結局私はサレさんのおかげで処刑されずに済んで、サレさんに監視されながら王の盾というフォルス能力者中心に構成された王国直属の部隊に所属する事になった。しかも、サレさんの部下として。
 もう、どんだけ私と一緒にいたいのかしらサレさんめ! うっふっふ、仕方がないからずっと一緒にいてあげちゃうんだからね! そう、身も心もずっとサレさんあなたのお傍に――って心に誓ったのに、何かなこの状況は。

「ここがの部屋だから、好きに使いなよ」

 サレさんに連れられて、兵士の宿舎に来ていた。いよいよサレさんのお部屋にお呼ばれかッ!? とワクワクしていたのに、通されたのはどうやら私に宛がわれたらしい、必要最低限の家具が置かれた部屋。
 いやいや、おかしいでしょう、だって私が生活するのはサレさんのお部屋でしょう?

「はい? 自分の部屋? 要らないっすそんなもの」

 だから私はそう笑顔で吐き捨ててやった。すると、サレさんは眉間に皺を寄せる。

「どういうことだい?」

「私は、サレさんと片時も離れるわけにはいかないっすよ。そう、何故なら私はサレさんに監視されていなくてはならないからっす! お風呂の時はもちろんトイレまで一緒ですよね! ムフフ」

 イケナイ妄想を展開させながらニヤニヤと笑っていたら、サレさんが愛用のレイピアを抜いた。

「確かに僕はお前の事を監視しているけれど、自分のプライベートを犠牲にする気まではないよ。あくまで仕事の時だけだから、そこを勘違いするなよ?」

 やばい、本気の目をしている! 間違いなく殺られる。だけど私は怯まない。ここで引き下がったらこのままこの生活感のない部屋で一人寂しく過ごす事になってしまう。そんなの嫌だ、私はサレさんと同じ部屋で生活したい! サレさんの生活の一部になりたいのだ!

「やーん、暴力反対っすよー! ちゃんと自分のことはしますし、家事だってちゃんとやるっす。うふふ、サレさんのパンツを洗うのは私の役目っす! 毎回くんかくんかゲフハァ!!」

 そしたらサレさんはレイピアを一振り。びゅんっと爽快な音と共に、「ひょあッ!」という私の情けない声が部屋に響いた。サレさんはよろめいた私の胸倉を掴むと、ちっと舌打ちをした。

「その減らず口、いい加減にしないと殺すよ?」

 まるでヘビのように鋭く睨まれて、私は目を逸らす。こんなに激しく見つめられて、胸がドキドキしちゃう。サレさんはもしかして私が告白するのを待っているんじゃないだろうか? ああ、そういえば彼に愛の言葉をささやいたこと、まだなかったかもしれない。

「すいません、私サレさんのことが大好きすぎて、気持ちを抑えられないんす。愛してます」

 顔を赤く染めながら、愛の告白をする。ああん、言ってしまった、言ってしまったぞ!
 しかし、サレさんはため息をついて私を壁に向かって放り投げた。私は背中から壁に激突して「ゴフォッ」と声を上げる。
じんじん痛む背中に顔を歪めながらサレさんを見た。目が合うと、サレさんは私を見下しながら私に覆いかぶさるように壁に手をついた。やだ、何このドキドキなシチュエーションは!これが乙女の夢・壁ドン!

「あのさ、そんなことばかり言ってると本当にベッドに押し倒して襲っちゃうけど、いいのかな?」

 見下されながらそんなセリフを吐かれた私は目を見開いた。だって、サレさんがそんなことを言ってくれるなんて思いもしなかった。
 ――ああ、サレさん……大好きっ!

「あ、はい!!サレさんに襲われるのでしたら本望っす! 子供は何人欲しいっすか?二人の愛で国を作れるほど頑張っちゃいます? やん、サレさんったらぁ!むしろ今、ここで私がサレさんを襲って差し上げてもいいっすよ! うおおおおおサレs――」
「2メートル以内近づいたらガスティーネイル」

 私がサレさんに飛びつこうとした瞬間、サレさんはスルリと避けてフォルスを発動させる。鋭い風が私の頬を掠り、そこから一筋の赤い血が流れた。

「じゃあ、ギリギリ2メートルのところで絶えずサレさんのことを想いながら投げキッスしてるっす」

 ちゅっちゅ。
 私がサレさんに投げキッスをすれば、サレさんは大きなため息をついた。




執筆:12年5月20日
修正:20年12月3日