと考えながら、慌てて家の鍵をかけた。
※ ※ ※ ※ ※
学校について、ちょうど日直の仕事を終わらせた頃。
「、ついに今週の土曜だな!」
教室に入ったと同時に、「おはよう」も無しに私の方に走ってくる蓮。今週の土曜と聞いて思い浮かぶことはただひとつ。
「うん、待ちに待ったアレだね!!」
大好きなゲームのシリーズが2年ぶりに発売されるのだ。その最新作は今週の土曜日に発売する。今思えば、蓮と私はそのゲームがきっかけで仲良くなったようなものだ。だから、この話をすれば、私と蓮のテンションは急上昇する。
「はぁー、待ち遠しい。今夜寝て、朝起きたら土曜日になってればいいのに」
自分の席まで歩き、机にどさっと鞄を置く。
「それはねぇな」
蓮の鋭いツッコミに、私は「うるさいなー!」と返した。
「お二人さーん。ずいぶんと仲がよろしいのね。蓮、隣の教室に入ってきてまでとお話したいのかなー?」
咲がニコニコと笑っている。
「と話すことがオレの趣味だからな」
「うわぁ、何それ。私からを奪う気?」
「じゃあ、そうする」
ニッと私を見て笑う蓮。咲はそんな蓮と私を見て「お前らいつからそういう……!」と両手で顔を覆った。
ふと、視線を感じた。リオン君が隣の席でむすっと不機嫌そうな顔をしていた。やば、テンション高くなって騒ぎすぎたかな。
「あ……リオン君ゴメン。うるさかったよね」
「ふんっ」
私が謝ったにも関わらず、リオン君はそっぽ向いてしまった。か、感じわるーい……。
それにしても、蓮は家に来た日以来リオン君にアタックする気配が見られない。私の勘違いだったのだろうか。
「あ。それじゃあオレそろそろ戻るよ。もうすぐ予鈴なるし、最近遅刻ばっかで先生たちに目ぇ付けられてるしさ!」
蓮が「、また後でなー」と言って教室から出て行った。それと同時に咲の眉間に皺が寄る。
「咲、どうしたの?」
私が問いかけると、咲はニヤニヤしながら私に耳打ちをした。
「ずっと前から思ってたんだけどさ、蓮って、に気があるよね」
思いがけない言葉に、私はふはっ、と鼻で笑ってしまった。
「いや、違うんだ、咲。蓮はリオン君に気があるんだよ。この間、家に来てまでリオン君と私の仲を邪魔しようとしたんだもん」
「おまっ、バカ。何をどこでどのように勘違いしちゃったか知らないけれど、それはないから。蓮は明らかに狙いだって」
誰がバカだ。喉元まで言葉が出掛かったが、冷静になって思い返してみる。
そういえば、私の知る限り蓮とリオン君って家で会ったのが初めてだったよね。そこでいきなり――なんて蓮にしては突飛しすぎかもしれない。逆に、蓮が私のことを好きだとしたら、色々と辻褄が合う気がしてきた。
「わ、私だったの!?」
うっかり大声を出してしまって、リオン君に睨まれてしまった。私は慌ててリオン君から目を逸らせて、咲との内緒話に戻った。
「そんな、困るよ。リオン君が好きなのに……」
「でもさ、リオン君がダメになったら蓮と付き合ったら? 顔も家柄もいいじゃん」
「蓮かー……。蓮ねー……」
そーいう問題じゃないんだよねー。気持ちの問題だから、どうしようもないんだよね。
別に蓮のことが嫌いなわけじゃないけれど、私はリオン君のことが好きだから――
※ ※ ※ ※ ※
「なぁ、。たまには一緒に昼食わないか?」
休み時間、蓮は「また後で」という予告どおり、私のところに来た。リオン君を気にする様子は全くない。先程の咲とのやりとりを思い出してしまい、私は唇を噛んだ。
ちくしょー、咲のせいで蓮のこと意識しちゃうわー。モヤモヤして、蓮との会話に集中できないでいる。いっそ「お前、私のこと好きなの?」と聞いてしまいたい。
「んー」
「おーい、ー?」
突然、蓮が顔を近づけてきた。私は驚いて目を見開く。
「えっ、何?!」
――ああ、やっぱり意識しちゃう。
「一緒に昼飯ー。どうかって聞いてんのー」
デコピンをされて、額に痛みが走った。一緒に昼飯? それって蓮と二人きりで?
「、行ってきたら? たまにはいいんじゃない?」
咲が私の席までやってきて、ウインクをした。普段は咲と二人で食べるお昼ご飯。その咲に許しをもらったから断る理由はないはずなんだけど。それでも、蓮と二人で食べることに抵抗を感じた。片思いなんだけど、リオン君を裏切ってしまうんじゃないのかなって考えてしまう。
ちらっとリオン君を見れば、無表情で次の授業で使う教科書などを出していた。リオン君は私のことなんとも思ってないんだから……別にいいかも。
「行く。中庭でいいかな」
「マジで!? よっしゃ! 4限終わったら中庭で待ってるから!」
私の答えを聞いた蓮がガッツポーズを決めて、教室から走り出て行く。咲が私の肩を叩いて、ニヤリと笑った。
「見たでしょ、今の。蓮はやっぱりが好きなんだよ。そうでなきゃ誘ったり、あんなに喜んだりしないでしょー!」
「でも……」
「中庭って結構人気もないし、告白されてもおかしくないんじゃない?リオン君もそう思わない?」
咲がチラリとリオン君を見る。ばっ……咲テメェ、リオン君に話を振ってんじゃねぇえええええ!!
「さあな。僕には関係のないことだ」
「でも、蓮がに告ってがOKしちゃったら、は蓮の彼女になるわけじゃん。そしたらリオン君はと距離を取らなきゃ、蓮が嫉妬しちゃうんじゃない? 大変ね~」
クスクスと笑う咲を殴って黙らせてやろうか、いやしかし咲は大切な親友なんだ!自分の中で葛藤していると、リオン君が席を立った。そして、私の目の前に立ち、睨みつけてきた。
「がしたいようにすればいいだろう! 僕にはに“あいつと付き合うな”と主張する権利なんてないのだからな!」
いかにも不機嫌ですオーラを放ちながら、リオン君が教室から出て行く。え、何で私に向かって怒鳴るの。
「まぁ、リオン君の言うとおり……は自分の気持ちに素直になって行動しなよ」
咲が私の頭を優しくなでる。まだ蓮が私のことを好きだって決まったわけではないけれど、もしそうだった場合は……私はどうしたらいいんだろう。蓮を好きになった方が、楽になれるのかな。
※ ※ ※ ※ ※
昼休みになって、私はお弁当を持って中庭に向かった。もう蓮は来ているだろうか。待たせたら悪いから早めに来たんだけど……
「!」
名前を呼ばれて振り向くと、そこには蓮が木の根元に座って手を振っていた。私は蓮の隣に腰をかける。
「……ありがと。来てくれて」
「は? 何で? 約束したんだからフツー来るでしょ」
「そうじゃなくって」
蓮が制服のズボンをぎゅっと握った。私はそれを見て、なんとなく俯いてしまった。この雰囲気、なんかいつもと違う。
「は、早く食べよ。お腹すいたー」
あははと笑いながらお弁当の蓋を開ける。そういえば、今日はリオン君がお弁当の当番だったっけ。だから、このお弁当はリオン君が作ったものだ。
あ。オムライス。蓮が私のお弁当箱の中身を見て、苦笑した。
「お弁当にオムライス? なんか珍しいね」
「うん、今日はリオン君が作ってくれたの。リオン君の作るオムライス、すごくおいしいから好き」
「…………」
黙が流れる。重たい空気の中、どうしようもないのでオムライスを食べることにした。
黙々とお弁当を食べていると、突然蓮がその場に立ち上がった。
「あのさ! ってオレのことどう思う!?」
――きたっ!
なにやらその手の話題がついに来てしまった! やはり咲の言うとおりだったのかもしれない。
「ど、どうって……?」
「ほら……その、か、カッコイイとか、カワイイとか!」
カワイイはねぇよと心の中でツッコミを入れ、私は冷静に考えようと努める。
「じゃあ、面白い」
「うーん、えーっと、そういうのじゃなくてー……!」
切羽詰っている蓮が怖く感じた。お願いだからその先は言わないでほしい。
「ごめん、本当は……オレのこと好きかって聞きたかったんだよ!」
この展開はやばい。だ、誰か早くこいつを止めてっ!!
「オレはのことが好きだから……リオンが来る前からずっと! 正直、リオンとが仲良くしてるのを見たくない。でも、それは無理だろう? だから、せめてオレの彼女になってほしいんだ!」
黙らせる前に言われてしまった、告白。告白を阻止しようと策を考えることに集中してしまった私は我にかえって自己嫌悪した。
執筆:10年8月8日