24:最終決戦
私は走った。リッドたちがこの城に来ている、息が切れたのだって構わない。会いたい……早く会いたいよ、リッド!
目の前に広がる真と闇の極光術のぶつかり合い。ネレイドの闇の極光をリッドが真の極光で防いでいた。そして、リッドの最後の一撃がネレイドに決まる――
ネレイドが倒れこみ、リッドもフラフラになって膝から崩れ落ちた。
「リッドッ!!」
「!?」
私はリッドに飛びつき、力いっぱい抱きしめた。リッドも、極光術を使い終えたばかりだと言うのに、私に応えてくれて抱きしめ返してくれた。ちょっと苦しいけど。そんなのどうでもよかった。
「リッド! 会いたかったよ! すっごく!」
「オレだって、ずっとに会いたかったんだぜ!? にまた会いたかったから、ここまで来た。無事で、良かった……!」
お互いに顔を見てから、また抱きしめ合う。
「時の大晶霊ゼクンドゥスが助けてくれたの。ところで、ファラ達は……みんなはどこ!?」
私が訊ねると、リッドは余裕のない笑みを浮かべた。
「下で戦ってる。オレに、先に行ってお前を助けろってな」
「そっか……」
みんなが必死にここまで来て、今も戦っているのに……私は何をしてたんだろう。結局、攫われただけで何もできなかった。
「ごめん、結局私はみんなのお荷物になっただけで、何もできなかった。守りたいとか、口だけだったね」
そう自嘲すると、リッドが首を横に振る。
「オレはを守りたい一心で強くなれたんだ。お前がいなかったら、きっとここまで来れなかったぜ?」
ニカっと歯を見せて笑うリッド。その言葉で私の心がスッと軽くなったのを感じた。
「……この身体は、もはや、使い物に……ならぬ。……闇の……極光術を使い、我に身体を……」
息も絶え絶えなネレイドの声が聞こえる。シゼルの身体はもいボロボロで、まともに動けそうもない。
「私はリッドたちと一緒に旅してきた。いろいろなところを回ってきたけれど、どの町もいい町だった。みんな、いい人たちばっかりだった。だけど、私は一部しか知らない。これから各地を回って、この世界の事をもっと知りたいの。だから、このエターニアの世界を破壊するなんて事はさせない!」
私はネレイドに近づき、その横に剣を突き立てる。すると、ネレイドは目を見開きながらその剣を凝視した。
「この剣――」
「どうして、世界を壊そうとするの? 私がいなくなった後に何があったの? ネレイド、お願いだからあの時の優しいネレイドに戻ってよ!」
「?」
リッドは心配そうに私を見つめる。「大丈夫」と目で合図をし、私は再びネレイドに視線を向けた。
これ以上、ネレイドと戦いたくない。願わくば、昔のようにまた友達になってほしいから。
「なるほど、過去に行ってきたのか……」
「そう。私、さっきまで過去にいたの。時の大晶霊ゼクンドゥスの力で」
「過去に!?」
過去に行ったと聞いて、リッドは目を丸くする。
「……時の大晶霊か。あの牢から出られたのは、一度過去に行き……戻ってきたから。その過去で、我と出会った、か」
どうやら私の事情を察したらしいネレイドは私を見つめ、不敵に笑い出した。
「先程、過去に何があったのかと訊いたな。答えてやろう……」
「唯一の友であったお前が人間達に殺されてしまい、我は嘆いた。我にもっと力があれば友を守れた。そして力を欲した。だが、友はもうこの世には居ない。元々、物欲にまみれた人間どもには辟易していたのだ。そんな意味の無い世界を闇の極光で世界を破壊した。しかし、その2000年後にセイファートは再びこのエターニアを創り出したのだ」
そう語ったネレイドは、私から視線をそらした。
ショックだった。ということは、私のせいで世界が危機に瀕しているということなの? ネレイドは私を失ったことがきっかけで世界を壊した――
「私の……せい……」
「違う! のせいじゃねぇ!」
嘆く私に必死に否定してくれるリッド。だけど、ネレイド本人がそう言ったのだ。私があの時軽々しく友達になろうなんて考えなければ、世界が危機に晒されることなんてなかったの?
「いけない! の闇の極光の力が増幅しておる……このままでは闇の極光術が発動してしまうのじゃ!」
リッドの持っていた私のクレーメルケイジからレムが出現する。
レムは私の肩を掴んで首を横に振った。
「、あやつの言葉を鵜呑みにしてならなぬ。そもそも、をこの世界に連れてきたのは誰じゃ? わらわじゃ! わらわがを連れてきたのがいけなかったのじゃ……責めるなら、わらわを責めろ!」
懇願するレムに、私はハッとする。そうだ、レムのせいだ。元はと言えばレムが私をこの世界に呼び出さなきゃよかったんだ!
「そ、そうだよねぇ!? 私のせいじゃないよ……レムのせいだわ。うん」
「まぁ、その通りっちゃその通りだけどよ……」
リッドと私とレムが微笑み合うと、ネレイドが悔しげに顔を歪ませた。そっか、私を絶望させて、闇の極光術を使わせようとしたのか! 危ない危ない!
私はレムに感謝しながら、再びネレイドに向き直る。
「ネレイド、私は今ここにいるんだからエターニアを破壊する意味はないんじゃないかな? また友達として、やり直そうよ?」
しかし、私の提案にネレイドは首を横に振る。
「人は脆く、弱い存在。いずれまたお前は居なくなる。何も無ければ……お前がいなければ悲しみは生まれずに済んだ。だから我は闇の極光術を完成させ、非物質世界バテンカイトスを作り出すのだ! 二度と、悲しい思いなどしなくても済むように……!」
「だったら、どうしてお前はそんなに悲しそうな顔をするんだ!」
リッドの言葉に、ネレイドが眉間に皺を寄せた。ネレイド目から涙が溢れている。
「お前は、本当はと友達でいたいんじゃねぇのか? 確かに、人には寿命がある。いずれ命も尽きる。けど、オレたちはそれでも必死に生きてるんだ! つらいことも悲しいこともある分、楽しいことや嬉しい事だってあるんだぜ?」
「我は……ッ!」
ネレイドが頭を抱えた。私は彼に近づき、そっと手を差し伸べる。
ネレイドはただ、寂しかっただけなんだ。昔も今も、ずっと孤独だったから、楽しいことも嬉しいことも、知らないだけ。大丈夫。私達ならきっとまた友達に戻れるよ。今度は私だけじゃない、リッドたちだって一緒だ。ネレイドはもう、一人じゃない。
「……ネレイド、もう一度、戻ろう?」
ネレイドが苦しそうに呻きだした。そして、シゼルの身体が黒い闇に包まれる。闇がシゼルの頭上に集まったかと思うと、それは人の形に変形した。それと同時に、シゼルは床に倒れる。
「ネレイド――」
昔の、人間だった頃の姿をしたネレイドが申し訳なさそうに私を見つめていた。
「ありがとう、。こんな私を、友と思ってくれて」
「いいよ。グランドフォールさえ止めてくれれば許す。で、どうやって止めるの?」
「……もう、時間が無いです。急いで!」
時間がない。
ネレイドがそう言った次の瞬間、突如激しい揺れが城を襲う。グランドフォールの影響が大きくなってるのだ。
「このままでは、インフェリアとセレスティアが衝突するのじゃ!」
間に合わなければ、ゲームオーバーなんだ。普通、ゲームはやり直しがきくけど、これは現実だ。だから、やり直しなんてきくわけがない。
あまりの恐怖に、私はただただ震えることしかできなかった。こんなところで、死にたくないよ。
「そんなことさせねぇ! 間に合わせてみせる!」
「リッド……!」
リッドはまだ諦めていない。私の手を取り、ネレイドの誘導する方へと走り出した。
温かいリッドの手が、私を安心させてくれる。そうだ、まだ諦めるには早い。まだ、生きていたいよ! 生きて、リッドにこの想いを伝えるんだ!
執筆:04年5月24日
修正:17年6月25日