今日はいよいよリオン君が学校デビューだ。リオン君は容姿端麗でクールな美少年だから絶対人気者になるだろう。そして、マネージャーである私はお金をガッポガッポ。世の中すべて金じゃ。よくよくは芸能プロダクションを創立し、大手芸能プロダクションの社長になってウハウハな日々を過ごすのよ。

「おい!! いい加減起きろ!」

 ズゴ!!

「いったあああああいいいいいい!!!」



※ ※ ※ ※ ※



「私の頭にタンコブができているのは何故でしょうね!?」

 いつもの通学路を歩く私。だけど、いつもと違うのは、私の隣に新しい制服を着て仏頂面をしたリオン君がいるということ。

「それはお前が寝坊をした報いだ」

 平然と説明をしてくださるこの美少年こと、リオン君。寝坊したからってなにもシャルティエで殴らなくてもいいじゃない。
 ちなみに、これは余談ではありますが…さっきから通学路を歩く他生徒の視線が痛い。美少年の隣を歩いているからかしら?おっと!これは早くもマネージャーの仕事をしなくちゃならないかな?!

っ! おっはよ~」

 後ろから友達の咲が私を力いっぱい押してきた。
 そのせいで、私は前につんのめって、派手に転んだ。

「……おはよ。超痛いんだけど。何?私、最近怪我ばっかしてね?」

 私は起き上がって挨拶をし返した。
 咲は「ごめんごめん」と軽く謝る。そして、リオン君を見るなり目の色を変え、獲物を狙うような目でリオン君を見つめた。
 咲は肘で私の腹部を何度もド突いてきた。イタイイタイイタイ!
 ええ、それはとても力の篭った突きである。お前、力の加減ってものを知れ。

ってば! このイケイケメンメンさんは誰よ! 紹介しなさいよっ、コノコノォ!」

 イケイケメンメンってお前…。
 私は擦り剥いたところに絆創膏を貼り、渋る。そして当のリオン君は相変わらずの無表情であった。

「えっと、この人はリオン・マグナスっていう極悪非道人……ガフ!!?」

 リオン君を紹介していた私は、リオン君に腹部をおもいっっっっっっっっきり蹴らた。

「いっ……てぇぇええ!!!」

 私は立っていられなくなり、地面に膝を付いた。手加減無しに蹴りやがったな!あああすんごく痛い!!

「誰が極悪非道人だ」

 リオン君は私を抱き起こしながら呟いた。まだ痛みが引いていないのに、いきなり立たせるから、痛さが倍増する。

「うおおお痛ぇ!! 無理やり立たせんなし! ッギャーーー!! いででででで!!!」

「あ、あはは……確かに極悪だね。そしてあたしは先に学校いくわ。んじゃ!!」

 脱兎のごとく逃げていく咲。そうやってアンタは友を見捨てていくのね!

「ちょ、おま! 助けてくれてもいいんじゃないのぉぉお!?」

「あれは……お前の友達か?」

 リオン君が私に訊ねる。

「うん。そうよ。咲っていう――」

「簡単に裏切られたな、お前。それでも本当に友達か?」

 ――畜生。痛いとこばっかついてきやがる。可愛い兎には牙があるってやつか!?
 っていうか!!抱き起こされたところ見て他生徒達がこっち見てるよ!!

「ね、リオン君」

「何だ?」

「いい加減、肩にある手どけてくれないとアッパー喰らわすぞ。それとも、私とずっとこうしているのを他の人たちに見られていたい?」

 私がそう言うとリオン君は早々とその手をどけた。彼の顔はほんのりと赤くなっていたのは気のせいか。



※ ※ ※ ※ ※



 そして歩く事10分程。学校についた私達はまず、職員室に立ち寄った。

「この子がリオン・マグナス君ね」

 私のクラスの担任。50歳前後の中年である。生徒たちからはあまり人気が無く、むしろ煙たがられているが、本人は気にしてない様子。

「はい。でも何でリオン君と同じクラスなんですか?家でも学校でもずっと一緒ですか」

 5つもクラスがあるんだから何も同じクラスにしなくてもよくない?と思う。家でも学校でもずっと一緒ってコトですか。そりゃ、マネージャーとして一緒にいられるのは安心できるけれどさぁ。

「それはこっちのセリフだ。学校でもこの女と一緒だと思うとうんざりするな」

 にゃろう。家に帰ったら嫌というほど泣かす!絶対泣かす!

「ん~。でもね、先生もいろいろ考えたんだけど、やっぱりリオン君も知らない人といるよりも、知ってる人といた方が少しは安心できるかと思って」

 きっと、そんなことないよ。リオン君はこの世界の人じゃない。それなのに、こうやって立派にこの世界で生きてるんだから。私と同じクラスじゃなくたってきっと平気だよ。
 だけど、もう決まったなら仕方が無い。今更変えようが無いよね。

「もうそろそろ本鈴鳴るんで、私は教室行きますね」

 リオン君は編入生だから、後で先生と一緒にHRのときに教室に入ることになっている。編入生でなく、一般の生徒である私は本鈴の前に教室に入らなきゃ遅刻になる。
 職員室を出る前に、一瞬だけリオン君に目を向ける。いつも堂々としているリオン君あ、今だけは不安そうに見えた。



※ ※ ※ ※ ※



 HRの時間のことだった。
 先生と共にリオン君が教室に入ってくると、クラスは大騒ぎ。女子の黄色い声がすごいすごい。「かっこいい~」だの「きゃー」だの。彼の本性は君達の思っているものではないのだよ、と物凄く言ってやりたいね。
 男子は男子で「あいつかっこいいな」とか「の双子の兄弟?」とか言っている。中には自分の彼女がメロメロになっていて、リオン君に嫉妬するヤツも。
 とにかくリオン君はすぐにクラスの人気者になった。
 が、しかし――。

「なーんーで、席まで隣なのさ」

 そう、先生の考えで、リオン君の席は私の席の隣。これも、私がリオン君の唯一の知り合いだからだそうだ。
 とはいっても、私もリオン君と出会って2日ほどしか経っていないのだけれど。

「仕方ないな。これも運命だろう」

 文句も言わずに、平然と、どこかホッとしているような表情を浮かべているリオン君。
 ああ、そうか。リオン君も、やっぱり知らない人しか周りにいないよりは知り合いである私が近くにいた方が安心できるのかもね。
 私だったらやっぱりそう思う。知らない世界、知らない人たちに囲まれているリオン君はそんな素振りは決して見せないけれど、きっと本当は心細いんだろうな。
 先生はそれを解っていてリオン君を私と同じクラス・私の隣の席にしたんだね。
 そだね、私が全力でリオン君を守ってあげなきゃ。それが友達であって、そして立派なマネージャーだ。



※ ※ ※ ※ ※



 休み時間。私の席の隣の席は人でいっぱい。大半女子。リオン君が質問攻めにあってる。しかも他のクラスからも人が来ていた。
 私は関係ないので自分の机を人ごみから離してぐたーっと机に項垂れていた。というか、リオン君のファンになろうとしている人たちの邪魔にならないように避けている。

「ねぇねぇ! リオン君って名前からして外国人? 今までどこにいたの?!」

「…そうだな。今までは外国にいたが、どことは――」

 まぁ、異世界から来ただなんて言えないよね。

「じゃあさ、身長何センチ!? 小さくて可愛いね!」

「貴様らに教える義務など無い」

 身長、小さいからな(笑)はずかしくて言えないんだな。

「趣味とか、特技は?」

「剣の修行と読書だな」

 剣の修行かぁ。シャルを持ってるものねぇ。

「そういえばさんと同居してるんだってね。っていうことは2人って婚約者か何か?」

 ……ブッ!!誰今そんな可笑しな質問した奴!!確かにそういう考えになるのは不思議ではないけど、当事者になると微妙な気持ちになるもんだね!

「いや、僕はただの居候だ。とは婚約していない。結婚する気も無いな」

 余計なお世話じゃ。

「じゃあさ、マグナス君ってさんのことどう思ってるの?」

のことだと?」

 ちょっと待ってよ!なんでそんなこと訊くのよ!!うわぁ、きっとコイツ、カッコつけながら「使用人だ」とか「家畜だ」って言うに決まってら!

「ふん……は今のところ、僕の一番大切な人、だな」

少しだけ顔を赤く染めながら真面目に一句一句話すリオン君の言葉に、その場にいた全員が釘付けになった。もちろん、私もその中の一人だ。
しーん、と緊迫した教室。ざわざわしていた教室がリオン君の一言で一気に沈黙になる。

 ゛僕の一番大切な人″

 きっとそれは、私がリオン君を家においているからだ。この世界に来て、右も左も分からないリオン君を保護したからだ。そんな意味だと理解できるのはこの中では私しかいない。
 だから――。

「な、なんだ、マグナス君、やっぱりさんの事が好きなのね」

さんかぁ」

「……はぁ。期待させてくれちゃってさ」

 リオン君の問題発言で、集まっていた全員がいなくなってしまう。そう、リオン君の意味深な言葉は乙女達には「リオン君はさんが好き」と思われるわけで。
 最悪だ。これできっと私は美少年・リオン君を独り占めにしている性悪マネージャーだ。

「あの、リオン君よ……もっと言葉を選んでくれよ。もっとこう、使用人だの家畜だのって言うかと思ったのに」

 私は机に項垂れながらリオン君に言った。しかし、リオン君は眉間に皺を寄せて

「本当のことを言って何が悪い」

 と呟いた。

「え」

 リオン君は咄嗟に席を離れると、教室から出て行ってしまった。
 私は、リオン君の表情と言葉の意味を考えていた。
 えっと。私が恩人だから、大切であるんだよね。それ以上でも、それ以下でもないのよね。
 ……うん! 深く考えないようにしよう。



執筆:03年3月2日
修正:16年5月14日