なんか、リオンの様子がおかしい。そう思ったのはつい昨日、そして今日、リオンが頬を腫らして帰ってきた。まさかの事態に私は軽くパニックを起こしたが、リオンにど突かれて正気に戻る。本人に訊ねると「僕に構うな」って言われて逃げられてしまう。
だがしかし、このパターン、以前の私にもあったのだよ。そう、経験者にはわかるんだ。
――リオン君はいじめにあっている!
いやいやいや、とにかく傷の手当てが先決だよ、ね? それより……誰だ私のリオンの麗しのお顔に傷をつけたヤツめ! 殺す! コロス! ころす! KOROSU! KILL!!!
私は救急箱を持って自室へ篭ってしまったリオンを追いかけた。
※ ※ ※ ※ ※
登校中、リオンはだんまりとしたままだった。
「それがいつもどおりだろう」
リオンは私の顔を見て怪訝そうにポツリと呟いた。
「ひっ、人の胸中を勝手に読まないでよ!? エスパー!? ギャー! エスパーが出たぞー!」
「お前がそういった顔をしていたからだ! だいたいお前の考えることなんてたかが知れている。単純だからな」
リオンは「バカなことを考えるんじゃない」と吐き捨てて歩く速度を速めた。どうやら少しだけだけどいつものリオン君に戻ったみたい……沈んでるかなーって心配したけど、よかった、よかった。
昨日は結局やっぱりリオンは犯人の名前も何も教えてくれなかった。それどころか、「もう構うな」と言って私は部屋を追い出された。ていうか、昨日の夕飯当番リオンだったのに。チクショー。昨日はリオン特製ハンバーグだったはずなのにさ! 絶対許さないよ! リオンをいじめた犯人! 私のハンバーグを返せバカヤロー!
私はリオンに駆け寄る。リオンは「またか」といういかにも嫌そうに顔を歪めたが……。ふ、気にしないよ。そう、私はリオンの彼女だ!そう簡単に諦められるか。
「ね、リオン。私、今日バイトもないし一日ずっとリオンといるから!」
「昨日も言ったはずが……僕に構うなと」
そんなひどいよリオン! 恋人が甘いセリフを吐いているというのにそれはないでしょーよ! いや、それくらいリオンに余裕がないということなのだろうか。くそ、犯人め。あのリオンをここまで追いやるなんて一体どんな手を使いやがったんだ。
ふと、向こう側の歩道を見ると同じクラスの池倉が歩いていた。
あ、頬と腕と足と肩が傷を負っている。ていうかすごいぐるぐるに包帯巻いちゃってるし。入院してもておかしくないぞ?あれ。ん? まてよ。もしかして池倉がリオンを?
たしか、こいつは前からリオンのことを良く思っていないという噂があった。付き合っていた彼女がリオンにお熱になって別れたとか。
これは黒じゃなかろうか? あの額の痣なんてリオン君特有の技でしかつかないもん。そう、「必殺美少年回し蹴り」(名付:私)
池倉はきっとリオンに返り討ちにされたんだわ。ぶっふー、暴力でリオンに勝てるわけないじゃんか。リオンってば可愛い顔して喧嘩強いのよ? 私にはわかる。だって、シャルでど突かれる時、すっごく痛いんだもん。本人は軽くやってるって言ってるけど、本気でやってるってくらい痛い。私の苦労を思い知ったか!!
でも、池倉が私からハンバーグを奪った犯人とは断定できない。何分証拠がない。
「よし! 名探偵ちゃんが犯人をみつけてやる!!」
「バカやってないでさっさと歩け。遅刻するぞ」
リオンが私の制服の裾を引っ張る。私はバランスを崩して派手に転んだ。
※ ※ ※ ※ ※
美術の時間、先週の宿題だった『大切なもの』の絵を提出することになっていた。確かリオンはシャルを描いてたっけ。しかもそれがすっごく上手いんだよね。
美術の先生がリオンの絵を見て「うぉう!」と驚きながら歓声をあげる。
「すごいなぁ、リオンは。こんなものが家にあるのか~。大切にしなさい」
先生はそう言ってリオンの絵を掲げ、みんなに見せた。リオンは関心なさそうに鉛筆を指で回していた。流石リオンだぜぇ、冷静だ。私だったら恥ずかしくて騒ぎ立てるのにな。
「バカじゃねぇの? こんな剣があるわけねーだろ。夢ばっかみてんじゃねーよ、妄想野郎め」
池倉がリオンの書いたシャルの絵を見てわざとらしく大声で笑った。あの野郎、やっぱ池倉が犯人か! よくも、私のハンバーグを! 私は勢いをつけて立ち上がった。イスがガタンと大きな音を立てながら倒れた。
「はっ、池倉ってば哀れだね。あ~やだやだ。夢のない人って最悪。厳しい現実ばかり見すぎて芸術の「げ」の字もわからないでやんの!」
私はわざと大声で言ってやった。すると池倉は私に反論しようと大声をあげた。
「何だとっ!」
するとクラスの女子たちが池倉の言葉を遮りながら立ち上がる。どうやら乙女心(?)に火をつけてしまったようだ。
「確かに、の言うとおりだよね!」
「リオン君の夢のある絵をバカにするなんて池倉ってバカァ?」
「最低~。リオンの絵をバカにするとか全校女子を敵に回したようなもんでしょ」
「美術の成績、絶対悪いんじゃね? 僻みだろ、超うける!」
クラスの女子たちが口々に池倉の悪口を言い始めた。すると池倉は顔を真っ赤にして俯いてしまった。フフフフフ。なにこれ超いい気味! ハンバーグの恨みは恐ろしいんだからね!
「リオン、気にしないほうがいいよ。あいつが愚かなだけ!」
「最初から気にしてなどいない」
リオンは凛としながら無敵に微笑んだ。
それからはリオンがいじめにあうことは完全になくなった。どうやらリオンの敵になると全校の女子を敵にまわすということになるらしい。いや、それ以前にリオンは恐ろしいけどね。
※ ※ ※ ※ ※
なんとなくその辺をぶらついた後、家に帰るとリオンは食事当番でもないのに夕食を作っていた。ああっ、このにおい……ハンバーグ!
「ただいま! リオンっ!」
「……今日は遅かったな、当番のくせに」
「あ、あははーちょっと本屋で新刊漁ってたからさ。ていうか、ハンバーグ!」
私は嬉しさのあまりリオンに飛びつく。リオンは飛びつく私を受け止めると「危ないだろう」と怒鳴った。でも、その言葉とは裏腹にリオンはどことなく笑顔だった。
「には心配掛けてしまったからな」
「いや、そんなことないよ! 結局私は何も出来なかったし」
「それでも、嬉しかった。あいつは前からしつこかったが、ここの所過激になってきてうんざりしていたんだ」
リオンが私の額に唇を落とした。えへへ、なんだか今とっても幸せ。
『きぃぃぃぃぃそれにしても!! なんてムカツクんだろう! 坊ちゃんの絵もですけどこの僕をバカにするなんて!! 池倉ってヤツは大バカだね! いつかこの自慢の刃でヤツの首をちょん切ってやりたいよ! ウフフフフフフフフフ、楽しみだなぁ早くヤツの血を啜りたいよ!』
シャルがソファの上で一人荒ぶっていた。
「落ち着けシャル、お前は僕を犯罪者に仕立て上げる気か」
リオンは盛大なため息をついた後、キッチンに戻っていった。
※ ※ ※ ※ ※
翌日学校に行くと、池倉がリオンの下僕になっていた。もしかして、この学校の支配者になったのではと思ったらなんだか怖くなった。リオンはやっぱり偉大だと確信した出来事でした。
執筆:04年3月9日
修正:12年5月4日