目を覚ますと私はベッドの上で寝ていた。見覚えの無い部屋。まるでお姫様が住んでいるかのような、綺麗な装飾が施されていてとにかく広い部屋だ。身体を動かそうとしたら、全身がズキンと痛む。あまりの痛さに私は声を上げた。

「ほぉああああ!? いっ……たーい!!」

 少しだけ涙も出てきた。
 ああ、私まだ生きてる。痛みで生きている事を実感した。

「おや、気がついたようだね」

 反射的に声がした方を見ると、紫の髪をかき上げながら笑う青年が私の視界に入った。
 あれ? 人がいた、の? 一人で身悶えして、一人で奇声発してたよ、私。 相当イタイ行動を聞かれた? 見られてた? うえぇぇええ、クッソ恥ずかしいんだけどっ!!
 でもでも、この人が私のことを助けてくれたのかな。

「あ、えっと、あの!?」

 だけど、恥ずかしさのあまり混乱してしまい、上手く言葉にする事ができない。言葉が出てこない口をぱくぱくとさせていると、青年は私の寝ているベッドに腰掛けた。

「フフ、落ち着きなよ。あんまり興奮したら、折角治療してもらったのにまた傷口開くんじゃない?」

「そ、そうですね!」

 クスっと怪しく笑いながら私を見つめる青年と、青年をじっと見つめる私。何故か胸が高鳴った。
 ――なんだろう、この気持ちは。この人を見ていると何だかすごくドキドキしてくるんだけど。

「――――」

 確かに今動けるような状況ではないけれど、恥ずかしさで暴れまわりたい気持ちを抑えるのは大変だ。
 うう、まだドキドキ治まらない。それに、この人と以前どこかで会ったことがあるような気がする。そりゃそうだ。この人は私が瀕死の時に見た人だ。やっぱりこの人が助けてくれたんだろうな。お礼を言わなきゃ!

「あのっ! 貴方が私を助けて下さったのですよね? ありがとうございますっ!」

「……まぁ、現状では一応そうなるのかな。それにしてもキミ、大人しそうな顔して元気だね。まるで怪我人とは思えないくらいだ」

 ベッドの上で土下座をする私を見て、青年はフッと笑った。くうう、その笑顔、眩しいぜ。100点満点だ。傷は痛むけれど今はそれよりもあなたとの談笑を楽しみたいですはい。

「あの、あなたは誰なんですか?」

 是非そのお名前を教えて頂きたく存じます。

「僕はサレ。国王直属の特殊部隊王の盾の一員だよ」

 ――王の盾。そう言われてもピンとこなかった。

「えと、ごめんなさい。よくわからないですねぇ」

「じゃあ、僕がらも質問させて貰うよ。キミの名前は?」

「私は――」

 名乗ろうとして、思考が停止する。私の名前って、何だっけ。えっと、えっと。思い出そうとしても出てこない、自分の名前。私が黙り込んでしまっていることを不思議に思ったのか、サレさんが眉間に皺を寄せた。

「まさかキミも記憶喪失なの?」

「あはは。記憶喪失、なんですかねー?」

 『も』ってことは、私のほかにも記憶喪失の人がいるのだろうか。そんなことをぼんやり考えていると、サレさんの口から思いもよらぬ言葉が発せられる。

「じゃあ、キミは自分がフォルスを暴走させて街ひとつ消し去った事も覚えてないんだね」

「へ?」

 私が、街ひとつ消し去っただって? そんなの、知らない。 本当に、私がやったことなの?

「廃墟と化した街の中、生き残ったのはキミだけだった。だから、犯人はキミ以外考えられないわけだ」

「そう、だったんですか?」

 そんなこと言われたって困る。だって、私には今記憶が無いんだから「はい、そうですか」って納得できるわけがない。いきなり犯人にされてもなぁ。

「どう? 人を殺めた気分は。記憶が無いから、実感がわかないかな?」

「確かに、私は記憶がありません。だから実感もわかないし、納得もいかないです。それで、これから私はどうなるんですか? 死刑ですか?」

 私が問いかけると、サレさんはクスクス笑いながら答えた。

「そうだね。丁度今、国のお偉いさん達がそのことで話し合っているんだよ。キミは危険視されているからね、野放しにしてまたフォルス暴走をさせられたらたまったもんじゃない」

「あ、私死ぬんだ……」

「ふふっ、このままだと高確率でそうなるだろうね」

 折角助かったと思ったのに。
 そうだよね、本当に私がやったのだとしたら、私のせいで死んでしまった街の人たちからしたら、何でお前だけ生きてるんだって思うよね。私もあの場で死ぬべきだったのかもしれない。でも、やっぱり死ぬのは怖いなぁ。
 涙と嗚咽が止まらない。サレさんは楽しそうな目で私を見下ろしている。この人にとっては他人事だもんね。仕方ない。
 だけど、目が覚めて知らない場所にいて、君は人を殺したんだ、死刑だよ――なんて宣告された私の気持ちなどわかるはずもないよね。




執筆:12年5月19日
修正:20年12月3日