藍先輩への想いに気づいてからというもの、私は常に藍先輩の事を考えている。
最近では一分一秒でも早く藍先輩に会いたくて、たまらない。
あと少し。あと少しで藍先輩に会えるんだ。
このかったるいHRの…龍也先生のお話さえ終われば待ちに待った放課後!
龍也先生が私の熱い視線に気づいて表情を引き攣らせたけど気がつかなかったことにしよう。

「はぁ…!」

それにしても、龍也先生の話は長いな。
こんなに長かったっけ?

「また、ため息ですか」

「ん、一ノ瀬くん」

隣の一ノ瀬くんが苦笑いを浮かべている。
おっと、私ったらまたため息をついてしまっていたのか。

「また、例の美風先輩に何かされたのですか?」

心配そうな顔で私を見つめる一ノ瀬くんが小声で問いかけてくる。
先日、一緒にテスト勉強をしてくれるはずだったのに藍先輩が私を部活に強制連行したあの日から、
一ノ瀬くんに藍先輩の事を話していなかったんだった。

「実は、あの後色々あって…藍先輩とは上手くやれてるんだよ」

「藍、先輩?」

私の言葉に一ノ瀬くんが一瞬眉間に皺を寄せた。
呼び方が変わったことに気づいたのだろう。
いつの間にそんな名前で呼ぶような仲になったんだと驚いているのだな。フフフ。
思えば…一ノ瀬くんのおかげで藍先輩と和解できたわけだし、
私が恋できたのは一ノ瀬くんのおかげだと言ってもいいかもしれない。

「ありがとね、一ノ瀬くんがテスト勉強に誘ってくれたから藍先輩のこと理解できたんだ」

「…そう、ですか」

なんとなく不機嫌そうに呟いた一ノ瀬くんは私から視線を逸らした。
そうだよね、あんなに嫌ってた藍先輩から助けようとしてくれてたのに、
私ってばあっさりと藍先輩の事好きになっちゃったんだもんなぁ。
一ノ瀬くんからすれば、何コイツって感じだよね。
なんか、申し訳ない事しちゃったかな…。謝った方がいいのかな。

なんて思っていたら、龍也先生の話が終わり、解散となった。

私は鞄を手にして一目散に教室から飛び出した。
早く藍先輩に会いたい!

教室から出てすぐに、私はそこにいるはずのない藍先輩の姿を見つけて足を止めた。
藍先輩が、私の教室の前で壁に寄りかかってスマホいじってる…!
そんな姿までももう胸キュンしてしまう。
藍先輩は私に気づいて、私の前にゆっくりと歩いてくる。

たちのクラスは終わるのが遅いよね。担任は…日向先生か」

「藍先輩!?な、な、何で…!」

この教室に何か用事でもあるのだろうか…それとも私を迎えに来てくれた…とか。
ありえないけど、もう予想外の場所で藍先輩に会えた嬉しさで興奮が収まらない。

「別に、たまたま近くを通ったから寄っただけだよ。ショウは?」

「ま、まだ帰り支度していると思いますっ」

藍先輩はふーんと短く応えて、私の顔をじっと見つめた。
な、何、なんなの、なんですか。どうして私の顔を見つめてくるんですか藍先輩!
どんどん顔に熱が篭っていくのを感じながら、私はぐっと鞄を持つ手の力を強める。

「いつもはショウと一緒に来てたのに、最近ひとりで来てるけど、ショウと喧嘩でもしたわけ?」

…え?翔ちゃん?
確かに最近私は翔ちゃんを置いてさっさと一人で部室に向かっちゃうけど、
別に喧嘩とかしてはいない。多分、私が早く部室に行きたいってことは
翔ちゃんもわかってくれてるから何も言ってこない。

「喧嘩はしてませんよ」

ただ、私が一秒でも早く藍先輩に会いたいだけなんです…。
まさかそんなこと藍先輩に直接言えるわけ無いんだけどね。

「藍先輩に早く会いたいからってちんたらしてる翔ちゃんを置いていってるなんてことはないですよ」

「へぇ、ボクに早く会いたいからなんだ?」

藍先輩が不思議そうに私を見る。
…え?私、今声に出してた…?

「あ…あああ…!?」

あああああああああああああああああああああああ!やっちまった!
ど、どうしようこれ!もう藍先輩の事が好きですって言ってしまったようなものだよねぇ!?

が部活に熱心になってくれたのは嬉しいけど、ボクは別にに早く会いたいなんて思わないけどね」

しかし、藍先輩は『藍先輩に早く会いたい』イコール『藍先輩に早く会って指導して欲しい』と解釈したようだ。
そして私は藍先輩にとって割りとどうでもいいような存在のようで。
…わ、わかってはいるけれどこれはこれで泣きそう!

「…そう、ですか」

藍先輩は私のことなんて眼中にないんだなぁ。
そもそも、藍先輩って仲のいい友達とか…特に仲のいい女の子とかっているのかなぁ。
藍先輩とは部活でしか会えないから部活以外での藍先輩の事って知らないんだよね。

「あのー、藍先輩って、仲のいい人はいるんですか?」

自分から聞いておいてなんだけど、今私すっごい失礼な事聞いたよね。
いい方変えたらこれってお前友達いんのかよってことじゃん。
それでも藍先輩は顔色ひとつ変えずに答えてくれた。

「仲がいいかは知らないけど…一般的に友達と呼べる人物なら何人かいるよ」

やっぱり、いるよねぇ…。
答えていただけたことは嬉しいんだけど、もう少し具体的な情報が欲しかったです藍先輩。
その中に女子は含まれるんですかとか聞いたら流石にまずいよね。

「あと…最近といるのは楽しいよ。それって、仲がいいからってことかな」

…え。

「ほら、ショウを連れてこよう。早く部室に行こうよ」

硬直した私にムッとしながら藍先輩が私の手を取った。

私といるのが、楽しい…?仲がいい…?
それに、今私藍先輩と手を繋いでる…?

「あ、あああのあの!!私も藍先輩と一緒のときすごく幸せです!!!」

「…そう、ありがと」

まるで当然でしょって言っているかのように不敵な笑みを浮かべる藍先輩。
もう私は藍先輩無しじゃ生きてゆけないんじゃないかと思った。


執筆:12年05月31日