最近私は授業に集中できない。それというのも、やりたいことがいっぱいあるからだ。まずは、ドリーム小説を書き上げなくてはならない。とりあえず、私はサイトを持っているけど……これが弱小サイトで。文才もあんまりないからいっぱい更新しなきゃ人も来てくれない。やっぱ夢小説はギャグかな。もちろん、甘々も好きだけど。でも、何故だか普段は笑えるネタってなかなか思いつかないのよね。
私は教科書の上にルーズリーフを置き直し、シャープペンを握った。先生の目を見計らいながら、文字を書き綴る。先生は黒板に夢中だ。よーしよーし、こっちを見るなよ? そのままそのまま……おっとっと! 危ない危ない。こっちを見て喋るなよバカヤロー。テメェは黒板と仲良くお話してろよ。そうだそうだ、いい子だ、こっちを向くなよ?以前貴様にノートの落書きを見つけられて晒されたこと、根に持っているんだからな。
――と。まぁ、仮にも教師になんてこと思ってるんだなんて思ってはいけないんだよ?教師なんていう生き物は、生徒の敵なのだから。
ああ、不思議。授業中ってなんだかどんどんネタが浮かんでくるんだよね。試験の前日に絵を描きたくなったり、掃除したくなったり……人間っておかしな生き物だなぁと思いながら私はルーズリーフとひたすら睨めっこしていた。
※ ※ ※ ※ ※
「何をしているんだ、お前は……」
休み時間が授業が終わってもなお、小説を書き続ける私。隣の席であるリオンが呆れ顔で覗き込んできた。私は慌てて書いていた夢小説を隠し、アハハと笑ってごまかす。
「国語のお勉強してたのっ!」
「さっきは数学だったが? 授業中に一体何してるんだ」
隣の席というのが災いし、リオンにしっかりと見られていた。く、これだけは隠さなければ…彼女が授業中に、二次元とはいえ他の男の子との恋愛を書き綴っていたなんてバレたくない。
「つ、次の時間の予習だし!」
「次は生物だろう」
イタイとこ突かれた。ことごとくツッコんでくるリオンに、私は冷や汗を流す。言い訳作戦ももう使えないだろう。
「まったくお前は……大方落書きでもしていたのだろう? ノートはちゃんと写したのか? 練習問題はちゃんと解いたのか?」
黒板を指差すリオン。黒板にはずらりと文字と数学の意味不明な文字がつらつらと記されている。それはもうぎっしりと。見ているだけで目が痛くなりそうだ。ていうか、拒否反応すら起こしそう。ああ、日直の人。早く黒板を消してくれ。
私は授業中に写したノートをリオンに差し出す。その隙に、ドリーム小説を書いたルーズリーフをさっと机の中にしまった。こんなもの見られたらだまったもんじゃない。
「もちろん……ちゃんと写したよ」
実は先生に見つかりそうになって、必死こいて写した雑な字盛りだくさん故に解読不能だったりする。普通に読めないし……あははん、どうしたものか。やっぱり怒られるかな。
「……読めないぞ。何だ、このナ●ック文字のような不思議な文字は!」
「失礼だな! そんなこと言ったらナメッ●星人に失礼でしょ! それは私にしか読めないように暗号化したのよ。ナメ●ク星人にも、もちろん他人にも解読は無理ね」
「暗号化する必要がどこにあるんだ、この電波娘!」
リオンは解読不能なページから前のページへとパラパラめくる。実は結構前から授業を聞いていなくて、ここ最近は本当に自分でも解読不能だ。「あ、だから成績悪いんだね私☆てへぺろ」なんて自嘲してみる。
そして、リオンはページをめくる手を止めると、そのページを私に突き出した。しかも、かなり前のページだ。
「こっちの字は綺麗じゃないか」
一体どんな違いだ、とリオンが眉間に皺を寄せる。確かに、サイト設立する前まではちゃんと授業受けてたんだよ。でもね、授業ってやっぱつまらないじゃない。人間って弱いから楽な方へと逃げちゃうじゃない。ふ、だから私も小説に逃げたのさ。
「すんませんね、どうせちゃんと授業受けてませんよーだ!」
どうせだったら開き直ってやる勢いでリオンに悪態つく。するとリオンは怪訝そうに私を睨んだ。
「まったくお前は……」
リオンは私のノートを閉じ、私の頭を軽く叩いた。コツンとあまり鈍くない音が頭上から聞こえる。実際、あまり痛くない。でも、゛叩かれた″ということには少しだけムっとする。
「そんなんで、次のテストは大丈夫なんだろうな? 一週間もないんだぞ? 前回のテスト、5教科で250も行かなかったじゃないか!」
「…さぁ? 別にもう全部赤点でもいいや。1回や2回赤点取ったって平気だよ。進学とか考えてないしー?」
将来のことなんてわからない。もう、適当に食べていければそれでいいや。本当言うと、実はまだ将来何をしたいのか、はっきりしていない。大学に行って、いい会社に入ったってどうせ私は長く続かないと思う。こんなご時勢だし、就職は難しいと思うし……フリーターでもいいかなって考えちゃう。お笑い芸人なんてどうだろうか。ああ、リオンと夫婦漫才っていうのもいいかなぁ? でも、リオンはきっと賛成してくれないだろうな。そういうキャラじゃないしね。
「お前は……。しっかりしろ。やればれきるというのにどうしてやらないんだ」
「やだなぁ。やればできる?そんなことない。そもそも、やる気が出ないんだよねー」
私の言葉を聞いたリオンが額に青筋を浮かべた。次の瞬間、私はリオンにぎゅうぎゅう頬を抓られる。
「いひゃい! いひゃい!」
「――そうか。なるほど」
リオンが突然ニヤリと笑う。
「お前は高校卒業後は僕と結婚して専業主婦になるんだな?」
僕はそれでもいいがな、とリオンが不敵に笑った。ドキンと私の胸が飛び跳ねる。
――リオンと、結婚。
だけど目が……目が怒ってますよ、リオンサン。それに、だんだんと抓る力が強くなっていく。
「やはは……それでもいいかなー、なんて。……あだだッ!」
朝と夜だけ家族のためにテキトーに働いて日中はアニメ・ゲーム・パソコン三昧な日々を送るのもいいかもしれない。ああ専業主婦万歳! でも、それ以上に……リオンとの夫婦生活というものにときめいていた。
私はリオンに頬を抓られながら微笑む。リオン君は舌打ちをして、私を解放した。ああ、痛かった!
「――ば、バカが。とにかく、ちゃんと勉強はやっておけ」
顔を赤くしながら踵を返すリオンは、どうやらまんざらじゃなかったらしい。可愛いなぁ。
「はーいはい」
私はテキトーに返事をし、ニヤニヤ笑いを浮かべた。ふひひ、リオンってばリオンってば! 自分で言って赤くなってる。でも、今は小説を書き上げなきゃならないんだよね! 高校生活というものはとても短く感じられる。うかうかしてたらあっという間にオバサンだわ。ああ、サイヤ人みたいに若い時代が長ければいいのにな、なんて思いながらリオンを見つめた。
※ ※ ※ ※ ※
バイト帰り、私はルンルン気分で帰路についた。そして、笑顔で玄関の扉を開ける。
「ただいまっ」
「おかえり、」
そこには知らないお兄さんが立っていた。銀髪の肩まである髪を揺らしてニコリと私に笑顔を向けてくれる。
「え! あんた誰ですかーーー!?」
何!? 誰!? 強盗!? ストーカー!!? ちょ……リオンは? リオンはどうした!? 今日はリオンの方が先に帰ってて、当番だから夕飯の支度をしているはずで。ビックリして、私は脱ぎかけた靴を再び履き直して後ろに逃げる。
「坊ちゃんならリビングだよ?」
「いや、だからあなたは誰?」
「あ、そか……この姿では初めてだったね。僕、シャルティエだよ? 実は変身できちゃったりしちゃうんだよね」
バツが悪そうに苦笑する自称シャル。でも、確かにこの声はシャルのものだ。は? 何……シャルが変身?そんなことできたのかよ。シャルが人の姿に変身したのはもう驚かない。だって、リオンもシャルも異世界からやってきたんだもんね。何でもありだよね。
「ていうか、どうしたのシャル!? 何があった!?何 故人の形に変身!?」
何故いきなり人の形なのやら。いや、それにしてもシャルって人の姿になると結構な美少年で。思わず涎が出てしまう。
「突然ごめん……坊ちゃんに頼まれたんだよ」
申し訳なさそうに俯く人間型シャル。その後ろから、怒気が混じった声が聞こえてきた。
「今日からしばらく、シャルはお前の家庭教師だ」
リビングから出てくるなり、リオンは低い声で言った。家庭教師って、何で?
「だからって、どうしてシャルが人型になってまで――」
「テスト前だというのに、最近のお前の奇行が目に余るからな。けど、僕は一人でテスト勉強に集中したい。お前の分まで見ている余裕は無いんだ。シャルも一応頭はいいからな……こいつにお前を任せる事にした」
再び僕と勝負してもらうからな、とリオンが笑う。
「あのー、だいたい結果は見えてると思うんだけどー……」
私は靴を脱ぎ捨て、リオンを睨んだ。そう、満点のヤツにどうやって勝てというんだ。満点の上なんてないじゃん。勝ちようがない。
「ふっ、張り合いがあってこそテストは楽しい物だ」
「それ激しく間違ってると思う」
テストは楽しむ物ではなく、苦しむ物だ。リオンがいる限りもう絶対に1番にはなれないから諦めました。いっそ、落ちるとこまで落ちて楽になってろうかなんて。
「と、とにかく僕が教えるわけには行かないからな。最近サボっていた分の勉強は僕の代わりにシャルに教えてもらえ」
創作活動の邪魔をされる上に、投げやりなリオンの態度に、私はなんだか腹が立った。
「無理だよ! だって、こんなカッコイイシャルが横にいるだけで勉強に集中できないもん! ドキドキしちゃって、どんなに勉強したところでシャルが気になっちゃってそれどころじゃなくなっちゃうわ!」
「……!?」
勢いで反論したものの、ものすごいことを口走ってしまった事に気付き、私は慌てた。シャルの顔を見れば真っ赤になって照れて、私から視線を逸らしている。ちょ、やだ。そんな態度取られたら私も恥ずかしくなってきた!顔に熱が篭るのを感じながら、視線を逸らす。
少しだけシャルを見てみれば、視線がぶつかり合ってしまった。うわああああああ何これ甘酸っぱい恥ずかしすぎる!
「ちっ、わかったからもうシャルは剣に戻れ!!」
めちゃくちゃ不機嫌なリオンが私の腕を掴んで、リオンの身体の方に強引に引き寄せられた。あ、あれ……これって嫉妬してる?
「ふふふ、リオンってば嫉妬? かーわいー」
「べ、別にそんなんじゃ……! お前が集中できないというから!!」
「大丈夫! シャルはイケメンだけど、私が好きなのはリオンだけだって」
「」
リオンがはにかむ。はぁぁぁ、至福のときでござる! 一方、取り残されたシャルはやれやれと苦笑してため息をついた。
「今回は僕が勉強を見てやる。いいな?」
「う、うむ」
結局リオンに見張られてしばらくはサイト更新ができなく、しかもリオンの可愛い嫉妬により、シャルも剣の姿に戻ったままで、極たまにしか人の姿になってくれず、少し寂しい私だった。
執筆:04年12月15日
修正:12年5月4日