真夜中、私はふと目が覚めた。当然だけど、あたりは真っ暗だ。床に見慣れない人影が見えたので一瞬不審に思った。

「――そうだ、リオン君がこの家に住む事になったんだっけ」

 私はベッド下で寝ているリオン君を見て、声が出るか出ないかの大きさで呟く。
 昨日のことを思い出す。朝起きたら私の隣で寝ていた少年、リオン君。女の子みたいで可愛いけど毒舌でどこか人を避けて生きているような人。

「う……ん……」

 寝苦しいのか、リオン君が唸った。おふううう、唸りましたよ! か、可愛いな! ウホ! 今度は寝返りうった!

「マリ……ン」

 ……ん? んんんん!? マリリン? リオン君はマリリ●・モンローが好きなの!? ちょっと意外な趣味をお持ちなのね。あれ? でも、リオン君は昨日この世界に来たんだからマリリン・モ●ローは知らないわよね? ということは、マリリンという名の……いや、まさか。うん、きっと昨日偶然テレビで見てファンになったんだね。

「……」

 もう寝よ、起きてから色んなことを聞いて、リオン君とい人物の事を知ろう。特に、●リリン・モンローのどこが好きなのかを。



※ ※ ※ ※ ※



 日曜日の朝9時36分。

「おい」

 ――――。

「おい!」

 ――うるさいなぁ。眠いんだから寝かせてよ。

「おい! 起きろ!」

 ゴキョ!!

「痛ってーーーーーーーーー!!」

 ななななな何!? 殴られた!? 頭を思いっきり! マジで痛ぇ! ていうか誰に!? 何で!?
 私はズキズキと痛む頭を擦りながら体を起こす。すると、目の前には綺麗な美少年がこちらを睨んでいて――。

「フン、寝坊とはだらしの無い奴だ。ほら、さっさと僕の服を買いに行くぞ」

 私を殴った犯人はリオン君。リオン君は昨日私が用意してあげた服を着ていた。
 あ、カワイイ。すんごく似合うなぁ。何でも着こなせるのかなぁ。
 リオン君の手にはシャルティエというリオン君が持っていた剣(物騒だなオイ)。そしてその剣の柄には赤い液体……?赤い液体!?
 私は殴られたところを再び触ってみた。そして、自分の手を見てみると、シャルティエに付着しているのと同じ、赤い液体が!!
 ちょっ!!血が出てるぉおお!?

「な、殴ったね! 親父にも殴られた事が無いのに!!」

 ア●ロ、逝きまーす!

「お前の頭はひ弱だな。頭の悪さが如何なるものかわかるな」

 いやいやいやいや! 頭の悪さと頭の弱さは関係ないと思われるんですが。

「失礼な! ていうかあんな殴られ方されて血が出なかったら変! むしろ人間じゃない! あーもう! 私はか弱い女の子なのよ!? 起こすならもっと優しくし起こしてよ!」

「その゛か弱い女の子″という論評は避けるが……まぁ、弱いのは確かだな」

 く、どこまでも生意気で…………可愛いヤツだ。
 私はしぶしぶとベッドから降り立った。頭の血は放っておけば止まるでしょう。いつまでもパジャマでいては買い物にも行けないし。

「着替えるわ」

「ああ」

 そして私はパジャマを脱ぎはじめようとパジャマに手を伸ばした時。視線を感じたのでその手を止めた。

「――――」

「――――」

「着替えるんだから部屋から出てってよ! この、変態さんめ!!」

「変態だと!? 聞き捨てならないな! 大体僕は……」

「いいから出てって!」

 私はリオン君を廊下に強制送還し、部屋の鍵をきっちりとかけて着替え始めた。廊下ではリオン君がブツブツと何かを言っているけど、それは聞こえないフリした。



※ ※ ※ ※ ※




 朝食にトーストと目玉焼きとコーンスープと、デザートにプリンを出した。プリンは私特製の自信作。しかし――、

「こ、こんな甘ったるいもの、食えるか!」

と、リオン君が怒鳴りだした。
 そっか。リオン君は甘いものが苦手なのか。

「ご、ごめん」

 私は慌ててリオン君のプリンを片付けようとした。しかし、リオン君は咄嗟に私の手を掴み、俯く。

「え……何?」

「このプリンは……その、お前が作ったのか?」

 リオン君が俯きながら、トーンの低い声で呟く。私は不思議に感じながら、「そうだけど」と答えた。

「せ、せっかく……お、お前が作ったんだ。食べてやらないことも無い」

 そう言ってスプーンを持ち、プリンを口に含むリオン君。ほんのりと、顔が赤かった。
 え、何コレ。もしかして、嫌いなプリンも私が作ったから食べてくれるの? いや違う……もしかして、本当はリオン君はプリンが好きなんじゃ?
 あー、たまにいるよね。男が甘いもの好きなのはカッコ悪いと思ってるヤツ。

「ふ……素直じゃないね」

 小馬鹿にしたように呟いてみると、リオン君はどこから出したのか、シャルティエの柄の部分で再び私の頭を殴った。

「いったああい! うわあああああああん! 母上に言いつけてやるぅぅぅっっっ!!」

 何ですぐにシャルティエで殴るわけ!?
 私はポケットからケータイを取り出し、目にも止まらぬ速さで母親のケータイに電話をかける。
 5コールで母親が電話に出た。

? どうしたの?』

「昨日うちにきたリオン君が私の頭を剣の柄で殴ったの! 血が出たのよ!!?」

 きっと「剣の柄」ってところで吃驚するだろう。銃刀法違反だしね。とは言っても訴える気なんてサラサラ無いんだけど。
 それはそうと、母の反応がとても楽しみだ。

『何バカなこと言ってるのよ。んなもん舐めておけばあとは自然に治るわ』

 ――――!
 ……酷いです! それが親が子にとる態度!? 日本がピンチだ! これ絶対虐待に値してないか?! オイ!! そして流石アメリカ勤め。日本の憲法なんてどうでもいいかのようだな。

 私は即電話を切り、リオン君を鋭く睨んだ。リオン君はプリンを食べながら私を見下したようにせせら笑う。と、同時に私のケータイが鳴る。電話に出ると、相手はさっき電話で話した母だった。

『さっき言い忘れたけど、母さんリオンちゃん(ちゃん!?)が明日から達と同じ学校に行けるように手配しておいたから。制服も今日中に届くって言ってたから、リオンちゃんも学校に連れて行ってね!』

 そうか、リオン君も学校に通うのか。そういえばうちの高校は金さえ払えば入れるボンの学校なんだよね。流石私立。何でうちにそんな金があるのかは謎なんだけど。
 リオン君が学校にくる……。リオン君かっこかわいいから即座にみんなのアイドルに! そしてマネージャーの私はリオン君のサインを1000円で売りつけて……よくよくは大手芸能プロダクションを設立して……リオン君を売り出してガッポガッポ! イイ! それ! 私のお財布の中も超安泰ってやつね!?

「フフフ……わかった。ところで、教科書とかはどうすればいいの?」

『まだ1週間は届かないらしいのよ。まぁ、がなんとかしてくれるわよね?』

「人任せにすんなし!!」

 いくら私がマネージャーだからってねぇ。
 私は再び電話を切り、学校の事をリオン君に説明した。

「……ち、この女に面倒をかけるのは気が引けるな」

「ちょ!? …まぁいいわ」

 ここでいちいち怒鳴ってたら体力が持たない。
 あ。頭の血もいつのまにか止まってた。



※ ※ ※ ※ ※



 私とリオン君は喧嘩をしながらも朝食を済ませ、服を買いに家を出た。
 日曜日なだけあって、街中には人があふれかえっていた。

「……、この世界は奇妙な建物が多いな」

 と、リオン君。
 やっぱり、リオン君のいた世界の建物や文化とは違うのかな?

「リオン君の世界の建物はどんなのだったの? やっぱりこっちの建物とは全然違う形なの?」

「いや、こっちの建物とは形はさほど変わらない。しかし、向こうの方が少し古風があるというか……」

 リオン君は少し難しい顔をした。
 って、そうだ!聞かなきゃ、あのことを。

「ね、リオン君」

「なんだ?」

「リオン君、マリリン・モンロ●が好きなの?」

「は?」

「だって、寝言で言ってたじゃん」

「マリリン・●ンローなんて知らん! 僕がそんな寝言を言うわけないだろう!!」

 あれ?マリリンじゃなかったのかな?そういえば…マリアン、とも聞こえたかな。寝ぼけてたからよくわかんないけど。

「……例え僕がどんな寝言を言っていてもお前には関係ない。第一、僕のことをあんまり知ろうとするな。迷惑だ!」

 んま! これから家族同然の関係になろうというのになんて冷たいお言葉ですこと。虐めたくなっちゃうなぁ、このド畜生カワイイコちゃん。

「そうね、変な事聞いちゃってごめんね」

 しかし、よくよく考えてみると、私もホント変なこと聞いたよな。そこは反省しよう。
 ふあーあ。欠伸出そう。きっと夜中ひっそりと起きてリオン君の寝顔見て悦ってたからだな。
 私は口元を手で隠して欠伸をした…と同時に涙が出てきた。

……」

「え?」

「あ、その……今のは言い過ぎた、だから泣くのはやめてくれ。そうだな、お前は僕にいろいろ世話を焼いてくれているのに」

 は? 何が起こったの?何で突然リオン君は私に謝ってるの?
 ……ああ、もしかしてこの涙?あくびと同時に出た涙。私が泣いてるのと勘違いしちゃってるんだ。ぷっ、カワイー!!

「んーん。いいの、私の方こそ。リオン君だって言いたくない事はいっぱいあるだろうに私ってばいろんなこと聞いちゃってさ」

 面白いから欠伸して涙が出てるんだってことは黙っておこうっと。

「……

 フフフ、超可愛い。頬赤くして照れてるわ。騙されてるということも知らずに! ゲヘヘヘヘ。

「あ、ほら、ここ。ここで買おうか?」

 私は紳士服専門のコカを指差した。だって、リオン君スーツとかめっちゃ似合いそう。それに、普段スーツ来てれば、カッコイイ執事みたいじゃない!
 ふ、ふふふふ!萌える。とても、すごく!!

「普段着がスーツだと?」

「ダメ?」

「ダメに決まっているだろう。何を考えているんだ」

 却下されるスーツ。何を考えてるって、執事なリオン君の姿ですが何か? なんて面と向かって言えるわけもないので、仕方なく他のお店を回ることになった。



※ ※ ※ ※ ※



 カジュアルな服を買った後、丁度昼飯時だったのでファミレスに寄っていった。メニュー表を見ながら「うーん」と唸る私。そして、静かにメニュー表を睨んでいるリオン君。
 こうしていると、まるでデートしているかのようだ。周りの目に、私たちはどう映っているのだろうなんて少し思う。

「ね、リオン君は何が食べたい?」

「そうだな、グラタンにする」

「んじゃ、私はハンバーグ」

 店員さんを呼んで注文をし、お昼時で混んでいたため、かれこれ15分くらい待った。ウェイターさんがグラタンとハンバーグを持ってきてくれて、それをテーブルに丁寧に置いていく。
 リオン君がグラタンをスプーンですくい、口に運んだ。やっぱ可愛い。男だとは思えない。
 しかし、私は見てしまった。彼がグラタン付属のにんじんを除けているのを!リオン君はにんじんが嫌いなのね。意外な発見に、私は小さく笑った。



※ ※ ※ ※ ※



 家に帰って、リオン君の部屋の片づけを進めた。ようやく綺麗になり、リオン君の部屋ができる。
 そして、明日はいよいよリオン君が学校デビュー。夕方に制服も届いて、早速試着してみる。

「……少し大きいな」

 リオン君は少し袖を捲くって呟いた。

「ぶはははっ!しょうがないなァ、裾縫ってあげるから貸して」

 リオン君は笑った私をシャルティエで殴ると制服のズボンを私に渡した。殴られた私は渋々と長いところを縫ってあげた。



執筆:03年2月22日
修正:16年5月14日