今日の私はテンションが高い。何故なら、今日は私の大好きなアニメが放送される日だからである。
今日は部活がギリギリまであったので遅くなっちまったが……待っててくれ、私の嫁たちよ!
そんなわけで、胸躍らせながら学校からマッハスピードで帰ってきた私。
あぁ、やばいやばい!始まるまであと2分しかない!靴を脱ぐことすらもどかしい。時間との戦いである。とにかく、靴を脱いだらリビングへ直行だ。
私は焦りながらリビングのドアを勢いよく開けた、が。しかしそこには先客が居た。言わずともそれはリオン君でした。
※ ※ ※ ※ ※
私はテレビのリモコンを求めて部屋中を探す。やべぇよマジで! あと1分もねぇよ! しかし、リモコンの姿は一向に見つからない。
「ちょっと! リオン君、リモコン何処!?」
「知らん」
リオン君はあっさり答えるとまたテレビに集中し始めた。ふと、リオン君の懐にちらりと…輝くものが。
あのー……リオン君、その腕に大事そうに抱えているモノは何ですか?私には我が家のテレビのリモコンに見えるのですが。
「うぉぉおおい!! リオン君ってばリモコン持ってるじゃん! ねぇ、貸してよ! ていうかそれを私に寄越せ!」
熱心に見ているところ悪いとは思ったけれど、やっぱ私だって見たい!!
リオン君は一瞬だけ、リモコンに視線を向けて顔を歪めた。
「僕は今これを見ているんだ」
リオン君はため息をつくと、またテレビに視線を戻した。リオン君が見ているものとは――。
――水戸●門(再)。
私はテレビ本体のボタンでチャンネルを変えた。私の嫁達が画面の中で笑顔を振りまいている。まだOPが始まったばかりだった。――と思った瞬間。私の嫁の一人が、●戸黄門に変身した――のではなくて、リオン君にチャンネルを変えられたのだ。
「ちょっとォ! 何で変えちゃうのさ!!」
「それはこっちのセリフだ。そんな幼稚っぽい番組、いい加減に卒業したらどうだ」
「なんですって!! うちの嫁にそんな口きいていいとでも思っているの!? だいたい私が幼稚なんじゃなくてリオン君がジジくさいだけなんじゃないの?」
よりにもよって水●黄門だなんて――。
私達の視線の間に火花が散っている。その火花がちょうどシャルの上に落ちていて。
『熱いよ!! 熱いよ!!』
シャルの呻き声が聞こえてくるけれど、今はそれどころではないので無視。
「嫁を返せ! 私達の愛を阻むものは例えリオン君でも許さないよ!?」
私が胸を張ってそう主張すると、リオン君は何も言わずに立ち上がった。
「勝手にしろ」
リオン君はそう言ってリビングを出て行ってしまった。私は大声で叫んでやった。
「ええ! 言われなくても勝手に見るよ! リオン君なんか大嫌いっ!」
つい言ってしまったけれど……言い過ぎちゃったかもしれない。とりあえず私はチャンネルを戻した。
――でも、なんだか、つっかかる。リオン君の出て行くときのあの表情。やっぱり私、言いすぎたな。
大好きなアニメを目の前に、私はため息をついた。さっきリオン君、あのとき寂しそうな顔してた、よね。やっぱり「大嫌い」なんて言ったのがマズったのかな?
謝ってこよう!リオン君だって本当は水戸黄●見たかったはずだもんね。それを私が無理矢理チャンネルを変えたんだ。私が悪いよね。というか……もう一台テレビを買えばいい…のだけど、そこまでお小遣いはないし。やっぱり来週からは私が録画しとけばいいや。
※ ※ ※ ※ ※
リオン君の部屋の前に立つ。ここまで来たはいいけど、どう謝ればいいかなぁ。
――って、考えたってしょうがない! とにかくますは「ゴメンネ」って謝ればいい。仲直りなんてそんなもんだ。
「リオン君、入るよ? さっきは――」
リオン君の部屋のドアを空ける。リオン君は何故か大きなバッグに荷物を詰めていた。
「「――――」」
微妙な沈黙が流れる。私は息を呑み、リオン君に訊ねた。
「あの~、何をしているのでしょうか?」
「見てのとおり、荷造りだ。僕はこの家から出て行く」
「――え。あ、な、何で突然?! そんなに水戸黄●が見たかったの!? やだっ! リオン君ったら見た目より案外お子様なんだね!?」
「――違う」
リオン君は表情を暗くすると、呟いた。
「は、僕が大嫌いなのだろう?」
「う……」
やはりそう来たか。しかし、今回はそれを訂正しにきたんだよ。頑張るのだ、私!
「嫌いな者が家にいては不快だろう? 僕はもうお前に迷惑はかけたくはない。今まで悪かったな」
リオン君は怒っていた。
……ていうかさ。私に迷惑かけるからこの家を出て行くというの?
「リオン君。私、大嫌いとは言ったけれど、迷惑だなんてそんなこと一言も言ってない。それに、大嫌いって言ったのは弾みで――」
私が否定するとリオン君はものすごい勢いで顔を歪めた。
「実はそう言いながらも本心なのだろう? 嫌われ者の僕はこの家にいる資格などない」
「――バカ」
私はリオン君の頬に平手打ちを仕掛ける。リオン君は私の平手打ちを素直に頬で受け止めた。痛そうに顔を歪める。私は涙が出そうになるのを必死に堪えて、リオン君を見つめた。
「仮に私がリオン君が嫌いだとしてもリオン君はもう私の家族なんだから。家族が一緒にいるのは当然でしょ? 出てくなんて言わないでよ」
私がそう説得すると、リオン君はこくりと頷く。そして荷物を詰め込んだ大きなバッグを床に降ろした。
「私、むしろリオン君のこと好きなんだから」
「……」
リオン君は私を優しく抱きしめてくれた。私の耳元で、「すまない」と呟く。私はへへっと小さく笑った。
「テレビのチャンネル争いなんて、久しぶり」
昔は家族とよくやっていたチャンネル争い。いつも私が負けてばかりで悔しかった。
今ではもう不思議と家族はチャンネル争いはしなくなった。そして、今はリオン君だけがこの家にいる家族だ。
「家族、か」
リオン君がぼそっと呟く。
「ん?」
「僕には、家族なんて呼べる人はいなかったから、普通の家庭に憧れていたんだ」
家族とはいいものだな、とリオン君は微笑んだ。
執筆:03年4月19日