体中が熱くて、とても痛む。薄れ行く意識をなんとか保ちながら、私は灰色に染まった空を仰いだ。血のにおい。家が焼き焦げるにおい。
 ぐっと首を動かして横に視線を移せば、色んなものが破壊されていた。視界が急に赤くなり、きっと目に血が入ったんだろうなと思いながら私は苦笑する。口角を上げたつもりだったけれど、それもうまく出来ていたかさえわからなかった。
 ――感覚がなくなってきたのかもしれない。
 どうしてこんな状況になっているのか、わからない。何があったのか、全然思い出せない。たった数分前の出来事が全く思い出せない。なんというのだろうか……そう。私はからっぽだ。ただ、恐怖が私を支配する。
 怖い、死んじゃうのかな、嫌だ、こんなわけのわからないまま死にたくない。

「おい、誰かいるぞ!」

 遠くから人の声が聞こえた。複数の足音が私に近づいてきて、至近距離でピタリと止まった。
 不意に、首筋に何かが触れた気がした。

「ヒューマの少女だ! まだ息がある、至急救護班を呼べ!」

「へぇ、こりゃまた酷いね……」

 私は力を振り絞って声を出した。

「……たす、……け……て」

「ああ、今助けてやるからな!」

 先程の人の声とは違う声。その優しい言葉を聞き、私は涙を流した。
 まだ、生きていられるんだ。
 目を開けるのにも疲れて、私はゆっくりと目を閉じる。その直後、誰かに横抱きにされた。

「ふふ、なかなか使えそうじゃないか」

 ボソリと呟かれた言葉。私のことを言っているのかなぁと思いながら、私は意識を手放した。
 そして、何か夢を見た気がする。その内容はもう断片的にしか思い出せないのだけど、何故だか悲しくて、私はずっと泣いていた。
 泣いて、泣いて、この世界から消えてしまいたいと思うくらい、泣いた。





執筆:12年5月16日
修正:16年5月14日>