カルバレイスの港町チェリクにやってきた私たちはまず情報を求めてオベロン社幹部のバルックさんを訪ねることにした。バルックさんはこのチェリクにバルック基金を構えている。オベロン社幹部たちには何度か会ったことはあるものの、バルックさんはいつもセインガルドに出向いてくれるので私たちがカルバレイスに足を踏み入れるのは初めてだ。もちろん、基金の場所もわからないので、人に聞くしかない。
 しかし、この国の人たちはよそから来た人間にとても冷たかった。気候はとてもとても暑いのに。それはもう干乾びてしまいそうなくらいに。

「バルックさん、お久しぶりです」

「リオンと。よく来てくれた。ヒューゴ様から連絡が来ている」

 ようやく基金を見つけた時には全員が汗だくになっていた。いつも涼しい顔のリオンでさえ暑そうだ。

「カルバレイスの人達ってよそ者に対して冷たくないですか? この基金の場所を聞いてもみんな無視でした。この建物が他とは違って目立っているからなんとか辿り着けたんですけど、そうじゃなかったら辿り着けませんでしたよ」

「リオンさんに失礼な態度をとった方々にキレ散らかしていましたものね、さん」

「だな。止めるのは大変だった」

 フィリアさんとマリーが苦笑いをした。
 道を尋ねたリオンに対して不遜な態度をとったゴミ野郎共に対して軽くおしおき程度に晶術をお見舞いしてやっただけだ。途中からはマリーに力ずくで止められたけれど。
 バルックさんは私とリオンを見て「相変わらずだな」と笑う。

「長年の歴史に由来する行動だよ。彼らの祖先は大昔にあった天地戦争の敗者でね。他国に比べて生活水準が低い。長年他国に虐げられてきたせいで、わだかまりが生じるのも無理はない」

「じゃあ、バルックさんがここにいる理由って」

「そう、ここの人々の暮らしを楽にする為だよ。御覧の通り、なかなか難しい状態ではあるけどね。それより、本題に入ろうか」

 スタンが尊敬の眼差しをバルックさんに送ると、バルックさんはため息交じりに目を細めた。バルックさんも相当苦労していることが窺える。

「そうだな。神の眼に関して何か情報は得られたか?」

「私も人を使って調べてみたが、手がかりはない。何かわかったら君たちに伝えよう。それまで街に滞在していてくれ」

「わかった」

 折角ここまで来ても、これといった収穫はなかった。少し残念に思っていると、バルックさんが物珍しげな表情でリオンを眺めていることに気づく。

「それにしても驚きだな。リオンが以外の同年代と仲良くしているなんて」

 そんなバルックさんの言葉にいち早く反応したのはスタンだった。

「仲間ですから、仲良くもなりますよ! な、リオン!」

 目を輝かせながら同意を求めるスタンに、リオンは心底嫌そうな顔をする。

「ふざけた事を言うな。こんな任務、僕とだけで十分だった。仲間だの仲良しだの、虫唾が走る」

「そこまで言わなくても」

 まだ少しの間しか一緒にいないけれど、彼らは悪い人たちではない。確かに第一印象は最悪なものだったけれど、接してみてだいぶ印象が変わった。そう感じていたのは私だけで、リオンは今も印象最悪なままなのだろうか。それとも、まーたいつもみたく凝り固まった考えで彼らの人となりを悪いように思いこんでいるだけなのか。

「行くぞ、

 居心地が悪いのか、リオンが私の手を引いて基金を出ようとしている。

「えっ、待って引っ張らないで手が痛い痛い」

 ふとスタンを見ると、きょとんとしていた。すごいメンタルだ。リオンに辛辣なことを言われてもまるで気にしていないようだ。



※ ※ ※ ※ ※



「スタンの奴、腹が立つ」

 機嫌の悪いリオンの後ろを歩く。外は炎天下であまりの暑さに秒で汗が滲んだ。

『何でそんなにスタンの事を嫌うんですか?』

「そうそう。リオンってスタンにすごく当たりが強いよね」

 シャルに同意してうんうんと頷く。するとリオンは眉間の皴を増やして先程よりも声を大にする。

「ヒューゴの息子である僕とに取り入ってうまく士官しようというのが見え見えだ」

『あのスタンが、そんな事考えるようには見えませんけど……』

「失礼な言い方しちゃうけど、特に何も考えてなさそうだよね」

 ヒューゴの息子であるリオンに近付いてきて取り入ろうという人間はいっぱいいた。もちろん、私にもリオン程ではないけれどそういった事はあった。だからスタンの事を警戒する気持ちもわかる。でも私もシャルもそう感じない。ただ純粋にリオンと仲良くしてくれようとしているようにしか見えないのに、リオンは違うらしい。こればっかりは価値観の違いなのでどうしようもない。

「そもそもお前はスタンに近づきすぎだ」

 まさかの飛び火だ。怒りの矛先がスタンから私へ移った。なんてこった。

「え、私ー!? ルーティたちと変わらず普通に接してるつもりなんだけど」

「あいつは男だ。用心しろ」

「ひええ、お兄様ってば心配性」

の事になると坊ちゃんは視野が狭まるなぁ』

 もしかしたら、まだ根に持っているのかもしれない。任務を受けた日の夜にスタンと二人で話してたこと。全然やましいことなんてしていないのになぁ。

「とりあえず、基金を出てきちゃったし情報収集でもしよっか。一刻も早く建物の中に入りたい」

 このままでは本当に干乾びると思った私はリオンに提案したのだった。




執筆:23年9月7日