明後日は我が演劇部で出し物がある。しかも、全校集会をのっとって行うのだ。
 ふっふふ、校長のつまらない話よりはいいでしょう?
 私はいつも「って漫研か美術部っぽいよね」と言われるが、演劇部だ。確かに私は漫画とかアニメは好きだけどドラマも大好きなのよね。
 劇で、『白雪姫』をやるんだけど肝心の王子様役がいないのよね。適任者がなかなか見つからなくて困っているのだ。はぁ、誰かいないかな……
 ――って、私の身近に王子様がいるじゃん! よし! 説得しに行こう!



※ ※ ※ ※ ※



「――僕に王子役をやれだと?」

「そだよ。いやー、ここはリオン君しかいないと思ってさ」

 数学の授業中、私はリオン君に話し掛けた。我が演劇部の王子役にもっとも相応しいのはリオン君だと、私の中で決まったのだ。
 しかし、リオン君も暇ではない。彼は剣道部に入部して間もなく部長をあっさりと倒してしまい、今や剣道部になくてはならない存在だからだ。

「悪いが、そんなことをしている暇は無いんだ。剣道部の大会も近いしな」

「ふーん、そっか。ゴメンね、そうだよね。リオン君も忙しいよね」

 しゅんとする私。そして、うる目でリオン君を見つめた。
 これで見つめて落ちない男はいないんだぜ? するとリオン君は「う…」と言葉を詰まらせて、「コホン」と咳払いをした。

「仕方が無い。今回だけだぞ」

「え! いいの? ありがとう、リオン君!!」

 自分でも策士だなって思う。ていうか案外ちょろいね、リオン君も。でも、確かに私の演技は部活内でも評判だけど。私は仕上げにリオン君に微笑みかける。

「じゃ、放課後になったら一緒に部室に行こう。部長に紹介しなきゃいけないし」

 リオン君はほんのりと頬を赤く染めながら小さく頷いた。こうかは ばつぐんだ。
 私はリオン君の見えないところでしてやったりのポーズをとった。



※ ※ ※ ※ ※



「部長、王子を連れてきました!」

壊れんばかりにドアを乱暴に開け、私はリオン君の左手を右手に、部室に入室した。

「お、。本当に連れてきてくれたか。けど、一応レディーなんだからもっと丁寧にドアを開けようね?」

 部長が黒く私に微笑む。そんな部長は石田珠樹といって、私よりも一つ上。今すぐにでも●ャニーズ事務所に所属できそうな美貌、美声を持ち合わせていて、女子からの人気がある人だ。私は興味ないけどね。
 そんなことよりも部長はとにかく演技と脚本を書くのが凄い。私は、部活見学で、部長の演技にやられてこの部に入ったのだ。

「お前が部長か」

 リオン君が乱暴に私の手を退け、部長の前に立ちはだかった。リオン君はなぜか部長を睨んでるけど、部長の方は笑顔を絶やさずにリオン君に微笑みかける。

「そうだよ。君が、王子役をやってくれるんだね? えっと――」

「リオン。リオン・マグナスだ」

「君があの有名なリオンか。オレは石田珠樹。よろしくな」

 部長は自己紹介をするとリオン君の手を握った。ごめんなさい。美少年同士の友情の芽生えに萌え心ときめかせちゃいました。
 しかし、リオン君は突如顔を歪ませた。

「リオン君? どうかしたの?」

「女みたいになよなよした手だな。それに、この女顔――」

 ――ブチッ

 リオン君の発言に、いつも笑顔な部長のデコに筋ができたのを私は見逃さなかった。いつの間にか部長の笑顔は消えていて、まさに一触即発の雰囲気が漂う。
 あ、あわわ。これじゃあ「友情から愛情★」どころじゃないよ。とにかく二人を離れさせなきゃ。残念だ、まったく残念だ。

「ささ、リオン君、衣装合わせしよう! こっち来て!」

 私はリオン君の手を引っ張る。リオン君は無言のまま私に引っ張られていた。ふう、世の中はそんなに甘くないみたいだね。



※ ※ ※ ※ ※



「やだっ! 見事にそのまんまだね!」

 リオン君に『王子様の衣装』を着せてみた。しかし、言葉どおり、そのまんま。

「これが……王子だと?」

『王子様の衣装』は、リオン君と出逢ったときに着てた服にそっくりなのだ。だから、そのまんま。

「似合いすぎ。っていうか出逢った時、リオン君こんな服装だったよね」

 私は懐かしくって、思わず微笑んでしまう。するとリオン君も優しく微笑んだ。

「――そうだな」

 そーだ。私も着替えなきゃ。私は制服に手をかける。
 すると――、

!?」

「え?」

 リオン君は顔を真っ赤にして手で目を覆った。リオン君、もしかして制服の下が下着だと思ってる?うわぁ、かーわーいーいー。

「大丈夫だよ、リオン君。制服の下に衣装を着てきたし」

 私がけらけら笑いながら制服を脱ぐ。リオン君は恐る恐ると手を下ろした。

「見てみて! これが小人の服!」

 緑色のパーカーに、ベルトをつけて……という小人をイメージされる服。そして仕上げにトンガリ帽子を頭の上にちょこんと乗せる。

リオン君は驚愕し、小声で言った。

、お前は一体何の役を――」

「ん? 言わなかったっけ? 私は小人役よ」

 私は「フッ」と顎に手を当ててカッコよく決めてみせる。しかし、なぜかリオン君は脱力していた。



※ ※ ※ ※ ※



 全校集会当日。もはや全校集会ではないけど。
 リオン君はろくに練習もしないままでいた。私は家でも一生懸命練習をしていたけど。リオン君、やる気がないのかな?それとも、簡単すぎて余裕だったのかな。どちらにせよ、今日は本番だから頑張ってもらわなきゃ。

「全校の皆さん、こんにちは! 演劇部の部長の石田です!」

 部長が挨拶をすると女子達が奇声を上げた。それは喜びの奇声だった。ある意味超音波。部長の挨拶がテキトーに終わるといよいよ私たちの出番だ。
 妃役の女の子が鏡に向かって「世界で一番綺麗なのは誰?」と聞く。私は、必死に「それは美少年であるリオン君じゃ!」と念じてみる。しかし鏡は「それは白雪姫です」と答える。当然だけど。
 妃は怒って白雪姫を殺そうとする。私は「そうだ、世界で一番綺麗なのはリオン君だ」と思いながら劇に見入っている。
 しかし白雪姫は森へ逃げ延びた。そこで、私の登場だ。
 私は少しだけ緊張しつつ、ステージに向かって歩みだす――。

「白雪姫さん、元気を出してください」

「ありがとう、小人サン」

 よしよし、どうやらセリフは覚えてるみたいだわ。この調子で頑張らなくちゃ。
 物語は終盤に近づく。白雪姫がリンゴをかじる。確かそろそろリオン君の出番だ。
 リオン君が舞台裏でマントを翻しながら立ったのが見えた。椅子がギシっと音を立てるのが微かに聞こえた。ガラスの棺の中に花と白雪姫が入れられる。ここでリオン君の出番だ。
 リオン君が舞台に出た。ホンモノの白馬に乗って。この学校はどうなってるんだろう。

「どうしたんだ? 小人たち」

 セリフは合っている。よかった、やっぱり余裕だったんだね、リオン君。
 劇を見ている女子たちが奇声を発した。相変わらずリオン君は大人気。だが、おかげで私のセリフが聞こえないでしょーよ。

「王子様、白雪姫が……毒リンゴを食べてしまって、死んでしまったんです」

 私は涙を流し、王子であるリオン君をそっと見上げる。もちろんこれは演技で。
 リオン君が白馬から降りる。

「美しい――」

 そう言った後、リオン君はガラスの棺を開けた。

「王子様?何をなさるのですか?」

「……貴方が愛おしい」

 リオン君は1輪の花をとる。そして、私に近づいてくる。周りからはどよめきの声。
 ちょっと待ってよ。こんなシーン、なかったはず。ていうかリオン君、色々間違って――

「……ぅ……んっ!?」

 リオン君は私の唇に自分の唇を重ねた。しかも全校生徒の目の前でだ。男女両方から興奮の声が聞こえる。

「僕の妃になってくれないか?」

 リオン君はいたずらっぽく微笑む。
 え、何コレ!?アドリブ――?

「お、王子様!?」

 私は顔を赤くしながら顔を伏せた。だ、だって。どう答えていいかわかんないし、それに、いきなり!

「ちょっと! どういうことよ!!」

 突然棺から立ち上がり白雪姫役の女の子が怒鳴る。私以外の小人が一斉に「白雪姫が生き返った!!」と驚きの声を上げた。生徒たちからどっと笑いが沸き上がる。しかし、リオン君は全く動じず私を抱き上げた。
 わあああああ……いったい何がどうなってるの!?わけがわかんないって!

「僕の妃になる人はこの可愛らしい小人だ」

 リオン君は白馬に私を乗せ、自分も白馬に跨る。
 小人役の人達はお互いの顔を見合わせた後、笑顔で「おめでとう!」と祝福してくれるそんなカオスな雰囲気の中、苦虫をかみつぶしたような表情の白雪姫役の子まで祝福してくれた。
 生徒達の笑いと歓声の中、劇は幕を閉じた。



※ ※ ※ ※ ※



「リオン君! どういうこと!? 死ね!」

 部室に戻った私達。当然、私はリオン君に問いかけた。

「げ、原作がつまらんから話を変えてやっただけだ」

「そうだね、たまにはこういうのもいいね。ありがとう、リオン。君はいいやつだ」

 部長が豪快に笑った。こんなことで二人が仲良くなるなんて――こんなの、間違ってる。

「部長が許しても私は許さないんだからね」

 私は「はぁ」とため息をついて唇を抑えた。あのときのことを思い出してしまう。

「そうそう、あのキスは上手かったね。まるで本当にしてたかのように見えたよ!」

 どうやら周りの人たちはキスするフリ、に見えたらしい。私は驚愕した。しかし、本当にやったとバレなかっただけマシかもしれない。



※ ※ ※ ※ ※



下校中、私は頬を赤く染めながらリオン君に訊ねた。

「リオン君。なんでホントにキスしちゃったの。私の事が好きなの? でもマリアンさんが好きなんでしょ? 二股なの?」

「……セリフを忘れたから利用させてもらっただけだ」

「はぁ?! じゃあ、私のファーストキスはリオン君の引き立て役で奪われたの!? ちょ…私は綺麗な丘でロマンティックな雰囲気の中でキスするのが夢だったのに!」

「くだらんな」

私はショックでしばらくリオン君の顔を見るたびにため息をついた。



執筆:03年05月03日
修正:16年05月14日