今日はわくわく日曜日。
 天気もよし。洗濯も終わり、私は洗濯籠を片手に空を仰ぎ見た。うおっ、まぶしっ! 今日はリオンとどこかに出かけようかなぁ。
 リオンは庭で剣の稽古でシャルを振るっている。ぶっちゃけ今日の食事当番代わってもらって料理に腕を振るってもらいたいわぁ。
 家に上がって籠を所定の位置に戻そうと脱衣所に向かった。ふと、洗濯機の上に置いてある物を見る。
 あれ、リオンの携帯じゃん。
 そういえばリオンって、誰かとメールのやりとりとかしてるんだろうか? そして、どんな話をしてるんでろう? とても想像がつかない……無難なところで片岡、とかかなぁ。
 ――すごい好奇心を煽られるなぁ。
 でも、人の携帯を見るのは法律違反になるんだっけ? プライバシーの侵害になるよね? だ、黙ってればわからない……よね!
 意を決して、私はリオンの携帯のメールの受信ボックスを開いた。

 ――げ。私からのメールばっかり。

 ……って昨日リオン君のバイトの帰りがあまりに遅かったからいつかのお返しをしてやろう、と思っていっぱい送ってやったんだっけ。
 お、48件目にして私以外の人からのメール発見! あ、日付が一昨日のだ。昨日は私としかメールしてなかったんだね。
 あれ、失礼ながら片岡くらいしか仲のいい友達がいないと思ってたのに、まさかの女性? しかも見た事のない名前だ。リオンのバイト先の人とかかなぁ。
 うわ、内容がすごい気になる! 何を話してるんだろう。
 その内容を見た私は一瞬にして血の気が引いた。心臓がドクドクいってるのがわかる。

「――何、コレ」

 思わず口に出してしまうほど、反吐の出る内容だった。

『今日はごはん付き合ってくれてありがとね☆(v_v。)人(。v_v)ポッ告白のお返事、いつまでも待ってます。私は本気でリオンのことが大好きです!( ´Д`)=○ )`ъ')・:'.,彼女さんと同棲してるって聞いたけど、私は諦めませんよ(*ノωノ)キャー』

 だが不覚にも二番目の顔文字に吹いた。何故好きだと言っているのに攻撃してるのこの人! ドSなのだろうか…!
 リオンがモテるのは学校だけでなく、バイト先でもなんだなぁ。
 バイト先が違うから全然考えた事もなかった。モテるのは仕方がない。告白されるのも仕方がない。問題は、リオンがこの女とご飯食べに行ったんだってことだ。
 告白されたってことは二人きりで行ったんだよね? 酷いわ私というものがありながら!!

「……ふぅ」

 このメールを消してしまいたい衝動に駆られる。だけど、消してしまったら携帯見ちゃった事がリオンにバレちゃうよなぁ。
 いや、正直にメール見ちゃいましたって白状するべきなのだろうか。くそう、モヤモヤしてたまらない。
 ――リオンは、何て返信したんだろう。まさか、二股掛けられてるということは?リオンってば何気に要領いいし、やろうとすればできないこともない、はずだ。

「何をしている」

 ヌッと現れる影。リオンが目を細めて私を見下していた。

「うわあああああ!?」

 ば、ばれた!

「やぁ、リオン! ご機嫌いかが? 今日の稽古はもう終わり?」

「誤魔化すな。それは僕の携帯だろう。何をしているんだ」

 リオンは私から携帯をひったくると画面を確認して「ふ」と鼻で笑った。あ、笑ってるってことは怒ってない? よかったよかった。
 私はリオンの気が変わらないうちに脱衣所を退散して逃走を計った。
 ――が、リビングまで逃げたところで追いつかれてしまい、私はソファーに押し倒された。
 リオンはすかさず私の上に馬乗りになる。やべぇ、これは逃げるのは難しい……!

「ほう、メールを見てたのか」

 リオンが微かに低音な声で言った。
 や、やっぱご立腹ですよねぇ、勝手に人様のプライバシー覗き見たんだもの。
 くっ、かくなる上は私も小説や漫画のネタを仕込んだ恥ずかしい携帯をリオンに差し出すべきか……!

「見たのか? あれを……」

 なかなか答えない私に痺れを切らしたのか、リオンの目つきが鋭くなる。
 見た、とはやはり先ほどの女とのメールのことなのか。こんなに真剣だということは、リオンはまさか本当に二股を掛けているってことなのだろうか。いや、二股を掛けるのではなく、メールの女と付き合うために私と別れたいってことなのかもしれない。

「み、見たよ」

 私は答える。するとリオンは顔を真っ赤にして私を解放した。この反応、やっぱりビンゴか!

「いつか言おうと思ってた……。でも、まだに言うのは早いと思ってたんだ」

 頭を鈍器で殴られたようだった。
 信じられない。つまり、私は今から別れを告げられるってことなの?ショックだ。ショックすぎて言葉が出てこない。

「そ、そう」

 私は短く応える。
 まだ早いって言うのは、私と別れたらこの家を出る準備とかしてたとか、そういうことなのかな。どんどん膨らむ負の妄想。
 でも、私がどうこう言ってリオンの行動を制限することはできないし。何よりも、リオンが決めたことだもんね。二股掛けられていたにしろ、私と別れてメールの女と付き合うにしろ、もうリオンとは一緒にいられない。
 すごく悲しい。まさかこんな形で終わるなんて思ってもみなかった。

 ――やば、涙出てきた!!

「ご、ごめん! 詳しい話は後で聞くから」

 私はすぐさまリオンを押し退け、自室に向かって走り出した。階段を駆け上がる。

!!」

 途中までリオンが追ってきたけど、途中で諦めたみたいだった。



※ ※ ※ ※ ※



「んー……。今何時、おやつの時間」

 私は横にある目覚まし時計をぼーっと見つめて呟いた。お腹すいた。というか、いつの間に寝ちゃってたんだろう。
 今後の事とか色々と悩んでたら、眠くなって――。
 うん、うじうじ一人で悩んでたって解決しないし、ちゃんとリオンと話をしよう。例え最悪な結果になっても、リオンは元々異世界の人間で、この世界に存在しないはずの人だったんだ。今までがおかしかったんだ、そう思えば……。
 それでも、このリオンを大好きな気持ちは消える事がなくて、苦しいかもしれない。

 ――とりあえず、前に進まなきゃ。

 私は意を決してリビングに向かった。しかし、ソファーでリオンがシャルを抱えたまま寝ていたのでなんか脱力してしまう。
 うう、可愛いよリオン。

……?」

 リオンが目をこすりながら呟く。あわわ、私の荒い息で起こしてしまったのか? まだ携帯のカメラ起動中だったのに!

「グッドモーニング、リオンちゃん」

 リオンはギロリと私を睨んだ。やっぱりリオンちゃんはだめだったらしくて

「ちゃんをつけるな。気色悪い」

と、言って吐く真似をする。

「いいじゃんかー……」

「とにかくちゃん付けするな。胃の調子がおかしくなる」

 最近お前のバカを見ていると胃がキリキリするんだ、とリオン。いつものような調子で会話するけれど、どことなくぎこちない雰囲気だった。

「……何も言わないんだな」

 リオンが少しだけ悲しそうに呟いた。私はリオンの隣に腰掛け、すぅっと息を吸い込んだ。

「まさかリオンが他の女の子とご飯食べに行ったとか、告白されてその子と付き合うとか思わなかったよ!あははは、別れても、リオンとは友達でいたいなぁ、私!」

「――は?」

 涙を抑えながら笑顔で親指を立てる私にリオンが大口を開けて「何だそれは」という顔をした。
 え、あれ? 違ったの……?

「僕が誰と付き合うだと? いつ誰がそんなこと言った?」

「だって、あのバイト先の女の人のメールの、本気なんでしょ……?」

 私の言葉に、リオンは目を細める。

「なるほど、はそのことを言ってたのか――」

「な、何? どういうことなの? リオンが言ってたメールって、一昨日の告白メールのことじゃないの?」

「当然だ。あの女が勝手に騒いでいるだけで僕はきっぱりと断った。食事に行ったのだって、行ってくれたら諦めると言うから行っただけだ。まだしつこく言い寄ってくるがな」

 リオンの答えを聞いて、私は口をぽかんと開けたまま固まった。
 え、私の思い違いだったんだ。

「僕が、お前以外の女と付き合うはずがないだろう。僕にはお前しかいないんだぞ?」

 アホ面したままの私をそっと抱きしめてくれるリオン。一人で暴走したことが急に恥ずかしくなって、私はリオンの胸に顔を埋めた。

「もー、すっごい恥ずかしいわー……」

 私が顔を上げると、リオンが額にキスを落とす。
 ――私ってバカだなぁ、もっとリオンのことを信じてあげなきゃだよな。
 でも、リオンは私が何のメール見たんだと思ってたんだろう?

「じゃあ、リオンが言ってたメールっていうのは何?」

「お前、その次のメールは見てないのか?」

「え? うん。見ようとしたらリオンが来て……」

「見てないのか!」

 リオン君は少しだけ表情を緩めた。なにこれ怪しい。

「うん。で、何かあるの?」

「な……ない!」

 私は否定するリオンからシャルを引っ手繰る。シャルは「な、何!?キャー!」という女性のような奇声を上げながら私に捕まった。どっから出したんだよその声。

「嘘だ! リオン、絶対何か私に知られたらいけないこと隠してる! 白状しなよー。人質がどうなってもいいのか!?」

『いやーん、坊ちゃぁーん! 捕まっちゃいましたー!』

「べつに構わん」

『ちょ、坊ちゃん酷いですよ! 僕がにあんなことやこんなことされてもいいっていうんですかぁ!? あ、でも僕的にはとあんなことやこんなことできたらとても嬉しいんですけどね……、今夜は寝かせませんよ!』

 シャルが興奮してハァハァ言い出したため、私はシャルをぽいっと捨てた。

「仕方がない」

 私は自分の携帯を取り出し、リオンに手渡した。

「な、何だ?」

「私の携帯見ていいから、リオンの携帯見せてもらうね」

 そしてリオンの手から携帯を引っ手繰り、即座にブラの中へとイン!

「お、お前どこに僕の携帯を入れて……!?」

 リオンが真っ赤になりながら私の肩を掴み、ゆっさゆさと揺らしてくる。

「ここに入れれば大抵の男は手を出せないんだぜ!」

 ぐっと親指を立てて舌を出せばリオンは私の携帯を開いてため息をついた。

「わかったから……見ていい。ただし、見ても何も言うな」

「おっけー!」

 リオンに許可を貰い、私はブラの中からリオンの携帯を取り出して問題のメールを見た。
 そこに書かれていたのは、先ほどの告白メールよりも衝撃的なものだった。片岡とのやりとりで、読んでいた私は赤面した。

『今日こそと【ピーーー】するんだよね? 誘い方はもう直球でいいと思うよwwていうか、何気に胸大きいし【ピーーーー】できるんじゃない?w咲のは小さくて無理だけどな\(^o^)/』

※過激な内容のため、規制させていただいております※

 ――片岡ェ。

 リオンは私の表情を見て、顔を真っ青にした。

「ぼ、僕はまだと【ピーーー】するには早いと思ってるんだが、片岡がそろそろしてもいいんじゃないかってうるさくてだな……!」

「ちょっと!!! その可愛い口で【ピーーー】とか言うな! もっとオブラートにつつめよぉぉおぉおお!」

 男子ってそういうものなんですよね。
 ただ、リオンからそんな言葉が出た事にショックを隠せず、私はリオンから自分の携帯を奪い返して咲に助けを求めた。

 翌日、学校で咲にボコボコにされた片岡の姿があり、なんとなくスッキリでした。




携帯盗み見るのはやめておいた方がいいんだぜ\(^o^)/

執筆:04年3月22日
修正:12年5月4日