最近リオンが私のことを避けているような気がする。休み時間なんていつも片岡とばかり一緒にいる気がする。それについてはつい昨日片岡の彼女である咲もブチ切れファミレスで愚痴りまくっていた。

 ――あいつら最近妙じゃない?と。

 家でも、部屋に篭ってばっかで私と話すことは必要最低限のことだけ。
 あああ、リオンってばもしかしてこの私を差し置いて片岡とアブナイ関係を築いているのではなかろうか!? ハァハァ…グッドジョブだぜリオン! もしそうであるなら是非私は見守らせて頂きまっせ!
 リオンと蓮の熱いキッスを見てからというもの、私のBL熱は妙に上昇しつつある。私、やっぱ根っからの腐女子だわぁ。
 とにかく、私は今リオンとあまり話せないでいるからそれを改善したい。でも、なんとなく意識してしまって話そうにも話題がなかなか見つからない。せっかく話しかけることができたとしても、リオンは「そうか」と相槌を打ってくれるけどそれで終わる。
 ふ…一人でバカみたいじゃん、私。なんでいつも私からなのさ。不公平じゃない?……って思ったらなんだか萎えてしまい、私もリオンに話しかけるのをやめてしまった。何この悪循環。倦怠期なのかなぁ。
 もしかしたら私、知らないうちにリオンに何かしちゃったのかもしれない。でも、なーんにも心当たりがないんだよね。
 リオン、私が何をしたか知らないけれど……拙者、アンタから話しかけてくれるまで話しかけませんから!!残念!



※ ※ ※ ※ ※



 休み時間、何度もリオンに熱視線を送る。しかし、リオンは相変わらず片岡と話している。
 
 ――ああ、萌え……

 じゃなくって!
 なんだよなんだよ、楽しそうに笑っちゃってさ。前は……リオンの隣にはいつも私がいたのに。なんだか複雑。私たち、このまま終わっちゃうのかなぁ。
 リオン、バイト代も結構溜めてるみたいだしこのまま一人暮らしするとか言い出したらどうしよう。うおお、リオンが足りない。触れたい話したい抱きつきたい噛み付きたい。

、最近リオンと話してないみたいだな」

 突然話しかけられて振り向くとそこには蓮がニヤニヤと笑っていた。私はため息をついて「そうなんだよね」と答える。すると蓮は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、オレに乗り換えろよ」

「嫌ですよ」

 蓮の言葉に私は即答する。
 私はリオンしか愛せないの、今は、多分。

「そうかよ」と言って今度は苦笑いを浮かべる蓮を見て私は少しだけ切なくなった。
 どうして私なんかのことを好きでいてくれるんだろうな。なんだか、蓮に申し訳なくなってくる。
 そしてリオンは相変わらず片岡とばかり楽しそうにしてるし!

「ね、蓮」

「ん?」

「今日うちに遊びにこない?」

「ね?」と同時に蓮の肩を掴む。すると蓮は顔を真っ赤にして「えええええ」と大声を上げた。
 やだヒドイ。そんなに驚くことないじゃないかっ。確かにリオンはきっと嫌な顔をするだろうけれど、でも……私だって今こんなに苦しいんだ!誰でも良いから家に他人を呼びたい、たまたま蓮が適格だっただけの話だ。

ってば積極的だな! 浮気する気満々か!?」

「浮気じゃない。テメーに同情してやったのに何だその言い方は」

「ああ、オレを利用してリオンに嫉妬させてリオンに構ってもらうって作戦か」

「うっせ、違ぇよ。こっちはやましさ0%で同情してやったのに何でそんな私が悪者100%みたいな言い方すんだよゴルァ」

「同じようなもんだよ。この悪女。そんなところも好きだけどさ!」

「全然違うっつの! 私を悪者に仕立て上げようとすんな!!」

 クスクスと楽しそうに笑う蓮。だけど、そんな蓮がなんだか憎めなかった。

「じゃあ、今日行くから。まぁ、大好きなのためにとりあえず協力してやるよ」

「うん。ていうかお前いろんな意味でしつこいわ」

 笑顔のまま、私と蓮はお互い手を振って席に戻った。ちらっと、リオンを見ると、リオンもこちらを見ていた。
なんだか私を疑っている表情。私は慌てて視線をリオンから外した。
 ちょっとだけ胸が痛むけれど、もう賽は投げられたんだぜ……!
 でも、蓮の言うとおり、ちょっとだけリオンに嫉妬して欲しいとも思った。



※ ※ ※ ※ ※



「お、お前、休み時間に何を話してたんだ?」

「は?」

 授業中に早弁をしていたら突然リオンが話しかけてきた。久しぶりにリオンから話しかけてくれたから、結構嬉しい。

「さっき蓮と親しげに話していたじゃないか」

 眉間に皺を寄せながら、教師に聞こえないように小声で怒っている。もしかして、嫉妬してくれてんの? くはー、可愛いー! 嬉しいー! 嫉妬されるのってこんなにドキドキするんだ。

「……な、内緒」

「――――」

 私が答えると、リオンは不機嫌そうに視線を教科書に移した。
 ……あ、あれ。怒っちゃった。やっぱり素直に話せばよかったのかな。

「リオン?」

「何だ」

 やっぱり怒ってる。なんだか、悪いことしたかも。

「怒ってるねぇ」

 私の言葉に耳を傾けてくれているかもわからない。リオンはただじっと教科書を見ていた。
 ――ああ、この重い雰囲気。いやだなぁ。
 そんなことを考えていると、リオンはふぅ、とため息を吐いて目を伏せた。

「べ、べつに怒ってなどいない。ただ……」

 リオンの眉間に皺が寄り、私は首を傾げて問いかける。

「ただ?」

 気付けば、リオンは悲しそうな表情をしていて――。

は僕を嫌いになって、蓮のことを好きになったんじゃないかって不安なんだ」

と、言った。
 なにこれやだ可愛い! この破壊力、耐えられない。久しぶりのリオンのデレに、私の許容量が限界突破した。ここ数日リオンに構ってもらえなかった分、私の何かが解放されたのだ。
 私はガンッと大きな音を立てて顔を机にダイブさせた。教室がざわめき、視線は私に釘付けだ。

「ど、どうかしたのか

 先生が心配そうに声を掛ける。

「あ、すいません大丈夫です。ちょっと発作が、いつものことなので平気です」

 顔を上げて「やっちまったぜ☆」とウインクした次の瞬間。

 ――タラーリ。

 鼻から赤い液体状のものが流れ出た。

「お、おい! お前鼻血……!」

 リオンが慌てて席を立ち、私の手を引っ張った。私はリオンに引っ張られて無理矢理立ち上がらせられる。教室内のザワめきは一層大きくなった。

「先生、を保健室に連れて行きます」

 リオンは先生の応えも聞かないまま私の手を引いて教室を飛び出した。途中、私はこのままじゃまずいと思い、ポケットティッシュを鼻に詰め込んだ。



※ ※ ※ ※ ※



 生憎、保健の先生は出張でいなかった。私はリオンにベッドに腰掛けるように言われて、言うとおりに腰掛けた。
 いやん、鼻血のせいでもう手が血だらけ。

「はぁ。吃驚したー」

「まったく。突然机に頭を打ち付け鼻血なんて出すから驚いたじゃないか。わかってはいたが、お前バカだろう?」

 優しい顔つきで私の頭を撫でてくれるリオンが、新しいティッシュを手渡してくれた。

 私は構わず受け取ったティッシュを鼻に突っ込む。ああ、ドキドキしすぎて更に鼻血出しちゃったじゃん。不意打ちでしょ、リオンのばかばか。
 それにしても、リオンが私のことちゃんと想っててくれたなんて……。
 ムフフフゥ、嬉しすぎるッ!!

 ――ドヴァッ。

「って、鼻血の量増えてるじゃないか! 何を妄想したんだお前は!!」

「妄想じゃないもん、失礼だなぁ! 私がいつも妄想してると思ったら大間違いだし!」

「なら、その鼻血の量は何だ。まったく、妄想して鼻血を出すなんて漫画じゃあるまいし」

 まったく、と嘲るように笑うリオン。
 しばらくして、ようやく鼻血が止まり、私は鼻からティッシュを抜き、ゴミ箱へと投げ捨てた。血まみれになったティッシュは見事にゴミ箱に入った。

「ようやく止まったな、鼻血」

「うん。……なんか、ゴメン」

「謝らなくていい。いつものことだろう?」

「いつもじゃねぇって」

 何だその私がいつも妄想しては鼻血を出しているかのような言い草は。
 ――あれ、そういえば私、今リオンと普通に話せてる。それに、リオンもいつもみたいに話してくれている。

「あ、リオン……」

「何だ?」

 私は一旦目を伏せて、拳をぎゅっと握る。

「私、今までリオンに避けられてるみたいでツラかったよ。私がリオンに何かしたのかって考えたけど、原因なんて心当たりないし。ねぇ、私、リオンに何かした?ごめんね、私バカだからはっきり言ってくれなきゃわかんないよ……」

 目を伏せてたから、一瞬何が起こったかわからなかった。けど、目を開けると、リオンの顔がすぐ近くにあって。唇が、あったかくて、少しだけ、息苦しい。

「んっ……」

 そのまま私とリオンはベッドに倒れこむ。リオンは一旦唇を離しては角度を変えてキスをしてくる。うわぁ、なんだか凄く激しいキスだ。
 しばらくして、リオンは「はぁ」と息を吐いた。

が……最近蓮とばかり話してたから頭にきて。だから、片岡に相談したら、押してダメなら引いてみろと提案してくれたんだ。けど、僕がを避ければ避けるほどは蓮とばかり話すようになって――」

 リオンは今にも泣きそうな声を上げた。

「怖かったんだ。君が……僕以外のヤツに取られてしまうんじゃないかって」

 私、そういえばリオンと話さなくなる前から蓮と結構話してたかも。そっか、リオンは私が蓮のことを好きになっちゃったと思ってたんだ。
 私はリオンをぎゅっと抱きしめた。リオンが私に覆いかぶさるような形になり、リオンの重さを感じた。

「ごめんね。私、リオンが不安になってたのに全然気付けなかった。私、リオンが世界で一番好きだよ。リオンじゃなきゃ、ダメ」



 そして、私たちはもう一度キスをした。今度は、どちらからともなく、深い、深い、キス。
 ――まるでお互いの気持ちを確かめるかのように。



※ ※ ※ ※ ※



「――というわけで、リオンと仲直りできたから家に来るな、蓮」

「お前、リオンと付き合ってから俺への態度冷たくないか?」

 とりあえず、リオンを不安にさせないために極力蓮との接触を絶とうと決め込んだのであった。



執筆:05年7月8日
修正:12年5月4日