とある休日。私はメイドさんに淹れてもらった紅茶を飲みながらじっとリオンを見つめていた。ふとリオンと目が合うと、リオンは怪訝そうに私を見る。
「何だ」
リオンの頭のてっぺんから足の先を見て、私はため息をつく。
「全然伸びないよねー身長。今159cmでしょ?」
年頃の男の子でありながら、私との身長差はわずかだ。私の言葉にリオンが顔を真っ赤にさせた。つかつかと私に歩み寄り、上からものすごい形相で睨んでくる。
「何故お前が知ってるんだ」
「やだなー、それは企業秘密だよ。あと、目測だけど――上から72、54、81だろうか?」
「お前――この変態め!」
シャルティエを抜いてブンブン振り回すリオン。さりげなく紅茶を零れないところに退避させて避けまくる。
「きゃー! ははははーん!」
私は笑いながらリオンから逃げ回った。剣でリオンに勝てたことはないけれど、逃げ足で負けた事はないんだぜ!
ようやく諦めてくれたのか、リオンが悔しそうな顔をしながらシャルティエを収める。すっかり不機嫌になってしまったリオンは乱暴に椅子に腰掛けた。すると、シャルティエがクスクスと笑う。
『は坊ちゃんをおちょくるのが好きだね。ていうか、何で坊ちゃんのスリーサイズがわかったの?』
ソーディアンという、意思を持つ剣。それは世界に6本しかないとされる貴重な剣で、シャルティエはその中のひとつだ。彼らの声を聞くにはソーディアンマスターの素質が必要で、普通の人に彼らの声は聞こえない。リオンはシャルティエのマスターで、普通にシャルティエの声を聞くことが出来るけど、何故か私もシャルティエの声を聞けるのでマスターの素質はあるみたい。たまにシャルティエを拝借しては傷を治すのに晶術を使わせてもらったりもする。ただし、これはマリアンの前で使うと怒られる。
「ずっとリオンのことを見て来たからかな? ね、お兄様のこと大好きだし!」
リオンの腕に抱きつくと、リオンはほんのりと顔を赤く染めた。
「付き合いきれんな」
「なんなら体重も当てようか?」
「殺すぞ」
リオンが私の顔面を鷲掴むと、シャルティエは「あはは」と苦笑した。この団欒の時がなんとも居心地良くて、ずっと続けばなぁと思う。
――その時、突如大きな音を立てながら部屋のドアが開かれ、城の兵士が慌てた様子で入室した。
「失礼いたします! リオン様と様に緊急の任務を伝えに参りました」
大きな音にビクッと肩を震わせた。ああ、吃驚した。折角のほのぼのタイムに、いきなりなんなの。
「お前、誰の許可を得て屋敷に入ってきた」
リオンも貴重な休日を邪魔された事にイラついているのか、とても不機嫌そうな表情で兵士に詰め寄った。慌てた兵士がタジタジになりながら後退りをする。
「し、しかし――」
「リオン、落ち着いて。とりあえず任務の話をどうぞ」
これじゃあ話にならないと思い、兵士からリオンを引き離す。兵士は安著の息を吐いたが、リオンはチッと舌打ちをした。
「指名手配されていた盗掘者を見つけたとの通報がありました。その者たちは奇妙な武器を用いるらしく、至急応援でハーメンツ村へ向かって欲しいとのことです」
「奇妙な武器、だと?」
「奇妙な武器――」
この世に存在する奇妙な武器といえば、ソーディアンだ。もしかしたらその盗掘者たちはソーディアンを使うのかもしれない。だとしたら、一般の兵では歯が立たないはずだ。リオンもそれを察したのか、シャルティエを見て不敵に微笑んだ。
「なるほど、そういうことか。休憩は終わりだ、行くぞ」
「あーあ、折角のオフの日が台無しだよねー」
「つべこべ言うな。さっさと行くぞ」
リオンは兵士から勅命状を受け取ると、マントを翻した。私も愛用の剣を腰に掛け、残った紅茶を飲み干した。
執筆:04年1月
修正:13年10月15日