私とリオンがハーメンツに着いた頃、この村にはふさわしくない喧騒が渦巻いていた。遠くに複数の兵士達が倒れているのが微かに見える。やっぱり相手はソーディアン使いなのだろうか。これは気を引き締めなきゃ、こっちもやられるなぁ。
「おい、指名手配されていた人物はどうなった。状況を報告しろ」
村の入り口を固めていた兵士にリオンが状況説明を求める。すると、兵士はリオンと私を見て意地悪く笑った。
「これはこれは客員剣士殿。女を侍らせて点数稼ぎの任務とはご苦労な事で」
この兵士の顔は見た事がある。以前からリオンにつっかかってくる奴だ。自分より若くてしかも華奢なリオンが自分より立場が上で気に入らないのだ。でも、そういう奴というのは大抵リオンの実力を知らない。リオンのことを何も知らないくせに、しかも私の目の前でバカにされて、腹が立つ。ムッとした私は兵士を鋭く睨みつけて舌打ちをした。
「なんだとてめー殺すぞ。さっさと報告――」
「相手にするな、。お前の相手はこいつではなく奴らだろう」
リオンは剣を抜こうとする私を制すると、冷静に隣にいた別の兵士に状況を聞きだした。
「村の宿で盗掘者たちを包囲したものの、苦戦中です」
「わかった。行くぞ、」
「――はい」
リオンは若い上に容姿もこんなんだから、ナメられることが多い。だから、私がしっかりリオンをフォローしなくちゃいけない。リオン自身も酷い事言われても負けずに頑張ってるんだから。こうなったらこの任務でリオンの実力を兵士達に見せ付けるしかない! 私、リオンの補佐頑張ろう! 超頑張ろう!
※ ※ ※ ※ ※
盗掘者たちが包囲されている宿に向かうと、そこには金髪の青年、黒髪の女性、赤い髪の女戦士がいた。指名手配書に載っていたからわかる。黒髪の女性がルーティ・カトレット。赤い髪の女戦士の方がマリー・エージェント。両名ともレンズハンターとして名を轟かせている。だけど、あの金髪の青年はいったい誰?
「――――」
三人を見たリオンが一瞬険しい顔になった。
「リオン?」
「いや、何でもない」
そう言ってリオンはマントを翻した。
いや、リオンは何か隠してる。あの三人の中に知り合いでもいたのだろうか。しかし今はそれどころではない。盗掘者を華麗にひっ捕らえてリオンの実力を見せびらかすんだ。
『声が聞こえます……あれは、アトワイト? それに、ディムロスも!』
「やはり奴らはソーディアンを持っていたのか」
シャルティエの言葉に、リオンの顔つきが変わった。これは本気モードだ。私も油断しちゃいけない。
「ルーティはやっていないって言ってるじゃないか!」
金髪の青年が、兵士を倒し主張する。彼が倒した兵は隊長クラスの者だ。それを倒してしまうだなんて、こいつはかなり強い。だけど、こっちだって負けられない。
「まぁ、しかし通報があった以上はこちらも動かないといけないんだよね。仕事なんで」
私は兵士たちの前へ出て剣を構えた。金髪の青年が私を見て、目を見開く。
「き、君は――!」
え、何? 私? 金髪の青年が、口をパクパクさせながら私を見つめた。
「スタン! 何ぼやっとしてんのよ! こんな奴らさっさとやっつけて逃げましょ!」
「で、でも……いや、今は逃げなきゃ、だよな」
ルーティの言葉に、スタンと呼ばれた金髪の青年が剣を構えたその時、リオンがスタンの前に立ちはだかった。
「事情も知らずに正義の味方を気取る……お前、どこのバカだ?」
リオンにバカと言われたスタンがつんつんな金髪を揺らして怒り出す。
「ばっ、バカじゃない! スタン・エルロンだ!!」
「あんた誰よ? それに、あんたの持ってる剣、ソーディアンじゃないの?」
ルーティがリオンの持っているシャルティエを見て眉間に皺を寄せた。シャルティエは見つかってしまったとでも思ったのだろう、「う……」と言葉を詰まらせた。
「セインガルド王国客員剣士リオン・マグナスだ。お前達を捕縛する」
「あたしたちはこんなところで捕まるわけにはいかないのよ!」
ルーティが仕掛けたと同時に、私は動く。
「悪いけど、逃がさないよ」
「きゃっ……!」
ルーティの攻撃を受け止め、蹴り飛ばす。するとルーティは壁に頭をぶつけ、そのまま失神したようだ。はい、一丁上がり。
「ルーティ!!」
スタンがこちらに加勢に来るも、リオンがそれを阻止した。
「お前の相手は僕だ」
リオンの華麗な技がスタンに決まっていく。ふふーん! どうだっ! うちのリオンはこんなにも強いんだぞ!
「隙アリだ!」
「ぎゃっ!?」
リオンに見惚れていた私に、マリーの攻撃。あと少し反応が遅れていたら直撃だったわ危ない危ない! それにしても、マリーは強い。女性ながらにパワーのある攻撃を仕掛けてくる。ソーディアン使いではないとはいえ、これは結構手強い。
――だけど、だ。
「デルタレイ!」
ソーディアン使いではない私も、晶術が使えちゃうんだな、これが。レイノルズさん考案の装置で、ソーディアンのように私の剣に取り付けたレンズを用いて術を発動するという仕組みだ。
私の放った術はマリーを直撃し、マリーはそこで倒れた。さぁて、リオンの方も終わったかな?
「術ばかりに頼るなといつも言っているだろう」
「あでっ」
振り向きざまに後頭部を叩かれた。どうやらリオンの方も余裕でスタンを倒したらしい。周りの兵士たちは感嘆の声を漏らしていて、ふと村の入口の方を見ると、先ほどのクソ兵士は信じられないといった表情で真っ青になっていた。ふふん、ざまあみろ。一瞬ニヤリと笑って、私はリオンに言い訳を始めた。
「だってぇー、マリーと私じゃあ絶対私の方がパワー負けしてますしぃー。それにー、早く片付けてリオンの援護しようかなって思ったんですよぉー」
「余計なお世話だ」
リオンはふんっとソッポ向いた後、早速兵士たちを呼び集めた。
「こいつらを城まで連行しろ」
「はっ!」
リオンは兵たちに連行されるスタンたちを見て、どこか寂しげな表情を浮かべていた。
執筆:03年1月
修正:13年10月17日