学校に来たものの、どうしても眠気に勝てなくて終業式を保健室でサボって携帯を弄っていた…ら、
いつの間にか寝てた。
期末テストも終わり、補習も藍先輩のおかげで乗り切れ(安定のスパルタだったよ藍先輩!!)
そんなわけで明日から夏休み。
我が合唱部は人数と男女比の都合でコンクールには出られないけど、数日だけ活動があるらしい。
あーあ、藍先輩に会えない日々が続くと考えるとツラい。
翔ちゃんやなっちゃんみたく気軽に遊びに誘える関係ではないから、
藍先輩に会うのは部活でしかチャンスが無い。
はぁ、欝だ。

うーん、それにしてもよく寝た気がする。
起きて携帯画面の時計を見た…ら。
まさかの部活の時間になっていて私はギョッとした。
やばい。何でこんなに寝ちゃってたんだろう。
きっと昨夜遅くまでゲームをしていたせいだ。
ていうか、翔ちゃんめ。迎えにでも来てくれればいいのに。
幼なじみが心配じゃないのか!

その時、保健室の前から翔ちゃんの声が聞こえてきた。
なーんだ、ようやく迎えに来てくれたのか。
声が聞こえてきたってことは、なっちゃんも一緒なのかな。
ふふふ、寝たふりでもしてやろーっと。

、いる?」

ガラっと扉が開けられて聞こえてきたのは翔ちゃんの声でもなっちゃんの声でもなかった。
…え?え?え?
エーーーーッ!?藍、先輩…!?

「…何だ、寝てる。本当に調子悪かったんだね。だし、てっきりサボってただけだと思ったのに」

シャーッと音を立てて仕切りのカーテンが開かれた。
藍先輩の視線を感じる…!
何なんだ、これは一体どういうことなんだ!
翔ちゃんはなっちゃんではなく藍先輩を連れてきたのか!?いやしかしどうしてそこで藍先輩!?
ていうか、藍先輩はよく私を解っていらっしゃる…!
はい、実はサボリです!

「朝から体調悪そうにしてたからなぁ、こいつ。夏風邪でもひいたか?」

翔ちゃん…ごめん、それ眠かっただけ。
体調悪そうに見えたのは申し訳ないけどただの寝不足!

「…ところでショウ」

「なんだよ、藍」

私が胸の中で絶えずツッコミを入れていると、二人の雰囲気が急に真面目になった。
何だろう、何を話すんだろう。はーい、私、起きてるんですよー…?

「ショウはさ、どうしてが好きなのにボクとをくっつけようとするの?」

藍先輩の爆弾発言に、翔ちゃんがブハッと吹き出した。
私は一瞬藍先輩の言葉の意味を理解できなくて眉間に皺を寄せる。
はい?翔ちゃんが私を好きだって?
寝ていると思われているとはいえ、本人を目の前にしてなんという話をしているのだこの二人は!

「な、な、何言ってんだよ!!別にオレはのことはただの幼なじみだと思ってるし、それにお前とをくっつけようともしてねぇし!」

「ほんと、ショウももわかりやすいね。態度でバレバレだよ」

………ん?
ちょっと待って下さい藍先輩。
どうして私の名前が出てきたんですか。
空耳、だよね?そうだよね!?
えっと、私もわかりやすいってことは、つまり…!?

「別にボクはのことは嫌いじゃないけど、彼女の気持ちには応える気はないよ。
だから、ショウがと付き合えばいいんじゃない?」

藍先輩の言葉に、私の身体から血の気が引いた。
私の気持ちが藍先輩にバレていた?
それに、藍先輩には気持ちが無くて、私と翔ちゃんがくっつけばいい…って。
あれ、なんだこれ。私は告白もさせてもらえないで、藍先輩にフラれたってこと…?
やだな、色々ショックすぎて、涙も出てこない。
シーツをぎゅっと握って唇を噛んだ瞬間だった。

「…確かに、オレはこいつが好きだ」

翔ちゃんが、ポツリと呟いた。

「でもな、が好きなのはオレじゃねぇんだよ。オレは、が幸せに笑ってればそれでいい。
だからオレはを応援する。お前にその気がなくてもな!」

翔ちゃんの気持ちが、ただただ嬉しかった。
だけど、思い返してみると私は翔ちゃんに酷いことをしてしまったんだ。
翔ちゃんは私のことを好きなのに、私は藍先輩のことばかりだった…。
知らなかったとはいえ…なんということを、してしまったのだろう。

「…そう。ボクには理解できないよ」

藍先輩が冷たく言い放った。
そして一人分の足音が遠ざかり、保健室のドアが開いて、閉まる音がした。
…そこにいるのは。

「…翔、ちゃん?」

私は起き上がりながら声をかける。
するとカーテンの向こうで少し小さな影が揺れた。

…ごめん。起きてたんだろ?」

翔ちゃんが申し訳なさそうに顔を出す。

「うん」

色んな思いが交じり合って、どうしたらいいかわからない。
だけど、これだけは言わなきゃと思った。

「翔ちゃん、ありがとう」

私のことを好きになってくれて。
私の恋を応援してくれて。
いつも、傍にいて助けてくれて。

翔ちゃんは目尻に涙を溜めながらニカっと笑う。
そしたら、翔ちゃんの頬に一筋の涙が流れた。



執筆:13年5月2日