21:セイファート試練
「ここか」
セイファートキーが示した場所は、セレスティアの人里離れた辺境の地にあった。そこに一軒だけ、建物がある。メルディが「ここ、セイファート神殿だな」と教えてくれた。建物はかなり昔に作られていたようだけど、外装はしっかりしている。崩れる心配もなさそうだ。
「ここで、試練を受けるんだな? オレたちは」
オレがレイスに訊ねると、レイスは「ああ、そうだ」と言って頷く。
「ここがシレンするとこか?」
メルディが興味津々に建物の扉に触る。すると、メルディは大きな音と光と共に弾き飛ばされた。
「バイバ!?」
「メルディ!!」
心配したファラがすぐさまメルディに駆け寄る。メルディは「えへへ」と笑い、頭を掻いた。
「メルディがフィブリル、ダメみたいな。セイファートに嫌われてるみたい」
「ネレイドの闇の極光は受け付けないと言うことか」
キールがメルディを起こしながら呟いた。
「ありがとな、キール。メルディ、この中が入れないな」
セイファートとネレイドは対立している、ということか。
メルディはここには入れない。だからと言ってメルディ一人だけを置いていくわけにも行かない。それに、真の極光を使えるのはオレとレイスだけで、試練を受けるのはオレたち二人だ。キールとファラまで危険にさらすわけにはいかねぇ。
キールとファラにも、ここに残ってもらうしかねぇな。
「ここはオレとレイスで行くから、キールとファラはメルディと一緒に待っていてくれ」
オレの提案に、二人が頷いたのを確認して踵を返す。
レイスが帽子を深く被り直しながら神殿に入るのに続く。これから試練を受けるのだと思ったら、自然と気が引き締まった。
「行こう、リッド。を助けるんだろう?」
「ああ」
を助ける。その為に、……必ず試練を乗り切ってみせる!
レイスが神殿の扉を開けた途端、眩い光がオレとレイスを包み込んだ。
何が起こったんだ? 何も見えねぇ。真っ白だ。
※ ※ ※ ※ ※
光の中から人影が現れた。オレの目の前に現れたのは、レムだった。予想外の人物にオレは脱力する。
「……なんでレムがここにいるんだよ」
オレがあからさまに嫌な顔をすると、レムは口の端を上げる。
「お主はわらわの登場に不満を抱いているようじゃが、そんなに丸焦げにして欲しいのか?」
「い、いや。遠慮しておくぜ。でも、本当にどうしてお前がここにいるんだよ。オレはセイファートの試練を受けに来たんだぜ?」
「わらわがここにいる理由、それはセイファート試練の第一試練がこれだからじゃ――」
そう言ってレムが手を翳した。オレは再び光に包まれ、まぶしくて何も見えない状態が続いた。やがて光がだんだん弱まってきた――そして、見たことの無い風景が広がった。
「ここは……」
振り向いてみるが、レムの姿はない。周りには、おかしな服装をした人間。しかも、みんな同じ服を着ている。ただし、男女の服が分けられているようだ。
肌の色と髪色からして、インフェリアの人間だろうか? しかし、身分を示すチョーカーはついていない。
ここはインフェリアなのか? だけど、こんな場所オレは知らない。
「おーい!」
その声に振り向くと、がこちらに向かって走ってくるのが見えた。周りの女性たちと同じ服装をしている。
ネレイドに連れていかれたはずのが、どうしてここにいるんだ?
「!」
オレはに駆け寄る。しかし、はオレに気づかない様子でそのまま激突、することもなくすり抜けてしまった。
そうか、これはセイファートの試練なんだな、と冷静になる。とりあえずの後を追ってみることにした。は女の子と楽しそうに歩いている。きっと、友達なんだろうな。そう思いながらの後ろを歩く。
……これが、の生きていた世界なんだろうな。いかにも平和ってカンジだ。モンスターも全くいない。空を仰げば、セレスティアもない、どこまでも真っ青だ。綺麗だ、と思った。
こんな平和な世界から、エターニアに来たとき、はどう思っただろう。怖かっただろうな。不安だっただろうな。最初、の戦い方が全然ダメだったのも頷ける。だけど、は本当に強くなったよな。
暫く歩いたところでが建物の中に入っていく。人がいっぱい集まっているそこは、ミンツ大学に似た雰囲気だった。成程、はキールと同じ、学生なんだな。
「……通りでキールの難しい話についていけてたわけか」
そんなオレの呟きは、誰にも聞こえなかった。
教室の中で、男子に挨拶されてる。すっげぇ、親しそうにしている。なんだか、妬けてきた。この中にの好きな奴がいるのかとか考えてしまう。
そういえば、の言っていた、死んでしまったヤツっていうのは、どういうヤツなんだろう。
「、ホントにリオンが好きだね」
「もうね、大好きっ! 結婚したい!」
と、その友達が談笑していた内容を聞いたオレは鈍器で頭を殴られたようにショックを受けた。
結婚したいくらいに好きだという、の想い人であるリオン。がリオンってヤツの話をするだけで、とても胸が締め付けられる思いだ。もし、を助けて、グランドフォールを止めて、この世界に帰ってきたら、はリオンってヤツのことをずっと想い続けるのだろうか。
オレのことなんて忘れちまって、他の男の事を考えるなんて想像したくねぇ。そもそも、そいつはもういない人間なんだろ? 一緒には生きていけないかもしれない。けど、世界が違ったって生きてさえいればまた会えるかもしれないだろ? だったらオレは、生きる。のために。
オレの一方的な片思いだろうが、の幸せを願うくらいは許されるはずだ。
――その瞬間、オレは光に包まれ、元の場所に戻った。そこにはレムがいて、戻ってきたんだなと実感する。
「見てきたのじゃな」
「ああ」
「決心もしたのじゃな」
「もちろんだ」
世界が違えども、が笑ってくれるなら――それでいい。いつかが自分の世界でオレの知らない男と結婚したって、彼女が幸せなら。
「では、次にわらわと戦ってもらう。時間がない。ゆくぞ、リッド!」
そう吐き捨てるとともに、レムは即座に詠唱を始めた。オレは慌てて剣を抜き、詠唱を邪魔する。
今まで、オレはレムにやられっぱなしだった気がする。けど、今回ばかりは負けるわけには行かねぇ!
「リッド、そんな攻撃ではわらわは倒せぬぞ! 死ぬ気でこい!」
「そのつもりだ!!」
レムに勝たないと、試練をクリアすることができないんだろう。それなら、オレはこんなところでレムに負けるわけにはいかない。
今こうしている間にもはオレのことを待っててくれているかもしれない。オレは……を、助ける……!
何か、体が熱い。そうか、これだ。この感じ――
「喰らえ! 極光剣!!」
「く……っ!」
オレは素早くレムを斬りつける。それと同時に大規模な光があふれた。これが、極光剣。試練の成果なのか?
「見事じゃ。リッド」
レムが微笑んだ。
「これで第一試練、突破なのか?」
「そうじゃ。次なる試練が待っておるぞ。頑張ることじゃ」
「ああ」
第一試練、ということはまだ試練があるのか。あと、どれくらいだ? 一時間一分一秒でも早くを助けたい。
執筆:03年9月13日
修正:17年6月24日