告られた。蓮に告られた。とりあえずその場は「考えさせて」で逃げたけれど、これからどうしよう。ずっと蓮に会うたび「返事は?」と聞かれて、待たせるわけにもいかない。蓮のことは好きだけど、それは友達としての話。そこには恋愛感情はなんてない。

 ――私はリオン君が好き。

 それは、リオン君が元の世界にいるマリアンさんを好きだっていうことを知った今でも変わらない。きっと叶うことのない片思いだろうけど、簡単には変えることができない気持ち。
 でも、私が蓮にそれを告げたらどうなの? 自分の好きな人に、自分以外の別の好きな人がいるなんて。そんな辛くて悲しい気持ちを蓮にもさせることになるのではないだろうか。

「…………」

 部屋に篭って悶々と悩み続けて数時間。日も落ちて真っ暗な部屋。携帯を開いて時計を確認すれば、そろそろリオン君が帰ってくる時間だ。
 今日の夕飯の当番は私だけど何もしてないや。あーあ、お米さえ研いでいない。炊き上がるまで時間がかかるから、リオン君がお腹減らせてたら怒るよなぁ。気分転換に、お米を研ぎに行きますかねー。



※ ※ ※ ※ ※



 玄関からガチャガチャと鍵を開ける音がした。キッチンに立っていた私はピクリと反応する。あらら、リオン君が帰ってきちゃった。
 トントンと足音がして、リビングの扉が開けば疲れた顔のリオン君が入ってくる。やっぱ、部活が大変だったんだろうなーと思いながら私もリビングに向かった。

「おかえり、リオン君。部活おつかれー」

「ああ。ただいま」

 なんとなーく、ぎこちない雰囲気だった。あれ、いつもこの後私たちはどんな話をしていたんだっけ。学校であったこととか、部活の先輩や後輩の話だっけ。えっと、今日は何があったかな。今日は、蓮に告白されたことくらいしか覚えてないや。

、どうするつもりなんだ?」

 ――ドキリ。
 反射的に身体が反応してしまった。

「えっ? な、何が?」

 そう言いつつ、私はわかっていた。蓮のことだろう。だけど、どうしてリオン君がそれを。
 リオン君はまるで私の心を見透かしているかのように答えた。

「あいつに……告白されたのだろう。片岡が言っていた」

 もちろん、蓮のことを片岡に言った覚えはない。咲が彼氏である片岡に言った。そして、片岡がリオン君に言ってしまったのだろう。隠すつもりなんてなかったけれど、せめて自分から言いたかったなと思う。

「咲も片岡もおしゃべり……だねぇ。あはは」

 無理矢理笑ってみるけれど、重々しい雰囲気が変わることはなかった。そんな中、リオン君は私のことををじっと見つめる。

「そんなことはどうだっていい。返事はどうするつもりなんだ」

 蓮の告白の返事。それは今まさに考えている途中だった。答えはまだ出ていない。というか、そんなの私が知りたいくらいだ。

「り、リオン君には関係ないでしょ」

「関係あるだろう。僕はこうしてお前と一緒に住んでいるんだ」

 それは、今後リオン君の生活がどうなるかということなんだと思う。もし、私が蓮と付き合うならばリオン君はきっとこの家を出て行ってしまうだろう。私と蓮に気を使って。

「わからないの、自分でもどうしたらいいのか。蓮のことは好きだけど……でも、そういう好きじゃないというか」

 言葉が詰まる。なんて言えばいいんだろう。自分の気持ちなのに、うまく説明できない。それを見かねたリオン君がため息をついた。

「迷っているのか」

「うん」

 私が頷けば、リオン君は踵を返して、私に背を向けた。

「付き合ってやったらいいんじゃないのか? 僕のことは考えなくていい。お前は自分のことを考えろ。お前が幸せになるのを僕が邪魔するなど――できない」

 そのままリオン君はリビングから出て行こうとする。私の幸せ? そんなの、決まってる。リオン君と一緒にいることが私の幸せなんだよ?

「ふざけんな」

 私はそう吐き捨てた。

「何?」

 リオン君はそのまま立ち止まり、振り向く。理解ができないといった表情だ。

「どうしてそんなこと言うの! 私が、リオン君のことを考えないわけないでしょ! もしも蓮と付き合ったらこの家を出て行くつもりなんだよね!? それに、私は……っ!」

 ――リオン君が好きなの。

 それを今ここで言ってしまったら、どうなる? リオン君は私のことなんて恋愛対象として見てくれてないよ? マリアンさんがいるんだよ? 好きだなんて、言えるわけがない。

「ッ……ごめん、何でもない」

 唇を噛み締めて、リオン君に背を向けた。ぐっと拳を握って、自分の不甲斐なさに自己嫌悪する。
 どうせ叶わない想いなら、私は私のことを好きになってくれた蓮を選ぶべきかもしれない。リオン君も、きっと迷惑だよね。マリアンさんのことが好きなのに、私がリオン君を好きなんて言ったら。そう考えたら、蓮はすごい。きっと蓮は私がリオン君のことが好きだって気づいてたんだろうな。だけど、私に「好き」って言ってくれた。堂々と、毅然と。
 私にはそんなことはきっとできない。臆病なんだよ、私は。本当は、迷惑に思われることなんかよりも、拒絶されることが怖いの。

「返事は、もう少し考えてみるよ」

 目尻に涙が溜まっていく。嗚咽を堪えて、消え入りそうな声で呟いた。リオン君はしばらくの沈黙のあとに、こくりと頷いた。

「……分かった」

 そう言って、リオン君はリビングを出て行った。私は呆然とその場に立ち尽くしたまま声を押し殺しながら泣いた。
 どうして蓮は私を好きなんだろう。どうして私はリオン君が好きなんだろう。どうしてリオン君はマリアンさんが好きなんだろう。

 ――その日、夕飯は別々に食べた。



※ ※ ※ ※ ※



 部屋に戻って悶々としながらYah●o!知恵袋で質問文を書いているときだった。突然、石田部長からの着信。こんなときに、何で石田部長から。

「はい、ですが」

『やー、。大変』

 大変と言うわりには、部長の声は楽しげだった。こっちは部長のおふざけに付き合ってる場合じゃないのに。さっさと用件を聞いて電話を切ろう。

「で、何が大変なんですか」

『今度全校集会でシンデレラをやることになったんだけど』

「そうですかー」

 リオン君をまた王子役に。だから、私にリオン君を説得して欲しいとでも言うのだろう。

『リオンに王子をお願いして欲しいのと、シンデレラはに決まったから』

「うーん、仕方ないですねー。とりあえずリオン君に相談して――は?」

 シンデレラはに……決まっただと!? どういうことだ。何故、私がシンデレラをやらねばならないの。だって、シンデレラといえば主役じゃない? 私はまだ2年生なのよ!? 先輩方はいつも主役をやると決まっているのに!

「部長。何で、そんなことになったんですか」

 怒気を含めながら電話を睨む。すると部長はくすくすと笑った。

『前回の白雪姫が評判良すぎて、是非リオン&ペアでお願いしますという意見が殺到してさ。今回、オレもオリジナル要素を入れて脚本書くことになったよ。じゃ、よろしくー』

 ――ブチッ。
 有無を言わせずに電話を切りやがった部長。私は眉間に皺を寄せた。そして、リダイヤルボタンを押す。

『ただ今電波の届かない場所にいるか電源が入っていません――』

 音声アナウンスが悲しく響く。ああ、なんてこった。電源を切られちゃったら、抗議できないじゃないか! 
 ……リオン君に伝えなきゃいけないよね。こんなこと伝えたら機嫌悪くするだろうなきっと。蓮のこともあるからただでさえ会い辛いのにー!
 気が重いけれど、リオン君の部屋に行こう。






執筆:10年10月30日