…俺の担当教科で赤点取るなんていい度胸してるな」

「滅相もございません」

「再テストで80取れるまでお前だけ部活禁止だ」

期末テストの数学で赤点を取った私は職員室に呼ばれ、龍也先生のお叱りを受けていた。
中間の時も数学は50点いかなくて酷いなーって思ってたのに、更に酷い。
30点取れば平気だし!とか余裕ぶっこいてた私、死んでしまえ。
翔ちゃんも一緒だから平気とか思ってたのに、あれですよ。あの野郎、裏切りやがった。
32点ですって!私と3点しか違わないくせに。
これが、レッドポイントの壁は越えた者と越えられなかった者の差か。
それにしても、部活禁止って!!

「先生は私の恋路を邪魔するおつもりですか!?」

「ん…?ああ、2年の美風藍か。美風に会いたいなら、再テストで80点をとることだな」

先生の口からまさかの想い人の名前が出てきて、私の顔は火が点いたようにぼっと熱くなった。
えっ、何で先生は私が藍先輩を好きだって知ってるの!?
翔ちゃんか!?あいつがバラしたのか!?あの野郎、龍也先生と何気に仲がいいからな!くそう!

「お前な、どうしてって顔してるけどわかりやすいぞ。
提出したノートは特に酷かった、余白にぎっしり美風藍って落書きしてたらそれはわからない方がおかしい。
それと、病院行った方がいいんじゃないのか?」

「先生、恋の病は病院じゃ治せないんですよっ」

「いや、俺が言ってるのは精神科でだな」

先生はゴホンと咳払いをすると、ぴしゃりと宣言した。

「とにかく、補習と再テストだ。3日間猶予をやるから心して挑め」

その言葉に、私は顔を真っ青にした。
Oh…神よ龍也先生よ、貴方はなんて酷いことをするの。
おでこからじわじわと髪の毛が後退してしまえ!










「補習で部活に出られないだって?」

「は、はい…数学で赤点を取ってしまったので、日向先生に部活に行くのを禁止されました」

休み時間、藍先輩の教室に報告に行くと藍先輩はゴミを見るような目で私を見た。

「ふーん」

ふーんって!
いや、藍先輩の態度が冷たくなるのは予想の範疇だけど。やっぱりきついぜ、藍先輩!
そりゃあ、赤点を取るっていうだけでも藍先輩からしたらありえないことかもしれないけどさ。
しゅんとしている私に、藍先輩は更に追い討ちをかけてくる。

「何で勉強しなかったの?」

「部屋の掃除に夢中になってしまいました」

「バカなの?」

「はい、バカです」

うわあああ、藍先輩の目つき、超怖い。
自業自得だよね。でも、部屋の掃除に逃げたくなるくらい難しい数学さんがいけないんだよ。

「はぁ…とりあえず了解したよ。
それと、さっき君のクラスの一ノ瀬トキヤが入部届を提出してきたんだけど、どういうこと?」

「えっ、一ノ瀬くんがですか?」

思いもよらないことに、私は驚愕した。
まさか、一ノ瀬くんが合唱部に入部するなんて…本人からも何も聞いてなかった。
一体どういうことなんだろう。
藍先輩は怪訝そうな顔をしてポツリと呟く。

「確かに彼は即戦力なるけど、ちょっと気になるんだよね」

藍先輩の言う気になる、というのはよくわからないけれど…。
そういえば一ノ瀬くんは一度合唱部に来てくれたことがあった。

「あの、先日藍先輩が風邪でお休みした時に一ノ瀬くんが
藍先輩の代わりに私の指導をしてくれたんですけど、
もしかしたら合唱部に興味を持ってくれたのかもしれません!」

そのことを藍先輩に伝えると、藍先輩は少し考えた後にふっと笑った。

「…なるほど、ね。彼の目的がわかったよ」

「え?目的?」

一体どういうことなんだろう。
一ノ瀬くんが何か企んで合唱部に入ったってこと…?
そんな様子は全然無かった気がするんだけど…。

「それより、は補習でしょ。まったく、日頃から勉強してれば普通赤点なんてとらないよね」

「そうですね、赤点とった私がいけないんです。とにかく頑張ります…」

改めて藍先輩に言われてテンションが下がる。
…はぁ、何で部屋の掃除なんかしちゃったんだろう。
あと一問正解していれば30点を超えてギリギリ赤点を免れることができたのに…!
過去の行いを後悔していると、藍先輩が私の頬を抓んだ。

「ボクが教えるんだから一発で80点とらなきゃ許さないからね」

「いででで………え?あ、藍先輩が、教える…?えっ!?」

な、何で、何が起こってるの…?
藍先輩が私の頬を引っ張りながら不敵に笑って、私に数学を教えてくれるって?

「どうせ1人じゃ理解できないでしょ?」

「…はい」

「じゃあ、今日の放課後からね」

藍先輩がそう言い残して教室へと戻っていってしまった。
まさか、藍先輩が私に付き合ってくれるだなんて…!
もしかして、龍也先生のおかげ!?
ハゲろとか思ってごめんなさい!私、頑張ります!



執筆:13年3月28日