部屋の扉が大きな音を立てながら開かれ、数人の兵士が入ってきた。
「サレ様、その娘の処遇が決まりました。即刻処刑するとのことです」
「――!」
ああ、やっぱりそうなってしまうのか。
「へぇ、そう……じゃあ、お別れだね」
サレさんが私の顎を持ち上げると、サレさんの瞳に私の顔が映った。きっとすごく、怯えた表情をしているんだろうな、私。情けないなぁと思いながらも、やっぱり怖いものは怖いわけで、身体は私の意志とは関係なくカタカタと震える。
「――と、言いたいとこだけど、提案があるんだよね。彼女を僕に任せてもらえないかな?」
サレさんの言葉を聞き、私と兵士は目を丸くした。もしかして私のことを助けようとしてくれている……?
「しかし、サレ様!」
「彼女はフォルス能力者だよ。しかもとてつもない力を持っている。それはこの国にとって脅威であるけど、逆に強力な戦力にだってなれるってことじゃない?」
「ねぇ?」と言って私に微笑みかけるサレさん。
その瞬間、私の心臓が飛び跳ねるようにドキリとした。え、ちょっと待って。何なのこの気持ち。こんなの、知らない――。
「彼女が暴走したその時は……僕が彼女を止めるさ。そう、殺してでも、ね」
「――わかりました、では直接隊長や将軍に掛け合って下さい」
「言われなくても、そのつもりさ」
サレさんが不敵に笑うと、兵士たちは苦虫を噛み潰したような表情で部屋を出て行ってしまった。とりあえず、一時的に助かったということだよね。
「サレさん、私のことを助けてくれたんですか?」
助けてくれたのか、本当に私を利用するだけのつもりなのか。彼の真意はわからない。だけど――
「さぁ、どうだろうね」
クスっと笑うサレさんがとにかく私のドツボストライクだった。どうしよう、私の中の何かが暴れだす。
「や、やだぁ、照れちゃってるんすか!? 私、一生サレさんについていっちゃうっす!」
「……照れてないんだけど」
ムフフと笑う私を見て、サレさんが眉間に皺を寄せながら、まるで汚物を見るかのような目で私を見てきた。やばい、そんな顔もステキですよサレさんっ! キャッ!!
恥ずかしくなって顔を両手で覆った瞬間、突然頭に激痛が走った。それと同時に、私の脳内に何かが流れ込むような感覚がした。
『――』
そう悲しげに私の名前を呼ぶその人の顔はぼんやりとしていた。でも、私は誰かにと呼ばれていた、そんな記憶が蘇る。ということは、私の名前は――
「…………」
「はぁ、大丈夫かい? いきなりバカみたいにはしゃいで傷が開いたんじゃないの?」
サレさんが苦笑いを浮かべながら私の肩に手を置いた。違う。傷は平気だ。寧ろ今サレさんに触れてもらえて元気いっぱい。そうか、サレさんは今オラに元気を分けてくれているんだな。女である私についてないはずのアレがビンビンである。
「あの、サレさん。今サレさんの熱視線のおかげで思い出しました。私の名前は、です」
「そう。じゃあ汚物、僕はこれから上司と掛け合ってくるから、ゆっくり寝てさっさと傷を治してよね」
「汚物じゃないです、っすよ!」
もじもじしながら「さぁ名前を呼ぶんだ」オーラを放出していたら、サレさんは口元だけ笑いながら踵を返した。目が、笑っていなかったけれど、サレさんにまた汚物と呼ばれて私は鼻息を荒くした。
そんなこんなで、晴れてサレさんの道具もとい恋人候補となりました。
執筆:12年5月19日
修正:20年12月3日