リオン君がこの世界に来てだいぶ経つ。この世界の生活にも馴染んで、今ではほとんど不自由なく生活している。学校にも馴れ、クラスの人ともだいぶ馴染んできたし、ファンクラブも大盛況。
一方、私の方は大半の女子に羨ましがられていて。リオン君はカッコイイから、一緒に暮らしている私がとても羨ましいと、よく言われる。もう、それはそれは、ウザイです。だから、学校ではあんまりリオン君と話さないようにしている。
それはともかく。明日はいよいよ期末試験である。赤点を取れば、補習が待っている。
リオン君は問題集を買ってきて、人一倍勉強している。これは赤点取るわけないよね。ちょっと心配だったけど、これは私よりいい点取りそうだ。異世界から来た人間に負けたくないわね――。
※ ※ ※ ※ ※
「やぁ、リオン君。問題集はやってる?」
お茶と煎餅を持って、リオン君の部屋に入る。相変わらずリオン君は机に向かって勉強をしていた。
「ああ、とりあえずはできたが……地理だけはまだだ。他の教科は僕のいた世界と差ほど変わらんな」
歴史は昨日覚えた、とつけたすリオン君。ペンを置いて、お茶を啜って、煎餅に手を伸ばした。
「こればっかりは覚えるしかないもんね。つか、リオン君てば覚えるの早くない?その脳味噌、私にくれよ」
「バカを言うな」
リオン君が怪訝そうに私を睨むと、シャルが自慢げに言った。
『坊ちゃんは飲み込みが早いからね。は勉強捗ってる?』
「いや。私は勉強してないよ。なんか、今やってもすぐに忘れるから……直前にやらないと覚えられなくて」
本当に興味のあることしかきちんと覚えられないのよね。あと、大体は授業中に勉強するからいいのよ。
「お前はニワトリか」
リオン君の痛いツッコミが入る。ニワトリは3歩歩くと忘れるんだから。私の場合は数時間後に忘れるんだからニワトリよりはマシよ。
「失礼な人には差し入れあげない」
リオン君からお茶と煎餅を取り上げると、リオン君は「冗談だ」と言って微かに笑った。
「どうせお前は勉強しないのだろう? いつものようにゲームしたり漫画を読んだりしたらどうだ?僕の邪魔はしないでくれ」
私を見下すかのような言動。当然私はカチンときた。邪魔扱いしたよこの人。そこまで言うか? 折角差し入れも持ってきたのに。
「アンタ、腐女子をナメてっと痛い目見るわよ」
私だってきっとやればできるんだから。……今まで中の中くらいの成績しか取ってないけれどさ。
リオン君がニヤリと笑い、こちらを見る。
「それなら、僕とお前、どちらが点数を取れるか勝負するか?」
突然の提案に驚く。だけど、私は大きく頷いた。
「臨むところ! リオン君に負けたらなーんだって言うこと聞いてやるわよ! だけど、私が勝ったら、私を邪魔扱いしたこと謝ってよね」
相手は異世界から来た人間。たとえどんなに勉強しようと、まだこの世界の全てのことを知ってるわけじゃない。当然、私の方が有利なはずなんだ。悪いけど、この勝負は貰ったわ。
『何でもって……。止めておきなよ! 坊ちゃんは――』
シャルの、私に対する制止を遮ってリオン君が訊ねる。
「僕が勝ったらお前は本当に何でも言うことを聞くんだな?」
「――女に二言はないね」
私は仁王立ちしながらリオン君を見つめた。リオン君は「そうか」と言って再び机に向かった。シャルは相変わらず私の身を案じてくれている。
『、やっぱりやめた方が――』
でも、それはシャルが私を信じてくれてないってコトだよね。私だって、やればできる(はず)。
「テストの返却日が楽しみね」
「そうだな」
とりあえず、ここは争っている場合ではない。今からでも勉強を始めなきゃ。勉強した内容を忘れないように頭に叩き込まなきゃ。
そして、リオン君を見返すんだ。私をを邪魔扱いした罪を思い知るがいいよ。
※ ※ ※ ※ ※
そして勉強漬の一夜は過ぎ、ついにその日を迎えた――。
「う~ぉ~ぇ~。しまったよ、勉強しすぎて眠いしぃ~……」
登校中、私は目をこすりながら呟いた。目が鉛のように重く感じる。だけど、きちんと勉強したからテストは大丈夫そうだ。
「バカが。ちゃんと睡眠もとらないと体調を崩すぞ」
そんなリオン君はどことなく……いや、全然余裕そう。でも、何気に心配してくれてるんだよね。最近、リオン君はお礼を言ったり心配してくれたりと、トゲトゲしさが無くなって、丸くなった気がする。やっぱり、これはリオン君と仲良くなれてるってことなのよね?
「リオン君、心配してくれてるんだぁ。ありがとう!」
眠たいけれど、リオン君に笑顔を向ける。
「べっ、べつに……そういうわけでは――」
リオン君は頬を赤く染めながら私から目を逸らせた。明らかに照れている。
「照れなくてもいいって」
「か、勝手にそう思い込んでろ」
「うん、じゃあそう思い込むよ」
学校に着くのはあっというまで。昇降口で私はクラスの友達と会い、私とリオン君は別れた。あとからリオン君の友達がやってきたみたいで、リオン君もその人と教室へ向かった。
とにかく眠い。
テストの日は帰りが早いから、寄り道しないですぐに帰って寝よう。
※ ※ ※ ※ ※
数日後、テストが返ってきた。私は6教科合計奇跡の592点。こ、こんな点数を取ったのは生まれて初めてだわ! 私ってやっぱり、やればできるんだなぁ! やばっ、すごい嬉しい。これなら、当然リオン君に勝ってるよね!
私はすぐさま隣の席のリオン君に結果を訊いた。結果はわかりきってるんだけれどね。やっぱ、優越感に浸りたいじゃない。
「ね! リオン君、合計何点だった?」
「600点だ」
即答するリオン君。
――あれ、おかしいな。回答が早すぎて、よく聞こえなかったのだろうか。
「ごっめーん、もう一回言ってくれない?」
「600点、全教科満点だ」
そう言ってリオン君は返されたテストをさっさと鞄につめ込む。
「あ、やべぇ。耳クソたまってんのかな。ゴメン。よく聞こえなかった」
「何度でも言ってやる。600点だ」
私の耳元で大声を出すリオン君はとても意地悪だと思う。う、嘘。嘘でしょう!?こんなことって、あるの?信じられん。ありえねぇ。
――私が、負けたの?
「お前、何でも言うこと聞くんだったな?」
「え」
「女に二言はないのだろう?」
「あ、うん、そだけど……」
痛いのとか、ツライのとかは嫌だ。ああ、何であの時あんなこと言ってしまったのだろう。どうかしてたんだよきっと。今から謝って……って、そんなことできないよな、この雰囲気じゃ。
「何を、すればいいの?」
覚悟を決めて、恐る恐る命令を待つ。
リオン君は何を言ってくるんだろうと、ドキドキしていた。リオン君はふと微笑む。
「もっと、学校でも僕と話をしてくれ。それだけだ。」
「……え?」
あまりにも予想外な命令に、呆然とした。
だって、もっとすごいことを命令してくると思っていたから。無茶なことを言われる覚悟だったのに、リオン君と話すだけでいいの?
「何で――」
私が首を傾げると、リオン君は眉間に皺を寄せて、困ったような顔をした。
「お前、学校では僕のことを避けているだろう?僕と話していると周囲に注目されるのが嫌だからだとはわかっているが、やはり僕はと一緒に何かをしている時が一番好きなんだ」
――なんだ、わかってたんだ。
周りに羨ましい、とか嫌味とか、言われるのが嫌だったから、必要最低限、話さないようにしてたのが。
「仕方ない。私はリオン君に負けたんだもんね。勝者の言うことは聞かなきゃね。それが負けた者の運命よね」
羨ましいって言われたって、嫌味を言われたって、大丈夫。そんな小さなことでリオン君と距離をおくものか。せっかく、リオン君が仲良くしてくれるようになってきてるのに、私がそれに応えないわけにはいかない。
それにしても――。
「リオン君って友達少ない?」
「基本的に一人でいるのが好きなだけだ」
ファンは大勢いるけれど、友達は少ないリオン君。私と仲良くしてくれるのは嬉しいけれど、まずは友達も作ろうね。
執筆:03年4月4日
修正:16年5月14日