リオンと付き合い始めた私。このことは、学校中の話題になっていた。祝福してくれる人もいれば、妬んでくる人、からかってくる人もいる。しかし、誰も私に対していじめとか嫌がらせとか、そういったことはしてこなかった。それはきっと、学校中で知られているから、私たちにちょっかい出そうものならその人が注目されてしまうだろうからだ。とにかく、私とリオン君は学校公認カップルになったようだ。
 咲はムフフと笑いながら登校してきた私の肩を抱き、耳打ちした。

「すっかり有名人ねー。リオン君の彼女サマ」

 まぁ、あんな大々的な告白を、全校生徒の前でされたのだ。もちろん、注目されるだろうなぁとは思っていた。それは予想通りだった。学校では常に誰かに見られている。けど、それはもう慣れた。

「まぁ、皆心のどこかで君たちがくっつくとは予想してたんじゃないかな」

 咲の言葉に、私は首を傾げる。

「な、何でよ」

「ほら、漫画とかでもよくあるじゃん。同居から始まる恋」

 同居から始まる恋。ああ、少女マンガとかでよくあるよね。私もビックリしてる。こんな漫画みたいな恋、できるだなんて。そもそも、リオンが異世界からやってきたあたりで漫画みたいなんだよね。
 リオンと出会ったときのことを思い出していると、バタバタと騒がしくこっちに誰かが走ってくる音が聞こえた。

! リオンと上手くやっていってるか!?」

 突然、バシッと背中を叩かれた。私と咲は同時に振り向く。蓮がニコニコ笑いながら「なぁ?」と問いかけてきた。



※ ※ ※ ※ ※



「まぁ、それはいいんだけど。今日うちに来ないか?」

 そう言って蓮がニッと笑う。

「は? 何で」

 私がそう答えると、蓮は目を輝かせた。

「言い直すよ。昨日夜中に秋葉原まで行って並んで入手した例のアレ、見に来ないか?」

 私はハッとする。それは、今日秋葉原で先行発売の入手困難と言われたとあるゲーム。正式な発売日は1週間もあとになってしまう。そんなものを手に入れやがったのか、こいつ!

「グッジョブ、蓮! もちろん行くよ!!」

「待て待て待て、落ち着け。あんたは何をしようとしている」

 私も目を輝かせて親指を立てると、咲がばしっと頭を殴ってきた。痛い。殴られた箇所を撫でて咲を睨む。

「何って?」

「わかってない! あんたは、リオン君の彼女でしょ!? リオン君放置で他の男の家にホイホイと行くもんじゃないでしょ!」

「蓮も彼氏いる女を軽々と誘ってんじゃねぇ!」と蓮の鳩尾に一発入れる咲。
 本当に、咲の男らしさと言ったらドキドキするものがある。なのに、何だこの女々しい意見は。まぁ、確かにリオン放置はいけないよね。

「じゃあ、リオンも誘えばいいんじゃないかなぁ?」

「あのね、そういう問題じゃないの。何でわからないのかなー」

 咲は眉を顰めて私を凝視した。蓮はプルプルと鳩尾を押さえながら私たちを見ている。

「リオン君はゲームに興味ないでしょ。一緒に行ったところでつまらないでしょ。むしろ、あんた達二人が楽しんでいるところを見せ付けられて可哀想じゃん」

「じゃあ……内緒で行けばいいんじゃないかな」

 私の答えに、咲が眉間に皺を寄せる。笑っているのか怒っているのかよくわからないオーラを醸し出しながら。笑顔が、恐ろしい。え、私何か悪い事を言った、のか?

「だからさぁ、何でそうなる?お前は彼氏よりもゲームが大切なのか? え?」

 どうしてわからないんだと言わんばかりにギリギリと歯軋りをする咲。彼氏よりもゲームが大切?

「え、どっちも大切じゃいけないの?」

「そうじゃなくて、蓮と二人で楽しむのはどうなんだってこと! リオン君がそれを見たらどう思う?」

「あ。あー……えー……」

 ――どう、思うんだろう。もしも、逆の立場だったら、リオンが私に内緒で他の女の子と楽しんでたら……ああ、なんか胸がチクってした。そっか、嫉妬しちゃうかも。

「……なんか、やだね」

「ようやく理解してくれた?」

 呆れ返った咲がため息を吐いた。ああ、恋愛って難しいな。こうして恋人ができてしまえば、異性の友達とはなかなか遊べなくなってしまうのだ。

「ごめん、蓮。行けないや」

 蓮には謝ってばかりだ。

「いや、オレこそ彼氏いるのに誘っちゃって悪かったし」

 蓮に申し訳ない気持ちと、ゲームが見れなかった悔しさと、リオンへの罪悪感が入り混じった気持ち。私ってダメな彼女だなぁと感じた。もしも咲に止められなかったら、リオンを嫌な気持ちにさせてたかも。



※ ※ ※ ※ ※



 昼休みに、リオンと一緒にお弁当を食べる。特にいつもと変わらない風景。ただ、いつもち違ったのは、私たちが恋人同士になったと言う事。だからといって変に意識する事はなかったけれど、先程の出来事が頭の中でぐるぐるする。

、どうかしたのか?」

リオンに話したら彼は傷つくだろうか。

「……いやー、さっき蓮がゲーム買ったから家に来ないかって言ってきて。私、それで行きそうになっちゃって」

 それでも、リオンに嘘はつけなくて、私は正直に伝えてしまった。怒った? 幻滅した? 嫉妬した? 恐る恐るリオンの顔を見れば、彼はきょとんとしていた。

「行けばいいじゃないか」

 何で行かないんだ? と首を傾げるリオン。あ、あれ? 何で? 嫉妬しないの? リオンは私が蓮と二人きりになっても大丈夫なの?

「リオンは、嫌だと思わないの?」

 そう問いかけると、リオンは優しく微笑んだ。

「お前はゲームが好きじゃないか。それを見に行くだけなのだろう?」

「……っ」

 急に、自分が情けなくなってきた。リオンは私のことを信じてるんだ。だから束縛しない。嫉妬もしない。正直、カッコイイと思った。私だったら嫉妬しまくって「行っちゃダメ!」って言うのに。

「オアツイですなー」

 突然背後から声がした。

「蓮」

 蓮はニヤニヤしながら私とリオンの間に割って座り込んだ。ちょっと邪魔だなぁと感じつつ、蓮を睨む。

「そんなに睨むなよ

 蓮がおどけて笑う。それに追い討ちをかけるようにリオンが言い放った。

「何しに来た、邪魔だ」

「リオンもそんな邪険にすんなって」

 リオンに言われると本当にしょんぼりしてしまった蓮。しかし、すぐにニカッと笑った。

「リオンって寛大だよな。ってことで、とキスさせてくれないか? キスしたら、きっと諦めつくと思うんだ」

「は?」

 何言ってんだコイツと思った。手にしていたおにぎりを落とした。蓮の顔がどんどん近づいてくる。恐怖で身体が動かなかった。逃げなきゃいけないのに、蓮はしっかりと肩を掴んでるし、近づいてくるし。綺麗な顔。でもリオンの方が綺麗だな、なんて悠長に考えてしまった。

「貴様……ふざけるな!」

 リオンは蓮から私を引き剥がし、そして抱きしめた。うわぁ、うわぁ。なんかすごいよ、ドラマみたいだ。

「いいじゃんか。キスくらい」

 蓮は眉を顰めて微笑んだ。ひ、額に青筋が浮かんでいるけど、私は気づかなかった事にしよう。

は僕の彼女だ。誰にも渡さない。他の男に触れさせてたまるか」

 リオンも私を抱きしめる力を強めた。これは……あれだ。「私のために争わないでっ」ってヤツ。ああ、私って罪な女ね。しかし何でこんなにモテてるんだろうな。しかも二人とも麗しの美少年ときた。神様、私、こんな幸せでいいのでしょうか? さっきの恐怖心は一体どこに吹き飛んだのやら。今、私の心は嬉しさと萌えで満たされていた。

、緊迫したシーンなのに何でお前はそんなに緊張感の無い顔をしてるんだ」

 リオンは私の顔を見て脱力した。

「いや、何。このステキな状況につい萌えてしまって」

「……どこがステキなんだ」

「男にはわかんないよ。こういう状況は乙女の夢なんだから!」

「くだらんな」

「リオンのバカ!」

 乙女の夢をバカにするなんて酷い!くだらんの一言で片付けやがって。

「えーと……なんか、オレが入り込むスキマもないのな」

 蓮はため息混じりに呟く。私とリオンは我に返って蓮を見た。つい、うっかり、二人の世界に入ってしまった事を恥ずかしく思う。

「ごめんな、。つい悔しくてさ。やっぱリオン以外のヤツとはキスできないよな」

「うん、やっぱり私はリオンが好きだから、リオン以外の人とはできないし、したくないな」

 私が言い切ると、蓮は切なげにリオンに訊ねた。

「リオン、もうとはキスしたのか? あの演劇部のアレは本当にしてたのか?」

「当然だろう」

 胸を張って答えるリオン。おまっ、それは威張って言うことじゃないぞ。

「なら――」

 蓮は私を押しのけて、リオンをぐっと引き寄せた。まさか、と思ったときにはもう遅くて。

 ――蓮とリオンの唇が重なった。

 私は思った。

「(どうしてケータイのカメラの起動は遅いんだッ!!)」

 ああ、シャッターチャンスが! 美少年のBLがっ! カメラ機能が起動する前に、二人のその行為は終わってしまった。私は悔しさのあまり、カメラ起動中のケータイをぶん投げた。

「仕方がないからこれで我慢する。と間接キスだぜ!」

 バチンと私に向かってウインクする蓮。そして、「じゃあな」と言ってぱたぱたと走り去ってしまった。ああ。美少年の貴重なBLを撮り損ねた。蓮を引き止めて「お願いよ、もう一回!」なんて言えるわけないし。
 私の隣では、リオンも顔を真っ青にしてショックを受けていた。

「――お前、今のを撮れなかったことにショックを受けたな?」

 気づけば、リオンが私を睨んでいた。はわわ。お、怒ってるぞー……。

「あ、ははー。ごめん、腐女子の宿命ってやつですかね? えへへ」

 リオンは私を引っ張ると、私の唇に自分の唇を重ねた。突然のことに、私の脳内はパニックに陥った。

「い、い、いきなり何をっ!!」

「消毒だ。それと、やっぱりあいつと二人きりになるのは今後禁止だ」

 リオンはそう言ってまた私に唇を押し当てた。
 ――と、授業開始のチャイムが鳴る。私はリオンを突き飛ばして教室に向かって走り出した。きっと、顔が真っ赤だ。恥ずかしいっ! でも、授業はちゃんと出なきゃ進級できないっ!

「ほ……ほら、リオン! 授業遅れるよ!」

「チッ」

 リオンが舌打ちしたのは気のせいにしておこうと思う。私とリオン君急いで教室に入っていった。



執筆:04年5月16日
修正:11年1月6日