4:過去の恐怖
山を登り始めて5分も経たないうちに、オレ達はモンスターと出くわした。オレはいつもの戦闘のように主に戦闘経験の少ないを気にかけながらモンスターに斬りかかる。けど、オレはモンスターに背後を取られてしまった。
「レイ!」
誰かが早口で詠唱し、そう叫ぶと、空中に光の玉が現れてモンスターにダメージを与える。そしてモンスターは微動だにしなくなった。誰かが晶霊術でオレを助けてくれたんだ。しかし、オレはその晶霊術に驚いてバランスを崩して転倒した。
――あんなすげぇ晶霊術今までに一度も見たことねぇ。
「にもできたじゃないか! それでいいんだ!」
「キールのおかげだよ!」
「バイバ! 、レムと契約したのか?」
「そうなの、レムと契約したんだ!」
戦闘終了後、メルディとキールがにに駆け寄る。三人の会話から察するに、今の晶霊術を使ったのはか! いつの間にそんなことできるようになったんだ。昨日までは晶霊術を使っても簡単なものだったと思えばすぐにへばったりしてたのに。
――ということは昨日オレたちと別れた後に何にがあったんだ? もしかして、キールがに教えたのか?
「リッド、大丈夫だった? 怪我は無い?」
がオレの隣に来て、手を引いてくれた。
「ああ。オレは平気だ。けど――」
「リッド! ! 危ない!!」
ファラが突然叫ぶ。ふと上を見ると、上から岩石が落ちてくる。崖崩れか……ッ!!
オレは呆然としていたを即座に抱き上げて必死に走った。逃げて、逃げて、逃げ延びて、後ろを振り返るとそこにいるはずのファラ達がいない。
――はぐれた!?
※ ※ ※ ※ ※
オレとでファラ達を近くを探すことにしてから、もう1時間が経とうとしていた。
「ファラ! どこだ!? キール! メルディーーーーー!!」
返事をしてくれ! 頼むから!
――だけど、いくら呼んでも返事は無い。もしかしたら崖崩れに巻き込まれて……いや、こんなことがあってたまるか!
「リッド、こっちにもいないよ……」
が手を泥だらけにしながら、崩れ落ちてきた岩に登ってあたりを見回していた。腰に下がっているの奇妙な形のロッドが揺れる……と同時にの乗っていた岩が転がりだす。危ない落ちる!
「うっわぁ!?」
「!」
オレはギリギリのところでの手首を掴む。そしてこっちに引っ張る。しかし、の体は思っていたより軽く、オレとは後ろに倒れこんだ。少し痛みが走ったけど、怪我はない。
「大丈夫か?」
「うん、リッドのおかげで。ごめん」
「たいしたこと無いぜ。これくらい」
の体を支えながら一緒に立ち上がる。ふと、昔のことが頭を過ぎった。オレたちのせいで、村が、父さんが――途端、オレは立っていられなくなった。その場に座り込む。さらに体が震え、汗も出始める。
もう、あんな悲劇はゴメンだ。オレの目の前で誰かが死ぬなんて、もう……!
「リッド!?」
こんなことあの時以来だ。今度は涙まででてきやがった。オレは早くファラ達を探さなきゃなんねーのに。情けねぇー、オレ。
「悪ぃ、ちょっと……腰ぬけたわ。オレ、ほんと情けねぇよな」
笑顔を作りながら言うけど本当は笑えないくらい怖いんだ。もしも、もしもファラとキールとメルディに何かあったらと思うとどうにかなっちまいそうだ。
「大丈夫だよ、リッド。3人は絶対に生きてるって。きっと向こうも私たちのこと探してるって」
だから泣かないで? と子供をあやすような言い方しながらオレを抱きしめる。こんなこと思ってる場合じゃないけどっていい匂いがする。なんか、懐かしい匂いっつーか。安心できるようなそんな感じだ。なんか、がそう言うと本当にそんな感じがしてきた。の言うとおり、ファラ達はどこかでオレ達を探してるに決まっている。
「……そうだな。サンキュ」
オレは再び立ち上がると、を見つめた。はよかった、と呟いた。
「じゃあ、次はあっちの方を探してみようよ!」
は向こうの方を指差すと、無邪気な顔をしてオレの手を引っ張って走った。少し子供じみているとは思うが、芯はしっかりとしている。光の大晶霊レムから渡されたけど、は一体何者なんだ? ――いや、理由なんてやっぱどうでもいい。オレはと一緒に旅ができれば今はそれでいいや。
突然は止まり、オレの腕を強く抱きしめながら崖の下を指差した。
「リッド! 見てー!! ファラとキールとメルディだよ!!」
オレもに続いて崖の下を覗く。すると、そこに見えたのはファラ達だった。ファラ達はオレ達に気付くと、大きく手を振り始めた。生きてた。よかった。
「おーい! ファラー !キールー! メルディー!!」
は思い切り叫ぶと、5メートルはあるだろう崖から飛び降りようとした。オレはを後ろから抱き止めた。
「おい! 危ねぇだろ!!」
するとは頬を少し膨らませ、オレを見た。
「ファラが受け止めてくれるもん。多分」
「アイツじゃ無理だ。オレならともかく」
ファラは仮にも女だ。だからといって、なよなよなキールもを受け止められるハズもねぇ。まぁ、なよなよしたキールにはできないことをは知っていたみてーだ。しかし、男であって、体力のあるオレならできるだろうけど生憎オレは今と上にいる。こればっかりは不可能だ。
「じゃあ、リッドが先に下りて私を受け止めて?」
「無理なこと言うなよ」
いくらオレでも運がよくて重症を負うし、悪ければ死ぬ。
「リッド! ! この先に道があるんだ! 進んでいればきっと会える! リッド達も先に進んでてくれ!」
キールが下から叫ぶ。ということはキール達と会えるまでと二人で頑張るしかないか。オレは大丈夫だと思うけど、は体力がなさそうに見える。キールほどじゃないが。とにかく休み休みゆっくり行くことにしよう。
「そういうことだ。行くぞ、」
「うぃーす」
オレはが離れないようにと、手を取った。は不思議そうにオレの凝視していたが、しばらくしてオレの手をぎゅっと握った。
執筆:03年08月23日
修正:04年12月12日