15:一騎打ち
がオレを拒んだとき、オレの胸はすごく痛んだ。
オレはにとって必要がないんだと思った瞬間、頭の中が真っ白になった。を守ることで、オレはとの繋がりができるから、その繋がりがなくなったらと思うと怖かった。キールにが取られてしまうのではないかと、怖かった。
――オレ、本当にバカみてぇだよな。
何とかと仲直りできたオレは確信した。やっぱり、オレはが好きだ。ただの仲間としてではなく、一人の女性として好きだ。
が誰を好きだろうとオレはを守る。
「キールとファラに言ってきたよ!」
の言葉に、メルディは涙を貯めながらに駆け寄る。
「……っ」
「大丈夫だよ、メルディ。きっと皆無事だって!」
がメルディを優しく抱きしめると、メルディは微笑みを浮かべた。
「……うん」
※ ※ ※ ※ ※
アイメンへ着いたオレたちは一瞬にして言葉を失った。オレたちが今目にしているのは本当にあのアイメンなのだろうか。場所は間違うはずもない。できればこれが夢であってほしい。夢じゃなかったらこれは幻であって欲しい。
破壊された機械の山と瓦礫化した家々に炎が上がっている。その周りには人だったものがごろんと倒れている。肉と皮膚が剥き出しになっていて、まだ血がどくどくと溢れ出ている。
「ひどい……ッ!」
ファラが口を抑えて顔を歪ませた。とメルディは放心した様子でじっと変わり果てた町を見つめている。キールが一歩歩み出て息を呑んだ。
「誰がこんなことを……!!」
オレは周りを見渡して嘆いた。すると、突然メルディが走り出した。
「メルディ!?」
それにいち早く気づいたファラが後を追う。オレたちも急いで二人の後を追った。
オレ達が辿り付いた場所は貯水塔だった。そこに、倒れているロッテとその横にはボンズが横たわっている。ロッテとボンズというのは、前にメルディにアイメンを案内してもらっていた時に出会った姉弟だ。
そのとき、メルディと歩いていたオレとキールはこの二人に「メルディの王子様?」と聞かれたことがある。
オレとキールが苦笑しながら否定すると、二人は「絶対そうだ~!」と言って無邪気に笑っていた記憶がある。
メルディはすぐさまボンズとロッテの息があるかを確かめた。ボンズは奇跡的に掠り傷しか負っていない。気を失っているだけだった。
しかし、ロッテはいたるところから出血している。傷も深い。メルディはロッテを抱きかかえる。
「ロッテ! しっかりする! ロッテ!!!」
するとロッテはうっすらと目を開け、傷だらけの顔で笑顔を作った。
「あ……メル……ディ…。ボンズは……?」
「無事でいるよ!」
「よか……った……」
ロッテがにこっと笑うと、キールは唇を噛締める。
「メルディ、怪我人に喋らせるな」
「あ……こないだの……メルディの王子様たち……」
「ロッテ、喋ったらダメ!」
「メルディ、ボンズを……お願――」
ロッテは最後まで言葉を発することができず、瞳の光が消える。息を引き取った瞬間、体中の力が抜けきってメルディに体重がかかった。メルディが目を丸くして、涙を流す。
「もう……これじゃレムでもどうにもできない」
レムを呼ぼうとしていたはクレーメルケイジを下げると、悲しそうに呟いた。レムの光の力で、ある程度の傷を癒すことができる。だが、それももう遅かった。
一体、何故この町が襲われたんだ!? 誰が何のために……!
オレは地を思い切り殴りつけた。血がにじみ出てくるけど構いはしない。オレたちがもっと早く来ていればッ!!
「リッド! もうやめて! 手が……!」
がオレの手を優しく握り締めてくれた。暖かくて、なんだか落ち着く。それでも、悔しさと悲しみは止まることなく溢れだしてくる、
「くそっ! くそぉ……!!」
ぜってー犯人見つけて殴り飛ばしてやる。
「見て、まだ図書館は燃えてない。壊されてないよ! まだあそこになら人がいるかもしれない!」
ファラが図書館を指差した。まだ図書館には火もついていないし、どこも壊れていない。初めてアイメンに来た時のままだ。
オレは立ち上がった。
「リッド……」
「もう大丈夫だぜ、。ありがとな」
オレはの小さな手を握って礼を言った。は「そんな、私は何もしてないよ」と言って苦笑した。
「よし、行くぜ! みんな!」
オレが気合を入れて叫ぶと皆はそれに応えてくれた。
誰か、誰でもいい。無事でいてくれ――
※ ※ ※ ※ ※ ※
「ぐあっ!!」
「バイバ! サグラッ!!」
図書館に入った瞬間、オレたちの方に飛ばされてきたサグラという、街の職人。メルディはサグラを受け止めようとしたが力が足りなくてサグラ共々倒れこむ。そして、奥の方から下卑た笑い声とともに剣を持った男が姿を現した。
――あいつは
「ヒアデスっ!」
メルディがサグラを壁に齎せるように座らせてながら叫んだ。
「何だ!? あいつは! バリルの手下か!?」
「あいつ! カムラン村長の家を壊してメルディを襲ったヤツ!」
キールの疑問にファラが早口で、怒りを込めながら答えた。
「ヒヒヒ。久しぶりだな、メルディ。こいつらとも一緒か。これは好都合だ。こいつら全員まとめて消せば、も連れて行ける」
ヒアデスはククク、と笑ってを見た。を連れて行くだと!?
「え……私? 何で?」
は、いやいやをするように首を振った。しかし、ヒアデスは構わずに手を伸ばす。
「やめろ! は渡さねぇ! それに…あんなに美しかった街をこんなんにしやがって……街の住民も……! お前だけは絶対許さねぇ!」
オレはを背に庇い、剣を抜いた。
何でが狙われてるのかはわからねぇ。それはやっぱり不思議な力を持っているからなのか……? フィブリルも関係あるのか? 理由がどうであれを渡すわけにはいかねぇよ!
「騎士気取りか? 小僧。ヒャハハハ、愚かだな。お前ごときに何ができる? は何が何でもこっちへ渡してもらう。死ねぃ!」
ヒアデスも剣を抜いた。
「リッド、私も戦う!」
「は下がってろ!!」
「え……う、うん」
加勢しようとしてくれたに怒鳴りつけ、オレはヒアデスに向かって地を蹴った。そして、剣を斜めに払う。が、ヒアデスに避けられてしまった。
「ヒャハー! 腕を上げたな、小僧!」
「ったりめーだ!」
――今度こそ、決める!
「獅子戦吼!!」
「ぎゃあああああああっ!!」
オレの攻撃があたり、ヒアデスは倒れた。しかし、よろりとよろめきながら再び立ち上がってくる。
――まだ、立つのか!
オレは剣を構えた。
「く……今回は貴様の勝ちだ。だが、今度会ったときは必ず――」
ヒアデスはそう言い残して退散する。なんとかなったことに安堵の息を漏らし、ふと、の顔を見れば不安そうな表情を浮かべていた。
執筆:03年9月13日
修正:17年6月8日