6:もう戻れない
翌朝、早朝からオレとは頂上を目指して登った。途中モンスターにも遇ったが、協力し合ってモンスターを倒していった。
「リッド! 頂上だよ! やほーーい! 登りきった!」
結局、頂上までファラ達とは合流できずにいた。だけど、そのおかげでもあるのか、とオレは仲間意識と絆が深まったような気がする。それに、前よりはるかにの戦闘の腕が上がった。術の使い方も安定し、打撃での攻撃もそこそこだ。
「ああ、二人で頂上まで来ちまったな。ファラ達はいるか?」
「うーん、ちょっと待って。……あ! ファラ達もういるよ! 行こッ!」
オレが訊ねると、は荷物袋から望遠鏡を取り出し、覗いた。そしてファラ達の姿を確認すると、オレの手を引いて走り出す。ファラ達もオレ達に気付き、大きく手を振り始めた。
「リッドーーーー! ーーーーーっ!」
「ファラーーーー! やっほーーーーっ!」
ファラに対抗し、も負けずと大声を出した。そして、はオレの手を放してファラに勢いよく抱きついた。
「元気だった? ! 怪我はしてない? 疲れてない? 大丈夫?」
「大丈夫だよファラ! 私もリッドも超元気! ファラとメルディとキールこそ、大丈夫だった?」
「大丈夫! イケる、イケる!!」
「大丈夫だよぅ!」
「ああ、この通り平気さ」
「よかった。リッド! みんな無事だって!」
ファラ達の無事を確認しあったは無邪気にオレに笑いかける。オレもそんなに応え、軽く微笑んだ。
「さぁ、感動のご対面も終えたし、神殿の中に入ってみよう!」
キールがさっきから落ち着かないでいる様子だったのは、目の前にある神殿が原因だった。やたらと古そうに見えるこの神殿。この中に、本当に光の橋があるのか? どうも疑い深い。
キールが足早々と進ませ、神殿内に進入した。オレ達もキールの後に続き、用心深く中を進む。中は意外に綺麗で、神々しさが感じられた。
「ここに光の橋があるの?」
橋らしいものは全く見当たらなく、ファラは項垂れながらキールに訊ねる。するとキールはふぅ、と大きく溜息をつき、答えた。
「此処以外に心当たりは無いし、光の大晶霊のレムもここだと言っていた」
「じゃあ、レムを呼んでみればいいかな?」
キールの答えを聞き、は妙な形をしたクレーメルケイジを掲げ、「ほら、レム。出番よ!」と叫んだ。するとクレーメルケイジから光が溢れ、その光の中からレムがでてきた。
ど、どんな呼び方だよ。レムは大晶霊だろ? 普通そんなんで出てくるか!? 威厳はどこに行った!?
「光の橋に復路は無い。異世界へ渡らんとする意志によもや躊躇いなどあるまいな? 生半可な気持ちで行くのならば死ぬだけじゃ」
不安にさせるようなこと言うなよな。この大晶霊はどこかおかしい。
「ああ。僕達はセレスティアにいかなければならない。レム! 僕たちに光の橋をお与え下さい! 寧ろ行きたい。行かせてくれ!」
レムに懇願するキール。こいつはセレスティアを研究対象としてしかみていねぇと見た。けど、オレは……このインフェリアでの平穏な生活を手放したくない。
「リッド? どうかしたか?」
メルディに呼ばれ、オレはハッとした。そうだ。オレはの傍にいてやるって……約束したじゃねぇか。が行くのならオレだってついていく。
それに、インフェリアではオレ達は犯罪者扱いかもしれねぇ。もう、どっちみち元の生活には戻れねぇんだ。
「ああ、なんでもねえよ。オレも、覚悟を決めた。セレスティアへ行くぜ!」
オレがそう言うと、メルディは嬉しそうな顔をした。
「その先へ進ませるわけにはいかない」
ばっと、声がした方を向く。するとそこにはレイスがいた。ファラは声をあげた。
「レイス!?」
「どういうことだ」
レイスの言葉の意味はなんとなくわかる。しかし、無意識にそう訊ねた。
「王国騎士として……セレスティアが強い力を持つことを看過できない」
「王国騎士、だと?」
するとレイスがふ、と鼻で笑う。
「私の名はレイシス。インフェリア王国元老騎士、レイシス・ルエインだ」
「レイス私たちを……騙していたの?」
「そのつもりはない。私は王の命令に従ったまでだ」
ファラは悲しさと驚愕で手を顔の前にやり、そして顔を覆った。こいつは初めて会った時からどこか信用できなかった。やっぱ、こういうことだったのか。事が上手く行き過ぎていたわけだ。
「そう、そこにいる反逆者、キール・ツァイベル。当然君も――」
レイスはメルディの後ろにいるキールに目をやった。キールもそれに気付き、レイスを睨みつけていた。キールは何かしたのか? だとしたら一体何を――!
「キール?!」
「彼は王立天文台のバリルの著した光の橋に関する資料を全て燃やしたのだ。そう、自分の頭に全部叩き込んでな」
レイスが静かに答えた。キールはぎゅっと目を閉じたまま俯いた。
「――っ」
そうか。キールが港でオレ達と別れたのはこいつら、王都の奴等をセレスティアに行かせないようにするために王立天文台に戻ったのか!
「お前……だからあの時王都に残ったのか!」
「そうだ。僕は王の言葉に納得がいかなかった。だから――」
「ちょっと! あんたさっきから何なの! 私たちを捕まえる? ふざけんじゃないわよ私は悲しい! 裏切りとか何、何なの! あんなに頑張って育てたのに……強いしまた使いたかったのに……しかも何気に王国騎士だって? 私の最愛の人とキャラが被るだろうがっ!」
キールの台詞を遮り、が怒鳴った。一部よくわからないことを言っていたが、レイスを見ると眉間に皺を寄せていた。
「お嬢さん、貴女もこの者たちの仲間だと言うならここで捕縛しなくてはならないのだが――」
「私、とある事情であなたのこと知ってるんだから! このお母さん大好きっ子! 親を大切にするのは素晴らしい!」
この二人は知り合い、なのだろうか? しかし、レイスの様子からするとが一方的にレイスを知っているかのような感じだ。オレはもちろん、ファラとキールも戸惑うしかなかった。
「……貴女が何者かはわからないが、それは後程ゆっくり聞かせてもらおう!」
レイスが剣を抜く。
危ねえ! ――オレがそう思って剣を抜いたと同時に甲高い声がした。
「シャイニングフレア!」
「うぬ……っ!」
地から炎が吹き荒れ、レイスを包んだ。レイスはそのまま倒れこみ、動かなくなる。気を失ったのだ。
咄嗟に晶霊術を使った張本人は悠然とレイスを見下している。――レムだった。
「わらわのに剣をむけようとはクズ同然の人間じゃ。この人間は放っておいて先を進むが良い。の時間稼ぎの間に橋を架けられたのじゃ。に感謝しつつ心して渡れ」
レムはそう吐き捨てると、光の橋を残してのクレーメルケイジへと入っていった。
こいつはよくわからない。本当に光の大晶霊なのか疑わしいが、今目の前に架かっている光の橋を見ると信じるしかないのだろう。
そして、こんなにあっさりとレイスを倒して――レムには逆らわない方がいいのかもしれねぇ。
ファラは、倒れているレイスを見て、一瞬強く目を瞑ると、腕を捲くって進み始めた。
「よーし! イケる、イケる! 今のうちにセレスティアへ行こう!!」
「はいな!」
ファラに応え、メルディが嬉しそうに返事をした。
「――レム、どさくさにまぎれて私を私物化しやがったな?」
はクレーメルケイジを割れるか、というところまで強く握りしめていた。
まずはキールから、レムの残した光の橋を渡っていく。オレはの手を握りながら橋へと踏み出す。
光の橋は、妙な感じがしまくる。重力がないというのか。歩かなくても勝手に体が引寄せられるようなそんな感じだ。
「セレスティア、楽しみだね」
「ああ。ちょっと不安もあるけどな」
光の中で、がニッっと笑った。
楽しみがないわけじゃない。だけど不安の方が大きい気がする。ずっと見上げてるだけだったセレスティア。まさかセレスティアにいくことになるなんて予想だにしていなかった。けど、オレが行く気になれたのはのおかげ。
今までのオレならきっと、踏みとどまって戻ることを考えていたかもしれなかった。だけど、の傍にいるって決めたから、どうしてここまでこいつが気になって、心配になるのかはわからないけど、そうしたいと思うから――。
の手はとても暖かく、心地よかった。
※ ※ ※ ※ ※
目を開けると、薄暗い空が見えた。ここは、セレスティアなのだろうか?
起き上がり、辺りを見回した。するとオレの隣にはが横たわっていた。
「、おい、大丈夫か?」
「うあ……あと30分……あ、やっぱ今日は学校サボるからほっといて……」
おいおい、寝ぼけてんのかよ。学校って、ミンツ大学の事か? はミンツ大学の学生なのだろうか?
とりあえずオレは再びを起こす事にした。
「おーい、。学校はないぞ。ここはセレスティアだぞ」
「うー……じゃあサザエさんが始まったら起こして……すかー」
の謎の寝言に苦戦するオレ。とりあえずオレはを起こすのを諦め、先にキールたちを起こす事にした。
執筆:03年8月23日
修正:17年1月8日