リオン君がうちに来てから1週間、いろいろなことがあった。
大半が学校でリオン君のファンクラブができたり、大勢の女子がリオン君に告白してきたりだった。
もちろんというか、なんというか……リオン君は全員振ってたけれどね。
それはそうと、今日はリオン君にもこの近所のことをもっと知ってもらおうと思って一緒に書店まで出かけることした。
本当は買いたい漫画が大量にあるから荷物を半分持ってもらおうという、この企み。だって、自転車の籠には絶対入りきらないと思うから。
てなわけで、今日も元気にリオン君を誘ってこー!!
※ ※ ※ ※ ※
土曜日の朝。今日はとても天気がいい。
そんな今日はやっぱりお散歩日和なのだと思う。もとい、買い物日和。ただし漫画に限るけれどね。
あ、でも今回は珍しく漫画じゃないものも買う予定である。
リオン君は朝食を済ませ、リビングで新聞を片手にオレンジジュースを飲んでいた。親父くさいんだか、子供っぽいんだか、どっちだっつの。
私はこっそりとリオン君の背後に回りこみ、わざと大声を出した。
「リオン君~! 今日さ、一緒にツタ●まで行っかない?!」
ついでにリオン君をおもいきり突き飛ばした。そしたら、リオン君は飲んでいたオレンジジュースを吐いて前に吹っ飛んだ。
リオン君の口に周りと床にはオレンジジュースがべっちょりだ。こんなリオン君の姿を知っているのはきっと私くらいなものだ。リオン君のことを好いている子や、ファンクラブの子がリオン君のこんな姿を見たら何て思うだろうと思ったら、少しだけ笑える。
「ご……ごめ!! ひぃぃいいおもいきりぶっぱなしたね!」
「そんなことを言っている場合か」
「ああ! ごめん! 今拭きます!!」
そう言って私は洗面所からタオルを持ってきて、リオン君の口元を拭き始める。するとリオン君は顔をしかめて私からタオルをひったくった。
「…これくらい自分でできる」
「え、でも私のせいだし、これくらいはやらせてくださいよ、お坊ちゃま」
「誰がお坊ちゃまだ。自分で拭く。どけ、」
「じゃないやい! セバスチャンだい!」
リオン君からタオルを奪え返し、再びリオン君の口元を拭く。するとリオン君はほんのりと頬を赤く染める。やだなぁ、何赤くなってんだろ?
「やだなリオン君どうしたの? 顔が赤いよ? もしかして照れてる?」
「ち、違う!! 服も汚れたし、着替えるからもう拭かなくていい」
リオン君は私が止める暇もなく、リビングを出て行ってしまった。
――って。
「まだ返事もらってないじゃん!」
肝心なことを忘れていたことに脱力する。
まぁいいや。またあとでリオン君が戻ってきたら返事を聞こうっと。
※ ※ ※ ※ ※
しばらくして、リオン君が着替えを済ませて、再びリビングに戻ってきた。
私は読んでいた雑誌をソファーに放り投げ、リオン君に駆け寄った。さっきは返事が聞けなかったけど、今度はちゃんと真面目に聞くつもりだ。
「リーオーンーくーんー。本屋いかないー?ツ●ヤにー」
「さっきのことか」
リオン君はふぅ、とため息をつきながらソファーに腰を下ろした。
そしてさっき私が読んでいた雑誌の下にあった新聞を取り出して読み始める。新聞を目に通しながら興味なさげに言った。
「何で僕が一緒に行かなきゃならないんだ。だいたい、何の本を買うんだ?」
私は「うんとねー」と呟く。
「漫画とねぇ――」
「やはりな」
リオン君はわかりきってる、といった表情で盛大にため息をつく。この1週間で私の趣味を理解しちゃったリオン君。なんか悔しい。だけど、私だって漫画ばかりじゃない。そう、今回は――。
「゛プレッシャーに負けない″って本も買うの。漫画じゃなくて、小説よ!」
『ブッッ!!!!』
私が胸を張って答えると、誰かが突然「ブッッ!!!!」と吹き出した。
今、ここには、私とリオン君しかいないはず。これってもしかすると、幽霊? 怪奇現象? わ、わ、私ってば霊感あったのかな!?
「……い、今誰か吹いた?」
私が怪訝そうにに訊ねると、リオン君は驚いた顔で私を見つめた。
え!? その反応ということは、リオン君にも聞こえたってことなのだろうか。
「リオン君は吹いてないよね? 嘘!? やっぱ幽霊!?」
私は周りをキョロキョロ見回した。やっぱり私たち以外誰もいる気配がない。
「……やはりシャルの声が聞こえるのか?」
「は? シャルって喋るの?剣が喋るわけないじゃん」
冗談キッツー。この歳でそんな嘘言う人っているんだねー。
まさかリオン君がこんな幼稚な冗談を言うなんて、ね。でも、リオン君は大真面目な顔してシャルを取り出し、話しかけた。うわっ、そこまでして私を騙そうってか。
「シャル、何か喋ってみろ」
『はい? 坊ちゃん?』
確かに、そう聞こえた。
ていうか――。
「坊ちゃん!? え!? 何!! 剣が喋った!! ふおぉおおお!!! スゲーーッ!」
シャルが喋ってる!うわっ!すごいを通り越してキモッ!
リオン君の世界ってホント、どんな世界なんだろう?もしかしたら盾やら兜やら鎧まで喋れるのかな?
『え! 、僕の声が聞こえるの!?』
「聞こえますとも! すごいね、リオン君の世界の剣って喋れるんだね」
「シャルは特別な剣だ。普通の剣は喋れない」
リオン君が誇らしげにシャルを見つめる。
そっかシャルが特別だったか。そだよね。普通は剣が喋るわけないもんね。ていうことはシャルってレアもの!? うわー、ステキ!
「売ったらどれくらいになるかな」
「売らん。断じて」
私は舌打ちをしながらも、リオン君からシャルを引っ手繰り、シャルのあちこちを触り始めた。
するとシャルは色のある声を出し始めた。
『あっ、やだっ。、セクハラ……ッ!』
そんなシャルを私は素早く投げ捨てた。そして私の手についたシャル菌をはたく。
「で、一緒にツタ●(本屋)行ってくれるの?」
私は本題をリオン君に訊ねた。するとリオン君はシャルなど眼中にないかのように答えた。
「――ああ」
『ちょ……、坊ちゃん。ナイスシカト』
※ ※ ※ ※ ※
当然●タヤには自転車で行く。ま、リオン君なら何でもできるでしょう。
「リオン君はこの自転車を使ってね。母上の自転車だから何年も使ってないけどまだ動くでしょう」
私の隣にあった自転車を指差す。リオン君はものめずらしそうに自転車を見つめ、車庫から出し、広いところに持っていった。私はそれを確認し、自転車に跨る。私の後ろでリオン君も自転車に跨った。
「んじゃ、行くか!」
私は笑顔で拳を上げ、そして地面を蹴った。そして自転車に足をかけてこぎ始めた。
さー、行くべ。そう思った瞬間だった。
ガシャン!! という、派手な音が後ろから聞こえた。
「な、何の音!?」
私は自転車を降りて後ろを振り返る。すると、そこにはリオン君が派手に転んでいるではないか。
「――なんなんだこの乗り物は」
「いや、お前がなんなのよ」
リオン君の転んでいる姿がとても滑稽で。私は耐えようとしたが、やっぱり耐え切れなくておもいきり笑い出した。
「あーっはっはっはっは!! リオン君て自転車乗れないのね! ゴメン! あははは!」
「――こ、こんなものに乗った事など一度も無いんだ! 僕の世界にはなかったからな!」
『坊ちゃん、それなら最初から「乗った事無い」って言えば良かったんじゃないですか?』
リオン君の言い訳にシャルが痛恨の一撃。
「……っ!気が変わった。僕は行かないぞ。だからと言って、この自転車というものに乗れないからというわけじゃないからな!」
リオン君が顔を赤くしながらソッポ向いてしまう。
私、悪いことしたかもしれないな。リオン君なら何でもできるなんて勝手に思い込んだからいけないんだけど……んなわけ、ないんだよね。いくら優秀な人間でも、最初から何でもできる人間なんていないよね。
「わかってるよ。ごめんね、リオン君。私がもっとリオン君のこと考えてあげればよかったよね。じゃあ、今日は自転車の練習しよっか! 乗れるようになれば、行動範囲も広がるじゃない?」
「ツタ●に行かないのか?」
「うん、ツ●ヤなんて明日でもいいし。じゃあ、練習しよっか!」
「しかし……」
リオン君が渋っていた、そのとき。
――チャリチャリ~ン。
小さな子供が自転車(しかも補助無し)に乗っていた。その子が肩にさげている鞄にはチューリップのバッジがついている。あれはきっと……いや絶対幼稚園児だと思われる。リオン君はそれを見て、眉間に皺を寄せた。
「いや、やろう。、特訓を頼む」
「特訓って」
きっと、リオン君はあんな小さな子が自転車に乗っているのに自分が乗れないのが悔しくて、こんなにやる気になったんだろう。
そう思ったけれど、またど突かれそうなので、あえて口にはしなかった。だから私は腹の中で笑う。
『坊ちゃん、頑張ってください! あの幼児に負けないでくだ亜w背drftgyふじこlp;@:!!?』
「余計なことを言うな」
私があえて言わなかったことを言ってしまったシャルは、リオン君に踏み潰されていた。
私、言わなくてよかった。だいぶリオン君のこと理解できてきた、かな。
「ほら、シャルとにゃんにゃんしてないで、さっさと始めるよ!」
「にゃんにゃんなどしていない!!」
そして私による地獄の特訓が開始された。
※ ※ ※ ※ ※
――それから数時間後。
「わぁああ! ちゃんと乗れてるよ! すごいよリオン君!」
私はちゃんと自転車をこいでいるリオン君を見て感動していた。
リオン君も嬉しそうなのと同時に恥ずかしそうに自転車をこいでいる。そして、自転車を停めて、私の前に立った。
「……のおかげだ。ありがとう」
照れくさそうに私の手を握ってお礼を言うリオン君。
「え?」
彼のそんな行動がとても意外で。私は目を丸くした。そして、微笑む。
「やだな、リオン君が私にお礼を言うなんて意外だよ。熱でもある?」
すると、リオン君は私の手を離して真っ赤になった。
「僕はただっ、本当に感謝しているから礼を言ったんだ! 悪いか?!」
「ううん。悪くない」
だけど、今までこんな素直にお礼言われたこと無かった気がするし、リオン君はあんまりお礼とか言わないタイプだと思ってたから。
あ、もしかして、リオン君が私に懐いてくれたのかな。
そう思ったらすごく嬉しかった。
執筆:03年3月25日
修正:16年5月14日