前回大人気だった半ばリオン君の舞台と化してしまった白雪姫。今回の演劇部はシンデレラに挑戦だ。主役はまさかの私。そして王子様はやっぱりリオン君。何でこうなってしまったのだろう。
「――いいだろう。王子の役を引き受けてやる」
「なっ……何で!? リオン君なら絶対に嫌がると思ったのに!」
リオン君に相談したところ、リオン君はあっさりとオッケーしてくれた。ありえない……と首を横に振っていると、リオン君は怪訝そうに私を見つめる。
「お前がシンデレラの役なのだろう?」
「うん、そうだけど……」
「他の奴なら断っていたが、お前がやるなら話は別だ」
「え? 何で、私ならいいの?」
私の問いかけに、リオン君は目を瞬かせた。ぱっと視線を逸らして、恥ずかしそうに答える。
「おっ……お前なら、一緒に住んでいる仲だからな。他の奴よりもラブシーンも演じやすい」
確かに、リオン君はわりと人見知りだからなぁ。シンデレラ役が他の人だったら「絶対にやらないからな」のところ、私の場合「慣れ親しんだあんただから引き受けてあげてもいいんだからね」というツンデレだね、わかります。
兎に角、リオン君がやる気だ。これじゃ私がシンデレラ役を断るわけにはいかない。私はため息を吐いて、リオン君を見つめる。演技でもいい、リオン君に「好きだ」とか「愛してる」とか、甘い言葉を言われたい。さっきまで憂鬱だった気持ちが晴れて、期待に変わる。
――頑張ろう。
そんなわけで、私とリオン君は次の全校集会でシンデレラを演じることになってしまったのだ。
※ ※ ※ ※ ※
全校集会当日。
私はステージ脇でぼんやりと校長の話を聞いていた。これが終わった後、演劇が始まる。前回はリオン君のせいで大変だったんだっけ。そういえば、キスされたんだよね。あの頃の私はまだリオン君に恋してなかったから、すごくショックだったな。まぁ、今されてもショックは受けるだろうけど。
部長がオリジナルで脚本書くとか言ってたから、またそういうことをリオン君にさせるのかと台本を細かくチェックしたけど、大丈夫そうだった。うん、今回は何事も起こりませんように。
「、頑張れよ。ここからずっと見てるから」
応援に来てくれた蓮がグッと親指を立てた。まだ、告白の返事をしてないのに、いつもと変わらず優しい。だけど、蓮の顔を見るたびに私の胸はチクリと痛むんだ。
「ありがとう、蓮」
「ああ。あと……さっきのリハーサルでちらっと見たけど、ドレス姿がすごく可愛かった」
「はっ!?」
不意に、私の心臓の鼓動が早くなる。こんな甘いこと言われるなんて思ってなかった。なんか、ドキドキするなぁ。
「そろそろ行くぞ、」
突然、リオン君が私の腕を掴んだ。そして、蓮を睨みつける。
「――え?」
リオン君の行動が、私には分からない。何で。だってこれは、嫉妬してるようにしか――?
「それでは、演劇部のみなさん、よろしくおねがいします」
校長の話が終わる。いよいよ私たちの出番だ。
※ ※ ※ ※ ※
「ほらほらァ。しっかり働けよ、シ~ンデレラ」
姉役の山田先輩がクスクスと笑いながら雑巾を私に投げつけた。畜生、台本ではそんな雑巾を投げつけるなんてなかったよ!? くそ、リオン君が王子役な上に、後輩である私が主役を演じているからか。
「次は私の部屋の掃除よ!」
2番目の姉役の森田先輩がホウキを私に向けて投げ捨てた。だ、誰か……嫉妬する乙女たちを誰か止めてください。
ああ、部長め。私なんかを主役にするからいけないのよ! 終わったら八つ当たりしてやるんだから覚悟しておきやがれ。
そんな部長はステージの横でにこやかに笑いながら見てるし。チクショー!
家でのシーンもようやく終わり、舞踏会のシーンになった。いよいよリオン君の出番。リオン君が登場すると同時に、女の子たちの黄色い歓声が響いた。キャーキャーとすごい声。やっぱりリオン君は大人気だ。
「王子、今の娘でこの国の娘はおりませぬが、どの娘もお気に召しませんでしたか?」
「ああ。僕の心を鷲づかみにできる娘はこの中にはいないな」
私はこのセリフを合図にステージに出た。
「王子様、よろしければ一曲お相手してもらえますか?」
するとリオン君登場時ほどではないけど「おぉ~」という歓声が響いた。ちょっぴり、快感。ふふん、きっとこの部長お手製の素敵なドレスを着てるからかな。ドレス補正だね。
ふと、リオン君と目が合う。
――あ、顔赤くした!!
すごいなぁ、この衣装は。家でも使ってみようかな、なんて。
「…………」
「…………?」
あれ?セリフ、リオン君だよね? もしかしてセリフ忘れてる!?
「お、王子様?」
「え? あ、ああ。よろこんで」
あれ、そこは「お美しい娘だ! ぜひ、お相手願います!」なのに。とりあえず、私とリオン君は手を取り合う。そして音楽が流れたと同時にステップを踏んだ。――と思ったら足を踏まれた。
「痛っ!!」
「す、すまない!」
どうしたんだろう、リオン君。練習のときは一回も間違えなかったのに。むしろ私の方が下手くそでリオン君を何度も怒らせちゃったのに。さっきの、セリフだってそうだ。もしかして緊張、してるの?
でも、私が出るまでそんなの全然――
「――くっ!」
今度は私がリオン君の足を踏んでしまった。ダメだ、考え事しながらじゃ演技に集中できない!
「ご、ゴメン!!」
うわ、どうしよう! このグダグダ感! 全校生徒の前なのに! 私は謝りつつ顔を上げる。するとリオン君の顔がすごく近くて――そしたらリオン君が顔を近づけてきて、唇と唇が触れ合った。
――それは一瞬の出来事で。体育館はシーンと静まり返った。
丁度その時、12時の鐘が鳴った。あ、やばい。早く動かなきゃ。
「わ、私……は、帰らなきゃ!!」
セリフをつっかえてしまいながら私は急いでリオン君から離れる。
「ま……待て! いや、待ってくれ!」
リオン君が追いかけてくる。それは台本どおりなんだけど。リオン君は何も間違っていないんだけど。その前だ。台本に、キスするなんて書いてなかったのに。
私はガラスの靴を脱ぎ、それをリオン君に投げつけてやった。それはもう全身全霊で。以外にもリオン君はそれを顔面で受け止めてその場に倒れこんだ。
生徒たちの笑い声と悲鳴が響く。まだ演技中なのに頭が朦朧としてた。なんか、キスされたことばっか頭にあって。
――何で、キスしたの?リオン君が好きなのはマリアンさんなんでしょう? 私のこと、好きでもないくせに!!
「……レラ。シンデレラ?」
「は、はい?!」
急に回ってきたセリフ。驚いて思わず大声で返事をしてしまった。
「何を驚いているの? 次はあなたの番ですよ。まぁ、パーティーへ行っていないあんたに合うはずもないでしょうが」
あ……そっか。ここは驚きながら返事するところだったんだ。よかった。私は義母役の太田さんにガラスの靴を渡され、椅子に腰掛けてそれを履いた。するとその靴はピッタリとハマる。
太閤役の佐藤君が嬉しそうに笑うその後ろにはリオン君が。リオン君がずんずん近づいてきて私の手をとって手の甲にキスを落とした。
「やっと見つけた」
そう言って。
「僕の、妃になってくれますか?」
「はい」
――と、返事と同時に私はリオン君に回し蹴りを入れる。が、しかしリオン君は軽々と避けてしまった。生徒たちはざわめく。だけど、そんなのお構いなしだ。
「なんて、言うとでも思った!? なんなの!?」
「それはこっちのセリフだ。突然何だ!」
リオン君と私は睨みあう。一触即発の状態に、生徒たちもしーんと静まり返る。
「返せよ私のファーストキスとセカンドキス! あんな……公衆の面前で! 酷いよ! それに、リオン君には好きな人がいるんでしょう!? 最低だよ!」
「……それはっ!」
「ふざけないで! 私が……今どんな思いをしてるかわかる!?」
私はリオン君の頬を殴る。バチンという音が響き渡った。ざわめく、体育館。私への非難の声。もう、そんなのもどうでもよくて。今はとにかくリオン君の顔を見たくなかった。
ごめんなさい、部長。今度は私がやらかしました。私はボロいスカートを引きずりながらさっさとステージ裏に回ろうとした。が、リオン君に手首を掴まれてしまった。
「僕は! お前が好きなんだ、!」
「――――ッ!?」
突然のリオン君の告白に、私はただただ驚くことしかできなかった。
執筆:04年3月23日
修正:10年11月1日