放課後、教室に残って翔ちゃんと談笑していた。
そういえば、と思って今朝起きたことを翔ちゃんに話したら、思いっきり爆笑された。
「あははははは!天使に毒を吐かれたぁ?つか、そんなの天使って言わねーだろ」
大体そんな天使みたいな顔をした美少年がこの学校にいるのかよとバカにされる始末。
確かに、あんな美少年一度見たら忘れないはずなのに、今まで見たことないな。
もしかして私の生み出した妄想の産物なのだろうか…。うーん。
「私、飢えてるのかな…もしかしたら妄想で毒舌天使を産み出したのかも」
「飢えてるって…俺と那月と一緒じゃつまんねーってことかよ」
もちろん、私が言ったことは冗談なんだけど翔ちゃんが少しむすっとしてしまった。
うわぁ、翔ちゃんってば嫉妬してくれてる!可愛いなぁ、もう!!
「嘘だようーそ。だって今は翔ちゃんとなっちゃんがいるだけで楽しいもん」
「そりゃどーも」
翔ちゃんはぶっきらぼうに答えたけれど、顔がほんのり赤くなっていた。
素直じゃないなぁ。本当は嬉しいくせに!
私がニヤニヤしながら翔ちゃんを眺めていると、翔ちゃんはなんだよ…と睨んできた。
その後、何かを思い出したように手を叩く。
「あっ!そういえばさ、部活入らねー?」
部活、と言われても色々ある。
翔ちゃんは何か入りたい部活でもあるのかな。
「何の?」
「合唱部だよ!すっげー興味あるんだ」
合唱部…。
うちの学校はレベルが高く、何度もコンクールで優勝したと聞いている。
だけど、レベルが高すぎるあまり退部する人も多いとか。
確か今年は廃部寸前の危機に陥っていると聞いたけれど…。
でも、翔ちゃんもなっちゃんも歌うことは好きだし、私も嫌いではない。
うん、いいんじゃないかな。
「お、いいね。なっちゃんも誘って見学だけでも行ってみよっか」
「そうだな!」
翔ちゃんは私の返事を聞くと、素早くケータイを取り出した。
何コールかして、なっちゃんが電話に出る。
「もしもし、那月か?今から部活動見学に行こうぜ!」
『いいですねー!でも、今日は日直なので遅れていってもいいですか?』
「わかった。じゃあ俺とは先に見学してるから終わったら連絡くれよ」
『はーい。ふふっ、楽しみだなぁ』
スピーカー設定にしてくれたおかげで、二人の会話を聞くことができた。
翔ちゃんは電話を切り、苦笑いを浮かべる。
「…だとさ」
「なっちゃん、遅れてくるんだね。了解」
「ああ。…それじゃ、音楽室行こうぜ」
「うん」
とりあえず2人で音楽室に向かった。
グランドからは、運動部の元気な声が校舎内まで響いてくる。
私たちの他に、部活の見学をしている人たち何人かとすれ違ったけれど、
大体の人はもう部活を決めたのだろう。
…なんて考えている間に音楽室に到着した。
翔ちゃんが無遠慮に扉を開けて音楽室に入っていく。
「すいませーん、見学させてもらってもいいですかー?」
翔ちゃんが声を掛けると、中から声が聞こえてきた。
「…見学?いいよ」
凛とした、中性的な声。
あれ、なんだか聞き覚えのあるような…。
私は翔ちゃんを押しのけて音楽室の中を覗いた。
なんか、胸騒ぎがする…。
「失礼しまーす!」
そして驚愕した。
音楽室で一人窓辺にただずみ、こちらを見ている天使改め、合唱部員。
向こうも私に気付いて、表情を曇らせた。
「…今朝の最低女。何でこんなところにいるわけ?」
「…………やっぱり帰っていいですか」
音楽室にいたのは、二度と会いたくないと思っていた毒舌天使でした。
執筆:12年05月31日